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長い、長い、休日 第3話

 ブラックリスト。

 遭難者という意味でのソレは、もっともタブーとされる存在。
 地球へ隠れ住んでいる不穏分子。それは重罪で、すべての権利を剥奪される。

「マジかよ。じゃあ、どうするんだ?」
「放っておく………しかないですよ。遭難者ではないですから。いや、もっとヤバイものかも知れませんし」
「ヤバイって………まさか?」
 俺はハッとして言葉を失った。まさか、そんな、知りたくない。
「ハイブリッド、ですかね」
 カネチカは何の感情も込めずに、ソレを言った。

 ハイブリッド。俺たちと原生生物(ヒト)の混血。噂程度の存在だが、理論上可能なだけで、実際は稀というか、不可能と言われている。そもそも俺たちは装備をしなければ地球にはいられないし、装備には生殖能力はない。タナカは、そんないるかいないか判らない存在だというのか?この発想は飛躍しすぎかもしれない。

「キャプテン(隊長)はなんて言ってるんだ?」
「危険がないならそこを連絡拠点としろと。タナカさんについては未登録の遭難者ということしか聞いてません。きちんと調べたわけでもないですし、未登録者なんてほぼあり得ないですからね」
 俺たちは基本的に登録管理されている。未登録なんてほぼほぼあり得ない。だが、もし存在するなら、ブラックリスト、もしくは地球生まれという事だろう。「うーん…。まあ調べ切れてないだけかもしれないけど。原生生物(ヒト)としての記憶しかないのに、俺たちを受け入れているし、理解もしてる。ハイブリッドならもっと動揺するだろう。やっぱ魂との融合の線が濃い気がするけどなあ。ブラックリストなら、俺たちを警戒するだろうし…」
「まあ、そういうわけで、タナカさんにはこの話は」
「ああ、分かった。……とにかく今は待機だな」
 話はまとまり、俺たちはタナカの家に戻る。タナカが一体どういう存在なのかは気になるが、今はどうしようもない。

 一方、俺の装備は、ブヨブヨな自己修復状態になっていて、完全修復まで時間がかかりそうだ。どっちにしても装備が直るまでここに留まるしかない。
 部屋に落ち着くと、今後の行動を説明することにした。

「申し訳ないですが、しばらくこちらに厄介になります。隊との連絡もこちらで。………お一人で住んでらっしゃるという話ですが、なるべく他の方を連れてくるようなことは避けて頂けると…」
 カネチカが伝えると、タナカが分かったというように深く頷いた。
「心配いりません。騒がしいのは苦手なんです。ここは見てのとおり山奥ですし、近所も離れてます。元は祖母の家だったんですよ。静かで僕はここが好きなんです。なので、無理を言ってここから大学に通っています。実家は別にあって、滅多に家族は来ませんのでご安心を」
「ありがとうございます。こちらもなるべく早く対処いたしますので、それまでよろしくお願いします」
 話がまとまったところで、タナカが俺に話しかけた。
「ガワ………でしたっけ、それが直るまでゆっくりしてください。それと…」
 タナカは少し困った表情を浮かべた。
「実は、先ほどふと自分の記憶らしきものが浮かんだんです」
「どんな記憶でした?」
 俺が促すと、タナカは思い出しながら言葉を紡いでいった。
「僕はひとりでここにきたんじゃない………そう、あのひと………女の人」
「え?女の人?」
 カネチカが驚いた声を上げる。
「はい。女の人です。僕は女の人と一緒にこっちに…そこで…」
 うーんと唸ると「ここまでしか今は思い出せません」
 俺とカネチカは顔を合わせた。

 今の言葉が本当なら、その女性を当たることで、タナカの謎が解明出来るかもしれない。全ての遭難者が救出されたのかを確認し、その女性について調べる必要がありそうだ。俺たちはもう少しその女性についてタナカに聞くことにした。

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