長い、長い、休日 第10話
「カネチカくんに恨まれるなぁ~……」
俺は風に吹かれながら呟いた。これは俺のエゴに過ぎないが、カネチカを巻きこむわけにはいかない。彼は優秀で未来ある身だ。俺とは関わらないほうがずっと良い。というか、関わってほしくはない。それは儚い願いだけど。
寄生種の目的、行動、全ての寄生種のことは分からないが、少なくてもこの地球における行為、目的は見えていた。だから、俺はそれを見守ることにした。
奴らは原生生物(ヒト)と融合し、俺たちの邪魔はせず、目的を遂行する。
生き物の生存目的は主に(この地球では)繁殖だ。
だが、寄生種はその法則とは違う目的を持っていた。
俺は人気のないビルの屋上から下を眺めた。そこは行き交うヒトで溢れている。とある街の風景。たくさんのヒト、ヒトを運ぶ乗物。ヒトが詰まっている建物。歩き回るヒトの群れ。
この中の何人かは寄生されている。だが、それにヒトは気付かない。寄生種すらも融合されていれば気付かない。
それもそのはず、寄生種はかつてヒトであったからだ。
元のソレが何と呼ばれていたかは分からないが、ある事でそれがヒトから引き剥がされた。寄生種はヒトに戻りたくて現れた。戻って、寄生して融合される。混ざり合う。混ざり合うと寄生種同士も感知できなくなる。そしてヒトと共に朽ち果てるのだ。
「特に害もないし放っておこう」
俺がそう言うと、側に居たシリウスが鼻で笑った。
「そう?」
やっぱり、こいつは性格が悪い。
「知ってて俺が足掻くのを見てたのか?」
シリウスは肩をすくめた。
「なんでそんな………って何度も言ってるな、俺」
言ったところで、こいつはただ俺を馬鹿にして虚仮にするだけだ。俺が一体シリウスに何をしたって言うんだろう。………まてよ。
「これって、あの件の当てつけか?」
「———めけめけ王子くん。まだ囚われているようね」
「またその話か」
「何度でも言うわ。アタシはめけめけ王子くんの事が好きだからね」
「嘘つきだな。好きならこんな意地悪しないだろ。キャプテンにもなってやることじゃない」
シリウスは俺の過去を知っている唯一の存在だ。そして、俺を軽蔑している存在でもある。
「かわいそうに。まだ、あのヒトが忘れられないのね?」
その言葉に、俺は一瞬体が熱くなった。が、その一瞬の怒りに似た感情は直ぐに落ち着く。
「あなたのやった事は無かったことにはならないけど、あれはあなたが思うようなものじゃないわ。もっと純粋な悪よ」
シリウスは言葉のナイフで俺を傷つける。傷つけて当然だと思っているのだろう。だから、会うたびに俺は傷だらけになる。
「ヒトからアレを無理矢理引き剥がしてもヒトは幸せになれないわ」
「………。」
「そんなエゴで寄生種は産まれた。ヒトを弄んだの。だから、あなたは罪を償わなければならないのよ」
「無休で働いてるだろ」
「カネチカはあなたの罪の象徴よ。彼はそれを知らない」
「っ——…」
「更に奴隷まで作った。あの、寄生種で」
口を挟むまいと思っていたが、流石にソレは言わせて貰おう。
「それは君が唆したんじゃないか。何でも俺の所為にするなよ」
シリウスは銃を抜いた。
「やはり、死んだほうがよさそうね」
「なんでそうなるんだ?」
シリウスは俺が死んだほうが幸せだろうと本気で思っている。
だが、それは———
「キャプテン何してるんですか」
そこには、カネチカがいた。やっぱり来たか。
「君はめけめけ王子くんの幸せを願ってる?」
「もちろんです」
「なら死なせてあげるべきよ。楽にさせてあげましょう」
「嫌です」
間髪入れずカネチカは否定すると、俺の側に寄った。
「先輩、俺はやっぱ駄目です。先輩の側を離れたくないです」
なにがやっぱりなのかは分からないが、色々考えたゆえの結論なのだろう。
「もの好きだなカネチカくんは」
俺がそう言うと、カネチカはニッコリ笑った。彼の笑顔は見ていて気持ちが良い。
「はい。自分でも嫌になっちゃいます」
そんな俺たちのやりとりを見て、シリウスはため息をついた。
「カネチカ。救助作業は終了よ。めけめけ王子くんはしばらくここに滞在するわ。装備が修復次第撤収。寄生種の件は、被害もないため切り上げるわ。以上。本部へ戻るわよ」
シリウスの命を聞き、カネチカはまっすぐ見つめるとこう告げた。
「いえ、自分はここに残ります。先輩の身の安全を確保するのもレスキュー隊の任務です。そもそも、先輩は休暇中で、自分が無理に巻きこんでしまいました。なので最後まで責任を取ります」
一瞬間があったが、シリウスは意味ありげな視線をこちらに送ると、その願いを受け入れた。
「そうね。めけめけ王子くんは休暇中だもの。これ以上彼の休暇を妨げるのはよしましょう。では、カネチカ。彼の保護を頼むわ。………定時連絡は怠らないでね」
その言葉を残し、シリウスは去って行った。
「じゃ、先輩家に帰りましょう。一応あそこは拠点でもありますし」
「いいけど、なんで何にも聞かないんだ?」
聞きたいことは沢山あるだろう。なのにカネチカは何にも聞かない。俺はあんなことをしたって言うのに。
「言いたくなったらでいいです」
「………うーん。どうかなぁ」
「じゃ、いいです」
「いいのかよ」
さあ、行きましょう!とカネチカは俺の背中を押す。そのまま家に向かっても良かったが、カネチカが街に出てるなら俺の衣服を調達するというので、彼に任せてひとり先に戻ることにした。彼と別れたその時、聞き覚えのない声が背後から響いた。
「マサキ!———生きてたのか?」
ガッシリとした体つきの男が、俺をじっと見ていた。
誰だコイツ?
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