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英国現代奴隷法

イギリスでは2015年3月に現代の奴隷労働や人身取引に関する法的執行力の強化を目的とした「2015年現代奴隷法」が制定され、同年7月末から施行されています。

この法律では、イギリスで事業を行う一定の要件を満たす企業に対して、自社サプライチェーン上における現代奴隷防止への取り組みの詳細を自社ウェブサイトで開示することを求めています。

イギリスの法律なので日本企業には関係ないかと思いきや、以下のような基準を満たす日本企業も対象となり得ます。私の出向元である日本の石油会社も英国現代奴隷法ステートメントを開示しています。

  • 企業または営利団体(設立場所はかかわらない)

  • 英国で事業の全てまたは一部を行っている

  • 商品またはサービスを提供している

  • 年間売上高が3,600万ポンド(約55億8,000万円、1ポンド=約155円)以上 (子会社を含む全世界の年間売上高で、業者間割引や各種税を控除した金額)

開示義務を怠った場合には国務大臣の要請に基づき、高等法院が「強制執行命令」を発し、従わない場合には法廷侮辱罪に問われ、無制限の罰金となる可能性があるとのことです。

奴隷というといつの時代の話だと思われる方もいるかもしれませんが、国際労働機関(ILO)の推定によると、全世界で2100万人が、強制労働、人身取引、借金のかたによる労働など、奴隷のような環境で働いているとされているそうです。被害者の90%(1870万人)は民間の企業活動により搾取されていて、そのうちの68%(1420万人)は、農業、建設業、家内労働、製造業におけるものとのことです。

石油開発では何百何千ものコントラクター、サプライヤーやジョイントベンチャーパートナーなどと日々仕事をしています。私たちの事業が人権侵害に加担しないためには、私たち自身が襟を正すことはもちろんですが、仕事を共にするすべての利害関係者にも、人権を守るように働きかける必要があります。

世界のスタンダードの中で今後仕事をしていくためには、それほど腹をくくって人権擁護に取り組まなければならないということです。

かつては奴隷貿易が行われていたイギリスですが、自由主義的な改革の一環として1833年のグレイ内閣の時に奴隷制度廃止法が成立しました。しかし現在に至るまでイギリスでは実質奴隷制度が存在するとされ、デイビッド・キャメロン首相が、「現代の奴隷制の根絶において、英国が世界をリード」するとして、現代奴隷法の制定に至ったとのことです。

イギリスは奴隷的な人権侵害をなかなか根絶できないという弱点をかかえながらも、一方で世界をリードするような奴隷根絶に向けた自浄努力も発動できたということでしょうか?

一方、日本はどうなのでしょう?

2022年11月、国連自由権規約委員会は市民的及び政治的権利に関する国際規約の実施状況に関する第7回日本政府報告書に対して、同年10月13日、14日に行われた審査を踏まえ、総括所見を発表しました。

委員会は前回の審査から今回の審査までの8年間に制定された法律など前向きな評価している半面、依然、日本の人権状況を改善する必要があるとして、様々な分野に関して勧告を行っています。

また、米国務省人身取引監視対策部による2022年人身取引報告書 (日本に関する部分) を読むと、がっかりするような指摘が数多く見受けられます。

日本政府がこれらの勧告や指摘を誠意をもって受け止め、解決に向けて真剣に取り組んでくれることを願います。人権分野で世界に誇れるような「人権先進国」にぜひなってほしいと思います。

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