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想いを受け取り、受け継ぐ使命 Disney+ ドラマ「SHOGUN 将軍」


ドラマ概要と真田広之プロデューサーの想い

Disney+でやっと、世界で話題のドラマ「SHOGUN 将軍」を鑑賞した。
本ドラマの概要は以下の通り。

長らく続いた戦乱の世に終止符を打ち、天下を統一した太閤。
しかし、側室・落葉の方との間にできた世継ぎの八重千代がまだ幼いうちに、太閤は死の床についてしまう。そこで太閤は5人の有力大名を「五大老」に任命し、八重千代が元服して新しい統治者となるまで、合議制で政治を行うように取り決めた。

各地を治めていた大名たちが、それぞれの領地で権勢を震っていた時代である。「五大老」は日本を割ることなく平和を維持するためのものだったが、太閤亡き後の1600年。五大老の中での確執が表面化し、筆頭格である石堂和成と杉山・木山・大野ら他の五大老は一致団結し、関東領主である吉井虎永の権勢を奪わんと大坂城に呼び出した。

孤立無縁となった虎永は、敵の包囲網が迫る中、石堂らと対峙することを決意する。

Disney+「SHOGUN」公式

まず、日本を舞台にし、台詞も基本的に日本語であるこのドラマが、エミー賞というドラマ界の最高栄誉の賞に輝き、世界で認められたことは、ドラマ界での大きなターニングポイントになっただろう思う。
エミー賞受賞より前に、本作のプロデューサー兼主演の真田広之は、とあるインタビューにて「海外で描かれる日本」について、そして本作を製作するに至った経緯や想いを、以下のように語っていた。

(映画『ラスト サムライ」撮影時の思いと現場での行動について)
私自身、海外の作品で日本や日本の文化がともすれば誤解を招きかねない描き方をされているのは忸怩たる思いがありました。ですから、『ラスト サムライ』への出演が決まった時は、自分が抱いた疑問はとにかく正していこう、そして、日本人が見ておかしくない、世界に発信しても恥ずかしくない作品にしようと心に誓ったんです。撮影が行われた半年間は自分の出番がなくても毎日現場に通い、セットや小道具からエキストラの衣装まで細かくチェックしては意見させてもらいました。「うるさいな、お前はもう要らない」と言われたらそれまで、これが最初で最後のハリウッド作品になっても構わないという覚悟でした。

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(SHOGUNのオファーについて)
ジャスティンとレイチェルがクリエイターとして参加してくれることになって、彼らから「日本の文化を尊重したいので、プロデューサーも兼ねてくれないか」とお話をいただいたんです。これまでも、「日本人が見てもおかしくない日本」をハリウッド作品で描きたいという思いがあったので、これはいいチャンスになるんじゃないかと。それで、プロデューサーもお引き受けする決断をしました。
(中略)
まず、条件として「日本のスペシャリストを雇いますよ」と。美術、衣装、メイク、所作、それに殺陣ですよね。そういった各パートに、時代劇のスペシャリストを置くことが第一段階でした。

【インタビュー】真田広之、プロデューサー兼務の「SHOGUN 将軍」で日本の魂を追求

(ハリウッドが描きがちな”変な日本”描写に対する違和感について)
はい、多々ありますね。悔しさ、それにもどかしさも感じていましたし、そんな経験がバネになって、「間違いを払拭したい」「いずれは正したい」という思いが、今回は自分のエネルギー源となり、全てを注ぎ込むことができたと自負しています。

【インタビュー】真田広之、プロデューサー兼務の「SHOGUN 将軍」で日本の魂を追求

こうした真田広之の想いや、彼が実際に海外での経験を経て得た考え方が、映像にそのまま現れ、そしてエミー賞受賞時のスピーチでの”時代劇の継承”、”(諸先輩方の)情熱と夢が国境を超えた”という言葉に繋がったのだと、本作の視聴を以て実感した。

日本を正しく映した作品

私は本作は「日本人として命をどう扱っていたか」を重厚に描いた作品だと感じた。
戦をしていたり、無礼者を直ぐに処刑したり、奇妙なしきたりがあったりと、今では考えられない命の扱い方を当たり前のこととしていた当時の日本。そこに現れた、全く違う文化や価値観を持ったイギリス人。
現代に生きる我々は、このイギリス人青年と感覚が近いのだと思う。この青年が感じるギャップが、我々が時代劇に感じていた共感度の低さと合致する。

ところが本作は、当時それが当たり前とされていたその訳を、丁寧に分かりやすく描いていた。どのような経緯で、どういった考えを持って、何を守るために、行動を起こしたか。登場人物は比較的多いが、一人ひとりの心情や事情に寄り添った描き方がされていて、それぞれの立場での視点で理解がしやすい。

隅々まで、一切の手抜きのない描写

本作のポイントは、上記のメッセージを伝えるうえで、言葉や衣裳、美術に一切の手抜きが見られないことだ。これは、前章で引用したインタビューでも語っていた、真田広之の想いに直結する。

真田広之が演じた吉井虎永

言葉については、同じ日本語であるのに、所々難しく理解に詰まる部分がある。
しかし、変に現代に寄せないことで、彼らの生き様をより鮮明に映し出しているのだろうと思った。
衣裳、美術も抜かりなく、日本の繊細な美しさをこれまでかと表現している。
真田広之がプロデューサーであるとはいえ、アメリカが作ったドラマである。そのドラマを通して、日本にいる私たちが日本の美しさに気がつかされるとは、何たることだと、日本人として少し、恥ずかしい気持ちになった。
そして改めて、真田広之の信念と想いに、賞賛の気持ちが生まれるのであった。

戦乱の世の日本人女性の話

本作の主演は真田広之で、彼が演じた虎永は、徳川家康にインスパイアされている。戦乱の世を治めた虎永を中心に物語が展開していくのだが、私は、実は本当のSHOGUNは、周りにいた女性陣なのではなかろうかと感じた。
当時の女性の逞しい生き様、心の葛藤、繊細な心理描写を見事に余すことなく映し出している。
当時のやり方で、抵抗する術なく夫と幼い子を奪われるやるせなさ。
正室として、影の存在のように恭しく夫に仕える傍ら、報われない自身の生涯に時に憂い、時に刃向かおうと立ち上がる姿。
男性陣のように、猛々しく声を上げることはないが、女性たちは彼女らのやり方で、あの戦乱の世を逞しく慎ましく生きていたのだろうと、彼女らの姿から感じ取ることができる。
それを視聴者が感じ取ることができるのは、言葉の少ない彼女たちの眼でする演技が見事であったからだ。

アンナ・サワイ(左)と二階堂ふみ(右)

演者としてまず触れなければならないのは、戸田鞠子を演じたアンナ・サワイ。
彼女の美しいこと。所作の美しさ、表情の強かさに思わず見惚れる。
今作で一躍脚光を浴びることになった彼女だが、私はこれまで彼女を知っていなかったことを、強く後悔した。
彼女の美しさが、本作で表現される日本の美しさの一つになっていて、
彼女を堪能することが、本作を観る意味の一つになり得ているのだと感じた。

最後に

本作は、エミー賞受賞をきっかけに、世界中から一層注目を浴びることとなった。
ところが本作は日本人こそ、観るべき作品なのだ。
私はDisney+に加入していなかったために視聴が遅れたわけだが、本作を観るためだけに加入するのは、全く無駄ではないと思う。今は、配信開始直後に加入するべきだったとの後悔がある。
迷っている方がいるならば、その迷いは今すぐに捨てるべきだと言いたい。
もし、映画館での特別上映の機会があれば、私は迷いなくチケット争奪戦に参加するだろう。

最後に、本作の理解をより深めることのできるインタビューをいくつか紹介したい。プロデューサーや演者たちの、強き想いのこもった言葉たちは、必読。
未見の方も、鑑賞済みの方にも読んでいただけるものを厳選している。


1997年生まれ、丑年。
幼少期から、様々な本や映像作品に浸りながら生活する。
愛読歴は小学生の時に図書館で出会った『シートン動物記』から始まる。

映画・ドラマ愛は、いつ始まったかも定かでないほど、Babyの時から親しむ。
昔から、バラエティ番組からCMに至るまで、
"画面の中で動くもの"全般に異様な興味があった。

MBTIはENFP-T。不思議なまでに、何度やっても結果は同じである。
コミュニケーションが好きで、明朗快活な性格であるが、
文章を書こうとすると何故か、Tの部分が如何なく滲み出た、暗い調子になる。(明るい文章もお任せあれ!)


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