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第四章 二 時を繋ぐ

綾子と道夫がプレゼントした、テレビが古野家に届いた。
テレビは白黒で、画面にプラスチック製の青い透明の板を覆うようにかぶせていた。
画面を少し大きく見せる仕掛けだそうだ。
チャンネルはガチャガチャと回転させるロータリー方式で、リモコンなどはもちろんない。
スイッチを入れてもすぐに映像も音声も出ず、しばらくして音声が聞こえ、さらにしばらくして映像が写るようなものだったが、ぎんさんはテレビに夢中で、夜になるとテレビの前から離れなくなった。
特に好きなのはプロレスだ。
この頃活躍していた『力道山りきどうざん』というプロレスラーがいて、ぎんさんはこのプロレスラーの大ファンで、
「リキさ行け、負けるな」と叫びテレビの前で、腕を振りかざしていた。
盆になると、古野家は賑やかになる。
大阪にいる子ども達が、孫を連れて帰って来るからだ。
もう誰が誰やらさっぱり分からない、とにかく養子に出した美咲を含めると子どもは七人、孫は……数えられない。
道夫は里から嫁を貰ったので、帰ってきても嫁の実家に泊まっているが、あとはもうごった返しの家だった。
なかでも毎年必ず来る女の子がいる、来るたびに僕を追いかけまわす。
追いかけまわすだけならまだいいが、棒でつついたりしてくる。
今年も奴がやって来て、僕を見るなり棒を探し出している。
僕は慌てて逃げようとした時、ぎんさんがやって来て、
「順子なにやっとるらよ」とその女の子に言った。
「順子?もしかたら、おかあちゃん?」
僕は逃げるのをやめて、その少女に恐る恐る近づいて行った。
どことなく母の面影がある、
「間違いない、おかあちゃんだ」母は、まだ小さく五歳くらいかなと思う。
いつものように怖がることもなく、僕に近づいて来(く)る。
「おかあちゃん、僕だよ、僕だよ」と叫んでみたところで、声になるはずはなかった。
母は僕を見て、
「お婆ちゃん、おおきなカエルがいるよ」と叫んだ。
ぎんさんは、
「このカエル様は家の守り神だから棒でつついたりしたらあかんよ、大事にしてくれ」と言い、いつものように両手を合わせ拝み、母も真似をして両手を合わせ拝んだ。
僕はなんだか嬉しかった。
母に会えた事なのか、母が手を合わせ拝んでくれた事なのか、よくわからないけれど、たぶんぎんさんの笑顔が一番嬉しかったのかもしれない。
母はそれから、僕を棒でつつく事もなくなり、他の子どもが悪さをしようとすると、
「あかんで、このカエルさんはこの家の神様やから、そんな事したらお婆ちゃんに怒られるで」と言い、僕をかばうようになった。
盆が終わるとみんなは帰って行く、山を下りながら振り返り手を振る母たちの姿を、坂の上に立ち見送るぎんさんは、いつも最後まで見送れなくて、泣きながら家に入って行く、僕は坂を降りていく母が、見えなくなるまで見ていた。

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