ぼくのかんがえたさいきょうの布マスク

コロナウイルス感染予防策の一環として、布マスクの利用が検討されている。日本政府は布マスクを全世帯に配布するという。

安倍首相は、布マスク姿で話し、「布マスクは、使い捨てではなく、洗剤を使って洗うことで再利用が可能であることから、急激に拡大しているマスク事情に対応する上で極めて有効である」と語った。

布マスクはリユーザブル(再利用可能)であるが、きちんと洗浄しなければならない。洗浄をおこたると、汚染された布がむしろ感染源になってしまう

洗浄方法について、政府から動画が提供されている。

ところで、医療用には布マスクは推奨されない。WHOは「いかなる状況下においても」布マスクを推奨していない(Advice on the use of masks the community, during home care and in health care settings in the context of the novel coronavirus (2019-nCoV) outbreak. Interim guidance 29 January 2020
WHO/nCov/IPC_Masks/2020.1)。

https://www.who.int/docs/default-source/documents/advice-on-the-use-of-masks-2019-ncov.pdf

また布マスクは医療マスクと比較して感染リスクが高まるために推奨されないという、RCTによるエビデンスが出ている(MacIntyre CR, Seale H, Dung TC, et al A cluster randomised trial of cloth masks compared with medical masks in healthcare workers BMJ Open 2015;5:e006577. doi: 10.1136/bmjopen-2014-006577) 。

https://bmjopen.bmj.com/content/5/4/e006577

米国CDCが布マスクの使用を検討しているという記事もあるが(Abby Goodnough and Knvul Sheikh. C.D.C. Weighs Advising Everyone to Wear a Mask. The New York Times.  March 31, 2020)、これもどうやら布マスクを推奨するというよりは、必要な医療用マスクを医療用関係者にゆきわたらせるための次善策であるというニュアンスが読み取れる。

日本政府の布マスク配布という施策はどういう意図のものなのかよくわからないが(専門家会議を通した意見ではないという情報もある)、医療用の使い捨てマスクの流通が滞っているため、代替物として採用された可能性も高い。

いずれにしても布マスクが配られるならば、ここで布マスクを使う時のポイントや弱点について再確認してみたい。

リユーサブル布マスクの利点は再利用可能なことであるが、欠点はいくつもあり、いずれも致命的になりかねないものばかりである。すなわち:

1)フィルタリングの性能がはっきりわからない。一般の布より、不織布のほうがフィルタ能力は概して高いと言われている。布マスクを自作する場合なども含めて、どのような布を使えば妥当なフィルタリング性能が得られるのか、品質検査をしっかり行って情報を得なければ、簡単に判断できない。

2)使用開始後、どこまで汚染されてるかはっきりわからない。そこに置いてある布マスクが、開封したばかりなのか、すでに使用済みなのか、一見しただけでは判断できない。使用済みマスクを間違えて使ってしまうと、さいあく、感染を広げることになってしまう。これは避けたい。

3)洗浄方法が単純ではない。前述の動画の手順をみても複数の洗剤や消毒剤を混和しており、洗浄方法にもそれなりのコツがいる。どの部分が必須なのか判断することがむずかしい(たとえば塩素系漂白剤が少し薄い場合にうまく洗浄できるのか、など)。これはカクテル的に成分をまとめた洗浄液を作って供給することで改善できるかもしれない。そしてその結果として:

4)適切に洗浄できているかはっきりわからないという問題も生じる。さらに:

5)リユース後の劣化がはっきりわからないことも問題である。何度も洗浄していると布は当然劣化するので、フィルタリング性能も落ちてゆくはずである。洗い方のクセによって劣化の程度も異なるので、単純にリユース回数ではかるだけでは不十分だろう。

こういった問題をみていると、布マスクがきちんとリユースできずに感染源としてむしろ危険になってしまう条件がなんとなくみえてくる。たとえば超高齢者の独居世帯、または夫婦で老老介護を行なっているような世帯。多忙きわまりない介護施設などもそうだろう。若い人でもつい間違って洗う前の(汚染された)布マスクを使ってしまう可能性はある。

そう考えると接触部分のフィルタはやはり使い捨てがよい。マスクの製造工程を知らないので、ボトルネックがどこにあるのかわからないが、ひょっとすると、フィルタ部分と支持体を分離すれば、もっと大量生産できるかもしれない。

マスクの支持体、つまり耳掛け+口元の覆い部分は、容易に洗浄できて病原体が繁殖しにくい、グラスファイバーなどの素材で作成する。性能のしっかりした不織布でできた使い捨てのフィルタ部分を口元の覆いに挟み込んでから、顔に装着する。

使い捨てフィルタは真空パックして密封しておき、開封品は使わないようにする。またフィルタには空気中で20時間ほど経過すると黒変するラベルマーカー部分をつけておいて、開封後「新鮮」なものかどうかわかるようにしておくと、もっと確実だろう。

マスクを使用したらフィルタはふつうに廃棄し、支持体部分は水で洗浄して乾かした後に再利用すればよい。これはまあ空想であるが、世界的なマスク枯渇に対してなんらかのイノベーションが出てくるかもしれない。