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長い、長い、休日 第9話

【カネチカの話2】

「ひどい!先輩!!人でなしです!」

 いつのまにか、先輩は奴隷を作っていた。直属の奴隷。先輩のもの。先輩の一部。いつか夢見た俺の願い。———もし先輩が奴隷を作るとしたら、自分がふさわしいと今の今まで信じていたし、願ってもいた。なのに、なぜ!こんな!ポッと出の、しかも寄生種なんて!!
「仕方ないだろ、こうしなきゃ早く片づけられないし。——でも、おかげで色々見えてきた」
 もっと詰め寄りたかったが、俺はグッと堪えた。そもそも、奴隷は異種間でしか許されない。
「教えて下さい」
 先輩はポンと俺の肩を叩いた。

「カネチカくん。ごめんね」
 そう言うと、先輩は俺に顔を寄せて———それから。




 ハッと目を覚ます。
 いつの間に寝ていたのか。任務中だというのに。

「あれ?」

 真っ暗だったが、目が慣れてきて周りの様子が分かってきた。ここはタナカの家で、俺の他には誰もいないようだ。………先輩と奴隷タナカはどこ行った?
 と、先輩の最後の言葉を思い出す。なぜ、先輩は俺に謝罪を?奴隷のこと?それともこの状況のこと?

「先輩………気配を消してる。原生生物(ヒト)の装備なのに」

 あの眼鏡を渡したのが徒になったのか分からないが、気配が掴めない。とにかく見つけないと。先輩はきっと寄生種の件で俺にこんなことをしたのだろう。隊員である俺に見られてはいけないようなことをするために。それと、俺を巻きこまないように。
 一体何年先輩のパートナーを務めてきたと思ってるんだろう。今回は先輩が休暇を取ったから、あのキャプテンの隊に派遣されたが、そうでなければ今だってずっと先輩と任務をこなしていたはずだ。こんなことなら、先輩の休暇申請を無理にでも押し通さなければ良かった。今更後悔しても遅い。とにかく捜そう。無茶をする前に。

「俺だってダテに先輩の相棒やってたわけじゃないんですからね!」

 先輩の気配を全集中で捜し当てる。と、背後に気配を感じ体が勝手にはじけ飛び、ソレを避けた。
 避けざま、ソレが視界に入る。
「タナカ!?」
 タナカの手が伸び、俺を掴むとあっという間に押し倒され、ガッシリ押さえ込まれた。あり得ない。だが、先輩の奴隷なら朝メシ前なんだろう。
「大人しくしてください」
「うるさい!先輩はどこだ!」
「あなたの為なんです」
 嫌な言葉だ。俺の嫌いな言葉。嘘の言葉。本当の意味は「言うことを聞け」だ。
「先輩………どうして」

 どうして俺を連れて行ってくれないんですか?
 まだ駄目なんですか?
 俺は足手まといですか?
 俺じゃ駄目なんですか?

「どうして…………」

 ひとりで全部背負い込むんですか?

 同じだ、あの時と。
 一緒に組んでいたあの時と。
 俺は先輩の右腕だと自負していたが、すぐにソレが間違いだと気付いた。
 だから、必死で力を付けて足を引っぱらないように行動していた。
 先輩を守っていたつもりで、守られていた。
 いつも気遣われていた。

 いつも、いつの時も、俺は先輩の足かせにしかなっていなかった。
 先輩の隣にいるのにふさわしくはなかった。
 強くなろうと必死でランクも上げたし、勉強もした。常に、誰にも負けないようにしていた。

 けど、駄目だった。
 俺では駄目だった。
 俺は先輩に何も出来なかった。いや、いない方がマシだった。

 そんなことは分かっていたけど、認めたくなかった。
 認めたら俺は、今までの俺を否定してしまう。
 ソレは死ぬより辛いことだ。

 いつも先輩は「俺に依存するな」と言っていた。
 そう、俺は先輩に依存していた。執着していた。期待していた。
 先輩に存在を認めてほしかった。

 それをやめろと先輩は言う。
 その結果がこれだ。
 先輩は正しい。

 依存する俺を避けるのは当然だ。
 どんなに荷が重かっただろう。
 嫌だっただろう。

 俺は、俺のことしか考えない嫌な奴だ。
 先輩の事を慕っているようで、慕っていない。
 あくまで自分の理想とする先輩を追い求めていただけだ。

 自分勝手で自己中で。

 そんな俺を先輩が選ぶわけがない。

 分かっていた。

 目を背けていた。

 認めたくなかった。

 でも、そうも言ってられない。


「俺は俺のしたいようにしか出来ない」


 そういった瞬間、拘束が解けた。

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