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2023年下半期に読んで印象深かった小説をご紹介

下期は比較的文芸書をよく読んでいたので、印象深かった小説も多かったです。ど今年はタワマン文学が世間的にも私的にも話題になったなぁという印象です。上期に読んだ『この部屋から東京タワーは永遠に見えない』もよかったんですけど、主人公を介してそういった人を観察する『君が手にするはずだった黄金について』も非常に良かった。もしかしたら都市部に住んでいるからこそ楽しめる文学なのかもしれないけど。そういった境遇にある人には一読の価値がある本だと思います。

同じ小川哲さんの『ユートロニカのこちら側』は生成AIが誰でも使える様になった今だからこそ読んでおきたい本だなぁと思いました。当分の間は作品に出てきたようなAIは生まれないでしょうけど、気持ちの準備だけはしておいて損がないと思うので。

京極堂(百鬼夜行)シリーズ17年振りの新作となった『鵼の碑』は私の下半期印象に残った小説から外すことはできないです。読んでいる間シンプルに世界に浸り楽しめるのはこのシリーズならではだなぁと思います。


小川 哲著『君が手にするはずだった黄金について』

以下の記事にまとめました。

小川 哲著『ユートロニカのこちら側』

こちらにまとめてみました。

京極 夏彦著『鵼の碑』

歓喜日光!詳細は以下の記事にまとめました。

伊坂 幸太郎著『777 トリプルセブン』

いやぁ、面白かった。
『マリアビートル』の時には初めましてだった天道虫も、2作目になると良く見知ったキャラクタになるわけで、前作と比べると彼の特異体質もスムーズに飲み込めたのでシンプルに楽しむことができました。個人的には『マリアビートル』と比べてスッキリとしたエンタメ小説と言う印象です。

ホテルの中でドタバタする天道虫やマクラ・モウフと、静かなレストランでコース料理を楽しむ蓬の落差が良い緩急になっていて、読み疲れることなく楽しい3時間を過ごすことが出来ました。そういう意味では甘いの後にしょっぱいが来たら永久に食べられるという理論を体現したような小説とも言えるのではないでしょうか。

今作では、真莉亜の現場力が見られるシーンがあったりココや、マクラ・モウフなどの良いキャラクタが登場したので、次回作以降にも期待してしまいます。

小川 哲著『ゲームの王国』

グロテスクな表現が多いですが、泥の戦闘後の解放よりも、どんどん処理されていく、ロベーブレソンの住民よりも、秘密警察による拷問の数々よりも、描かれている出来事の多くががルール設計によって起こっているってのがグロテスクだと思うわけですよ。

私は記憶力が悪いからなのか、自分の記憶をあまり信用していないところがあります。反芻した記憶は勝手に改竄されてしまっているんでしょうし、実際のところ、反芻していない記憶はどんどん消えていってると感じています。

上巻から半世紀がたった下巻では、登場人物たちの記憶も怪しくなっている箇所が多かったりする、でも、私からするとそんなもんだよなぁと思ったりするわけですよ。こっちは前日に上巻読んだところだから色々覚えてるけど半世紀もだったら大抵のことは忘れてるか、誤って覚えてるんじゃないかと思うわけです。

そんな概念の塊であって事実の塊ではない、フワフワした記憶の上に我々は立って生きてるわけです。なので物語ってのも記憶と同じように私を形作るパーツ足り得るわけですよ。これからはこんな甘酸っぱかったり、苦かったり、芳醇だったりする物語の上に立って生きられるわけですから、私は幸せだなぁと思ったりするわけです。

綾辻 行人著『Another』

非常に良かった。
読んでてひっかかってるけど、答えに結び付いてない色々が、一つの仕掛けでグワッと最後に結び付くので気持ちよい。個人的にはこれこそがミステリーの醍醐味なんじゃないかと思う。

浅倉 秋成著『俺ではない炎上』

『Another』の時にも書きましたが、この違和感が繋がる感じがミステリーの醍醐味だなぁと思うわけです。にしても、前半怖かったなぁ。殺人とまではいかんまでも語られて炎上するって可能性はありますよね。

個人的には、主人公が足の痛みで肥大化した自尊心を抑えるシーンが非常に良かったです。周りからの評価で人間は自尊心を持ったり失ったりするわけですが、あまりに周りからもてはやされると自分を自分以上の何かしらと勘違いしてしまう。そこで、痛みから自分を取り戻すってのはなんかリアルでよいですよね。

ジェイムズ・P・ホーガン『星を継ぐもの』

縦横に広いストーリーも魅力的なんだけど、個人的には宇宙船でガニメデに向かうシーンや、ガニメデから木星を仰ぐシーンがお気に入りです。こういった日常からめちゃくちゃ目線を離させるのがSFの魅力なんじゃないかと思ったりします。

ミステリ的な要素も魅力だとは思うのですが、肝となる部分が中盤で何となく読めてしまったのが残念でした。
以下の記事にSF小説が好きな理由などを言語化してみました。

白井 智之著『名探偵のいけにえ―人民教会殺人事件―』

それほどミステリーを読まない私が古典的だと感じるぐらいなので、おそらくトリックに工夫がある部類ではないんだと思うのですが、見せ方が兎に角面白い。探偵が複数いるので、ミスリードが上手くされていたり、世界をどう認識しているかで物語の解釈が異なると言う仕掛けは、京極先生の百鬼夜行シリーズに通じるものもあり、趣味に合ったミステリーだった。

2023年上半期に読んで印象深かった小説をご紹介


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