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小説『黒猫りんの物語世界』

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統合失調症の急性期を超え、退院してから少し経った頃の、女性と、その仲間たちの物語です。読みやすさと、明るさを、考えて書きました。
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記事一覧

黒猫りんの物語世界1

1、黒猫りんと三毛猫にゃん太 早朝、カーテンを開けると、光が飛び込んできた。闇が払われ照らされた部屋も、私も、見た目は数か月前と変わらない。 なのに、すべてが変わってしまった。 多くを失ってしまった。 そう思った。 ふと、そんなことはないと反論する自分がいる。障がい者になってしまったからといって、笑って生きてはいけないなんて、うつむいて端っこを歩かなきゃいけないなんて。 そんなことは絶対にない。 背中に負いきれないほどの重荷を引きずりながら生きてきて、希望に見えていたもの

黒猫りんの物語世界2

2、美しすぎるお友達 「ただいま」 デイケアに通い始めてから三か月、すっかり秋の気配。 庭の楓が例年通り、赤く色づいている。 私はドアを開き、台所にいる母に挨拶すると、二階の自室に戻っていく。 運の問題なのだろうか。 それとも自らの因縁なのだろうか。 生まれつきの宿命なのだろうか。心が病気になってしまったあと、病院から退院してから居るべき場所が、それを受け入れてくれる環境かどうか。 私の家族は、病んだ私に歩み寄ってくれている。 そういう家庭もあるし、そうじゃない場合も多々

黒猫りんの物語世界3

3、りゅうちゃんとの再会 白と黒、表と裏、闇と光、陰と陽、どんな物にも正反対の何かがあるのだとすれば、心の正反対は体だろうか。 心は見えないし触れられないけれど、体は触れられる、目にも見える。 目に見えるようになった、言葉や行動として現実化されたものからしか、心はうかがえない。 体は心をうつす鏡のようなものだと思う。心もまた体と一体で、合わせ鏡のように、お互いを映し出しながら存在しているようなイメージだ。 その体も心も、どちらも大事で、関連しあって成長し学びながら、生きてい

黒猫りんの物語世界4

4、私の物語 ここに、私だけの物語がある。 取り巻く世界を、どう五感で感じているかというのを基礎に造られた、私だけの世界の物語。 それはある事件に会うまでは、正常に紡ぎあげられていた。 私はいまだに、その事件のもたらした苦しみに縛られている。 解き放つ方法も見つからない。 どうしたら、壊れるくらい辛かった出来事を、切り離すことができるというのだろうか。 果たして、私はなぜこんなになってしまったのか。 思い返したくないから、ふたをしていた部分が、あるいは、怪我を守っていたかさ