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眠くならないように、少し冷まして。

熱々のご飯より、少し冷めたご飯が好きだ。
気づいたのはいつだったかな。
私は元来猫舌で、熱いものが食べにくかった。
例えば、できたてのスープとか。
コーヒーや、紅茶なんかも大人になって、慣れてくるまで中々飲めず、「めっちゃ美味しい!」と思えることがなかった。
昔から実家の夕飯は和食で、炊きたての御飯が出ていた。
熱々のご飯を食べると眠くなってしまうのも有ったかも知れない。
後頭部が暑くなって、体が眠り始める。
お腹が一杯になって、自分の体が子供ながらに自由に動かせなくなることが怖かったのかも知れない。
学生の時、稲刈り体験が行った。
自分が田植えした田んぼに行って、実際に刈ってみる、というような。
クラスの皆を乗せたバスは、長いような短いような時間で田んぼに私達を送り届けてくれた。
稲刈りに来た田んぼは、漫画やアニメで見るような黄金色ではなかったけれど、印象に残る位、綺麗だった。
稲穂が風に揺れている様子を実際に見たのは今までの人生でその日が最初で最後だったけど、今でも行って良かったな、と思う。
田んぼの周りは少し高くなっていて、水を張っても出ていかないようになっている。
河川敷みたいなその場所に、小さなカエルが一匹佇んでいた。
クラスの女子が盛り上がって、捕まえようとしに行ったのを、「体力凄いねぇ」なんて傍から見ていた。
実際に稲刈りが始まると周りが見えなくなって夢中でやっていた。
クラスの皆が疲れて休んでいるときも黙々と刈り続けて、はっとして振り返ったときにはクラスの田んぼの半分くらいを刈っていたような気がする。
そこから、刈った稲を縛って稲架に掛け、田んぼ全体を見渡したときの感覚は言い知れない。
そこはかとない満足感と、誰よりも働いた、という優越感がこころの中に確かにあった。
帰りのバスの中ではカエルが飛び回って居たけれど、疑問に思うような体力もなく、ぼーっと過ごしていた。
私は日本人だから、主食は何かと聞かれたらお米、と答えるわけだが、別にお米が好きなわけじゃない。
熱々のご飯より、少し冷めたご飯が好きだ。
少しぬるくなったご飯は、あの日の満足感と共に、私の体を作ってくれる。
頭が冴えるように少し冷まして、今日もご飯を食べる。

なんななど

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