3-14

   まるで懇願するような、切羽詰まった。そんな目をしたマクヒョン、知らない。

   ずっと、僕だけが辛いと思ってた。

 ヒョンの視線を、ただ受け止めることしかできない。

   心臓が掴まれたみたいに苦しくて。

   何か、ヒョンが楽になることを言いたいのに、思いつかない。

   僕は、ただヒョンの手を掴む手に力を込めた。

「そういうの、やなんだけど。でも……」

   ヒョンの瞳が揺れて、急にハッとしたように目を逸らす。

「や、ごめん、なに言ってんだろ」

   僕の手を掴んでいた手も、離してしまう。

「ヒョン、あの」

   ヒョンが引っ込めようとしたもう片方の手を、力を込めて阻止した。

「ん?」

   次に僕を見たヒョンの目は、さっきとぜんぜん違っていて穏やかだった。

   ヒョン。

   僕の方が知りたいよ。

   ヒョンがなにを考えて、感じてるのか。

   そうやって、すぐに引っ込めるじゃん。自分の中に閉じ込めて、僕に弱いところは見せないんだ。

   そういうの、たまんないんだけど。

 昨日ジニョンイヒョンに言われた言葉を思い出す。

 マクヒョンは何も言わないけど。感じてないんじゃなくって秘めてるだけだって。

 苦しいよ。

 こういう思い、ヒョンもしてたの?

 そんなわけ……。

「さ、そろそろ準備する?」

 ヒョンが立ち上がった。手は僕が掴んだままだ。

 そうやってヒョンは気持ちを切り替えられるけど、僕には無理だ。

「ヒョン、ムリです」

 僕はその手を軽く引っ張った。

「ん?」

「まだ、行きたくない」

「まだ時間じゃないけど、ユギョミシャワーもするだろ? 服も着替えないと」

 不思議そうな顔してるマクヒョンを、見上げる。

「もっと話したい」

「うん……またあとでにしよう」

「でも」

 ヒョンが片手をテーブルについて、じっと僕の目を見る。

 じっと、じーっと。

 落ち着かなくて、なのに合った目が離せなくて。

 ヒョンの目に射抜かれて、まるで金縛りに合ったみたいだ。

 ヒョンがいつの間にか緩んでいた僕の手を解いて。その手で、僕の髪を撫でた。

 いつもみたいにくしゃくしゃにするんじゃなくて、そっと、髪を整えるように梳いて。

 そのまま僕の頬を指でなぞる。

 ヒョンの指に触れられると、そこに電気が走るみたいに、ピリピリとする。

 その時、ドアがバタンっとなって、ジェクスニヒョンとベムがケラケラ笑っている声が聞こえてきて。

 マクヒョンが、いつもみたいに僕の頭を掻き回した。

「早くシャワーして来な」

 さっきみたいな、目じゃなくて、いつものマクヒョンの笑顔だった。

「今日めっちゃ寒いよー」

 そう言いながら、ベムがキッチンに入ってくる。

 ベムと入れ替わりに、マクヒョンは出て行った。

 僕は、トレーナーの胸の部分をぎゅっと掴んだ。

 苦しい。息ができなかった。

 胸がめちゃくちゃ苦しい。

 キス、されるのかと思った。

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