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「海上県道223号航路」

2020年の暮れ。青春18きっぷで清水まで行く

ながい静岡県を半ばで降りて我々は船旅もできるよ

富士山はよく見えたけれどフェリー「富士」はいなかった。

世に知らぬ三保の松原、乗り場まで行ったけれども来なかった船

「数年に一度の寒波により、洋上は時化の見込みです。」

欠航の、港に船が居なければきっと向こうにいるのでしょうが

飛鳥Ⅱはいた。

飛鳥Ⅱを見るたびに飛鳥のことを思いださない/見ていないから

同じルートを引き返すのは詰まらない。

わたしたちの船に乗らなかった話 帰路の電車で何回かする

 よく晴れて風の強い年の瀬。私たちは清水港から駿河湾フェリーに乗って、富士山を眺めながら悠々と土肥温泉へ向かう、筈だった。清水駅から三保松原経由の渡し船を乗り継いで、フェリー乗り場に着いてから私たちはその日の全便欠航を知った。私たちは狼狽えながら、ひとまずエスパルスドリームプラザで海鮮丼を食べ、伊豆半島伝いに土肥を目指すことにした。海路ならここから七十分のところ、陸路だと三島と修善寺を経由して約四時間かかる。 
渡船には乗れた。富士山も三保の松原もよい景色だったし、飛鳥Ⅱも日本軽金属清水工場も間近に見ることができた。海鮮丼も美味しかった。フェリーで楽しみにしていた要素の七割くらいは清水港の中で達成できたと言えよう。ここからさらに小一時間、JR東海の退屈なロングシートに乗ることさえ考えなければ、伊豆半島をゆっくり南下するのも悪くない。清水駅のキオスクで、サッポロビール静岡工場製造の「静岡麦酒」を買う。ホームの上も明るくて風が強い。私たちはビールを飲みながら、三島へ向かう電車を待った。

2021/2/21発行「うたとポルスカの紙 vol.1」より転載

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