日本では都市と港湾とは両立しにくい

都市に必要なのは広大な後背地で、それは往々にして平野である。山がちな日本において平野は主に河川の下流の沖積平野である。一方、港湾の適地は大型船が航行・接岸できるくらい水深が深く、かつ外洋の荒天から守られていることである。日本でその要件を満たしているのは主にリアス式海岸である。リアス式海岸は山が沈降して水没した地形なので、水深が深い反面、平地が乏しい。都市に適した沖積平野と港湾に適したリアス式海岸とは両立しないので、よって自然の地形のままでは都市と港湾とは両立しない。日本で古くからの港湾が大都市になりえないのはそのためである。だから小樽は大都市にならず、代わりに、水はけの良い豊平川の広大な扇状地に位置する札幌が発展した。唯一の例外が長崎で、なまじ三菱の巨大な造船所があって仕事があるものだから、狭い所に人がひしめき合っている。トンネルを掘って山の反対側にニュータウンを造成したりしているものの、基本的には平地が乏しく大勢の人が住むのには適さない町である。リアス式海岸の釜石には製鉄所があるが後背地が乏しいため、都市として発展することはなかった。函館は天然の良港だが、工業都市にはならなかった。

日本では見かけないが、川沿いに港のある都市もある。河口付近でなければ堆積物があまりないし、大きな河川なら幅も水深も十分にあるからである。代表的なのはロンドンで、欧州の玄関口ロッテルダムもマース川沿いの内陸港である。他にはハンブルクやフィラデルフィアも内陸港である。平坦な地形であれば広大な後背地を確保することもできるので、港湾を中心とした大都市を形成しやすい。

新潟港は信濃川の河口にあり、北前船と信濃川の水運との結節点として発展した。河口にあるのは水運との接続もあるが、海岸が砂丘なので河口にしか港を作れないというのもある。しかし信濃川の河口では手狭なので、聖籠町に新潟東港が作られた。ここも砂丘だが、陸地を掘り込んで外航船が接岸できる港を作った。

日本で広大な後背地と外航船の接岸に適した水深の深い港湾とが両立するようになったのは、海を埋め立てて埠頭を作るようになったり、海岸を掘り込んで大きな港を作るようになってからである。埋め立ては水深の深い埠頭と平地の両方を可能にするので、大きな港の大半は埋め立てによるものだが、前述の新潟東港と苫小牧港と鹿島港は堀込式である。そこまでできて初めて原料を輸入して製品を輸出する「臨海工業地帯」というものが実現可能になる。しかしそれでも水深の浅い海は不利で、熊本は水深の浅い有明海に面しているので熊本新港を作っても工業都市にはなりえなかった。熊本県で工場が立地しているのは不知火海に面した八代や水俣である。佐賀県も有明海側には商港を作れず、佐賀県の商港は伊万里である。

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