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「あ、あの…頑張ってください。」〜バイト先で出会ったクソヤバ客と女神の話〜


僕は普段、お寿司のチェーン店でアルバイトしている。

お店自体は回転寿司もやっているが、僕のバイト先はパックのお寿司専門の店となっている。
バイト中はよくレジ業務をこなすことが多いのだが、その点クソヤバい客に遭遇する確率が高い。

その日の夜、土曜日だということもあって店が忙しかった。やはりこの曜日この時間が一番混み合う。

次々に押し寄せるお客さんの会計をこなしていく。

ピッ、ピッ、ピッ

「以上でよろしいでしょうか?」


レジ業務ではお客さんにいろいろ尋ねるべきことがある。


「レジ袋ご利用でしょうか?」

「保冷剤はご利用でしょうか?」

「お箸は何膳ご利用でしょうか?」


この3つは必ず聞かなければいけない。
レジ袋は有料化されたし、生もののため保冷剤の有無は必須だし、お箸は入っていなければクレームが入ることもあるだろう。

忙しい中でも、オープニングスタッフの経歴からか頭で考えなくとも勝手に動く口と化してしまっている。

店にはレジが2つ。

しかし、この店ではお寿司を一貫から選べるバイキング形式もとっており、ピーク時は片方のレジがその注文の入力に追われることが多い。

その一方でもう片方のレジは、ただひたすらパックの寿司を次々と会計していかなければならないのだ。

パック寿司側のレジに立っていた僕は、少しでも早く済ませようと無心で会計を済ませていった。

「いらっしゃいませー……ありがとうございましたー!」

その繰り返し。


そしてまた、次の客が来る。


身長高めの50代くらいの男と、それに比べると少し小さめの女性の2人組が来た。

いつも通り商品を受け取る。

男が2つのパック寿司を渡してきた。

ピッ

「レジ袋ご利用でしょうか?」


「………つけろ」


んっ?


今、"つけろ"って言った?


気のせいかな。


「保冷剤ご利用でしょうか?」



すると突然その男が声を荒げた。



「あたりめーじゃねーかこの野郎おおぉぉーーー⁉︎」



ええっ?


あまりに急な出来事に唖然としてしまった。


そのまま男が続ける。



「いるに決まってんじゃねーかこの野郎⁈今日日寿司屋で保冷剤付けねー店あんのかぁぁーーー⁇」


え、バチくそキレてくるやん。


なんじゃコイツ⁉︎


別に変なこと聞いてへんし。


めちゃくちゃ腹立つわ。


通常こういった場合は、軽く「すみませーん」と謝った後、相手にせずニコニコしながら帰らすのが最善なのだろう。

しかし、僕はこのような状況での感情コントロールが下手なので、高圧的な態度を取ってきた客にはそっくりそのまま同じ態度で接してしまう。

もう全てがどーでも良くなってしまう。


「はい、お箸いんのか?」

「3!3!」

「えっ3膳?はいはい。……なんで箸3膳いるねん」


相手に聞こえるか聞こえないかくらいの声で、つい本音が溢れてしまう。

お前ら2人やろ。

おっさんはまだぐちぐちと何か言っている。

その様子を見た隣にいる奥さんらしき人は、目を合わさぬようただ黙っていた。


うわ〜奥さんが可哀想…


会計が終わり後は、商品を渡すだけ。

通常は
「お待たせしました。ありがとうございましたー!」
と言うところだが、イラつきすぎて我を忘れてる僕は無言のまま片手で袋を渡し、「早よ帰れボケ」と口に出してしまった。

どうやらおっさんも我を忘れているようで、僕の声は全く聞こえてないようだった。

おっさんが帰り際に僕の胸元についた"楠城"と書かれた名札を見て、奥さんにこう伝えていた。


「コイツ"クスノキ"というから覚えとけよ。」



馬鹿野郎。


この字"ナンジョウ"て読むねん。


最後の最後に名前の読み方間違えてやんの。


しかもご丁寧に漢字の上に読み仮名まで振ってあるのに、それも読まれへんのかい。



おっさんが帰る姿に向かって「二度と来んなボケえ」と呟いた。



…おっと、いけない。ついつい取り乱してしまった。周りのお客さんにも迷惑かけてしまったな。このテンションのまま他のお客さんに接客するのはまずい。ちょっとここからは気持ちを入れ替えて、元気いっぱい笑顔で接客するぞ‼︎


そう思ってレジ業務に戻ると、次は20代くらいのお姉さんのお客さんが来た。


「いらっしゃいませーーー‼︎」


先程とは打って変わって、キーを二つくらい上げたような高い声で接客を始める。

表情も比べ物にならないくらいニコニコ笑顔だ。


「レジ袋ご利用でしょうか⁇」

「保冷剤お入れさせていただきましょうか⁇」

「お箸は何膳ご利用でしょうか⁇」


丁寧すぎるくらいに一つ一つ聞いていく。

それに対してお姉さんも答えてくれる。

全ての行程が終わった後、商品が入ったレジ袋を今度は両手でしっかり持ち、お姉さんの目をしっかり見て、


「お待たせ致しましたー‼︎ありがとうございましたー‼︎」


と伝えた。

よし、ちゃんと切り替えて接客が出来たぞ!


すると、そのお姉さんが商品を受け取った後、僕にこう言った。




「あ、あの………頑張ってください!」




いや………


恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい‼︎


めちゃくちゃ無理してると思われてるやん‼︎


無理して笑顔作ってると思われてるやん⁇


「あーあの子さっきあんな理不尽なおっさんにキレられて、めちゃくちゃ気持ち沈んでるはずやのに、私にはそんな態度一切見せずに無理やり元気出そうとしてくれてる。」


…って気持ちから出る頑張ってくださいやん⁇


恥ずかしい‼︎


でも、その気持ちを口に出して伝えようと思ってくれたんや。勇気つけようとしてくれたんや。

え、貴方は女神様ですか?


その言葉に対して僕も


「全然大丈夫ですよ‼︎ありがとうございます‼︎すみません‼︎」


とお姉さんに返した。

この"全然大丈夫ですよ‼︎も、なんか強がってるみたいでめっちゃ恥ずかしい。

変な客来ることは日常茶飯事やから別にほんまに気にしてないのに。



そのお姉さんがくれた優しい一言につい、涙がうるっと来てしまった。




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