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その愛は本物ですか?6

第6話

 ごめんなさい。
 ごめんなさい。

 頭の中で誰かが謝っている声が聞こえる。

 ごめんなさい。
 ごめんなさい。

 誰の声?俺の声?分からないけど、もう、謝らないでくれ。
 謝るのは俺のほうだから。———

 目がチカチカする。
 俺は何度か瞬きをして、やっとそこが自分のベッドだと分かった。
 いつの間に俺は寝ていたんだろう?
 混乱する頭の中で、昨日の記憶を探る。友人を止めるために確か———。

「律?」
 声のした方を見ると、ノアが心配そうに覗いていた。なぜか目が赤い。泣いていたのか?
「………ノア?」
「ごめんなさい!」
 そう言ってノアは俺に抱きついた。突然のことで俺は混乱する。
「え?なに…?」
「僕のせいで、怖い思いしたよね」
 何の話をしているんだろう?
 と、「それじゃ分からないでしょう」綺麗な声が聞こえた。
「具合はどうですか?霧島さん」
「ええ?!!!」
 そこには、あのマシューがいた。なんで?どういうことだ?
「先生がいきなり現れちゃもっと驚きますよ」
 更に、俺の友人まで現れた。
 もう、どうなっているんだこれは………。

 頭の混乱はおいといて、すっかり体調の良くなった俺は、場所を移して説明を聞くことになった。
「………で、どういうことか、説明してくれる?」

 ニコニコとしているマシューが「どこから話せばいいんだろう?」と呟く。
「マシュー、僕が説明するよ」
 落ち込んでいたノアが俺に向かい合う。
「元はといえば、僕の所為なんだ…」

 ノアから語られた話は、俺の理解を軽く超えていた。
 それは、俺がこの国に来るずっと前から始まっていたようだった。

 きっかけは、俺が始めたささやかな動画配信だった。


 ノアが律の動画を見つけたのは、ちょうど日本語を勉強していた時期だった。おすすめに出てきたもので、顔出しはしていなかったが、自身で集めたであろう興味深い怖い話を朗読していた。ただ怖いだけでなく、どこか悲しかったり優しかったりした話が含まれていて、内容も魅力的だったけれど、なにより聞きやすく優しい声がとても好きだった。
 夢中になってチャンネル登録もしたが、いつしか更新が滞りある日消えてしまっていた。
 この時のノアは会話は問題なかったが、文章を起こすのが苦手だったのもあり、コメントを残すことが出来なく、消えてしまったときはとても悔しく思った。応援の言葉を残せなかったからだ。その所為もあり、ノアは今まで以上に日本語の勉強を熱心に行った。
 おかげで、かなり上達し日本人を迎え入れることも出来た。

 あれ以来ノアは、あの動画のように自身の国での怖い話や、都市伝説、言い伝えなど不思議な話を集めることが趣味になっていた。何処に発表するわけでもなかったが、なんとなく日課のようになっていた。
 そんなある日、友人の勧めで律とルームシェアをすることになった。学生時代に一時期ルームシェアをした事はあったが、大人になってからは久しぶりだった。友人からは少しどのような人物かは聞いていたが、初めて律を見たときその表情に内心驚いてしまった。


 なんて暗い目をしているんだろう。


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