一生をひとつのことに捧げたい

一生をひとつのことに捧げたい

自分の今がつまらないものだなと、よく考えていた。
仕事は正社員でこそあるが、中途採用だったため給料は同期より低い。サービス業なので、コロナ禍の今、暇をもて余している。なんなら仕事中もスマホをポチポチしている不良社員だ。まぁ、仕事柄、クリスマスとホワイトデーのお返しのシーズンでなければ、今までも暇だったのだが、今年は輪をかけて暇だ。
暇だから余計なことを考える。
昔の自分が今の自分をみたら何て言うだろう。とか、
あの時妥協しておけば、今はもっと楽に生きられた。とか、
あーでもない、こーでもないと考え続けるのは、すべて今の環境のせいだ。

ブルッとスマホがふるえる。
見るとLiboのチャットの返信だった。返信元はイデオンさん。イデオンさんとは放置ゲーのチャットで知り合って、なんやかんやとゲームを跨いでのネット上の知り合いだ。
自分はRainもそうだが、見たら即返信が信条だ。
逆に自分から送ることは滅多にないが。

仕事中にも関わらずスマホをポチポチして返信。
今は午後3時。こんな時間にLiboにいるのだから、まあ暇人なんだろう。職の有無は知らん。ネット上の知り合いなんてそんなものよ。少なくとも自分は。
オフ会とか絶対行かないタイプの自分とは違い、イデオンさんはオフ会を企画するほどの行動力がある。羨ましいような気もするが、その行動力を他の有意義なことに使えよとも思う。
今、一緒にやっているクラプルも、イデオンさんはイベント毎の順位に名前が載るくらいやりこんでいる。

返信ラリーが終わってスマホをしまう。
客足がない店内、隣の部門の同僚も暇している。

こんなんじゃなかったはずなのになぁ

思わずにはいられない。
漫画の影響を受け、放課後に残って友達と囲碁を打っていたときは、未来は囲碁のプロ棋士なんて妄想していた。
いや、囲碁のプロ棋士に憧れたんじゃない。漫画の主人公は眩しいくらい一途に囲碁を打っていた。

一生をなにかに捧げたい。すべてを捨て去って熱中できるものに出会いたい。

自分の願いはつまるところ、それだった。
しかし、現実は無情かな。そんな熱中できるものには出会えずに青年時代は終わってしまった。そして今は暇な職場に通い、家ではゲームをする毎日……。しかも、ゲームといってもスマホのポチポチゲー。
ああ、なんて無為なんだろう。

っと、スマホがまた震える。
『帰りに醤油買ってきて』
『りよかい』
母からのRainに単文で返信。
ああ、暇だ。

※※※※※

『闘技王の大会に出ようかと思う』
夜、家でスマホをポチポチしていると、Liboに返信があった。イデオンさんだ。
闘☆技☆王とは、また懐かしいものを。小学校ではカードゲームと言えば闘技王だった。昔、自分も熱中したなぁ。って言うか闘技王ってまだ大会とか開かれているのか。
ちょっと気になった自分はネットで検索すると、今ではなんと世界大会が開かれていた。
ブランドができたときを知っている自分は何となく嬉しいものを感じつつ、サジェストに出てきた賞金をクリックする自分はやはり大人になってしまったのだろう。

───入賞したときもらえる特別なカードは高いものだと1000万を軽く越える。

……は?

最初は桁を2つくらい見間違ったとおもった。……間違ってなかった。

「はぁ~~~~~!?」

紙だぞ? 絵が印刷されただけの、ただの紙だぞ? 1000万? ははっ、退職金より高いぞ?

子供の遊び、そう思っていた。そしてそれは恐らく正しい。
いや、“正しかった”だ。
eスポーツという単語は知っていた。だが、これほどとは。

そうだ、
「闘技王大会、自分も出よう!」
そして、自分はファンド? かなんかに金を預けて、一生不労所得!
人生設計が変わった。

───一時間後。
「ワケわからん」
ネットにもぐって闘技王の情報を漁っていた感想はそれに尽きる。ルールもだが、カードの説明文が意味不明。
遊ばせる気あんのか? と一時間前に世界王者になろうとしたものが愚痴る。

Liboで闘技王に興味を持ったことをイデオンさんに言うと長文の羅列が返ってきた。
……えっ、これ全部覚えんの? もっとある? はぇ^~すっごい
イデオンさんはこんなのをわざわざ覚えて闘技王の大会に出るのか。その行動力を……

いや、ちがう。それは違う。

イデオンさんの行動力を無駄遣いだと思っていた。子供の頃遊んでいた闘☆技☆王の大会に出ると聞いて調べて、お金になると知った。そうしたら手のひらを返して闘技王を調べた。でもルールが理解できなかった。それでまた手のひらを返してイデオンさんの長文レスが無駄な行動力か?

バカか、自分は。
イデオンさんこそなにかに熱中している人だった。

もちろん、自分が子供の頃思い描いていた一生を捧げたいことには無かったものだろう。
でも、子供の頃思い描いていた一生を捧げることは、意外と身近に転がっているものなのかもしれない
明日からの自分がなにか変わることを祈って

あとがき

小説風にしてみました。かえって読みにくいかも?
でも、自分じゃない主人公だと、少し嘘も盛れて自分は楽しかったかな?

長文、駄文失礼しました。かしこ

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