見出し画像

パルメ委員会「共通の安全保障―核軍縮への道標」

大学時代に、ふと生協の本屋で見つけて買い求めた「共通の安全保障―核軍縮への道標」という本。

今は手元にないので詳しい内容は思い出せないのですが、なぜか印象に残っています。
スウェーデンの元首相、オロフ・パルメ氏が提唱して国連内に設置された「軍縮と安全保障問題に関する独立委員会」、通称「パルメ委員会」がまとめた「共通の安全保障―核軍縮への道標」という報告書の日本語訳です。

1980年代前半、まだ東西冷戦が続いていた時代に、軍縮、軍備管理に関する分析と提言を行い、冷戦終結のための原則をしめした画期的な内容だったと思います。そこには「すべての国は安全への正当な権利を有する」ということ、そして「軍事力は、国家間の紛争を解決する正当な道具ではない」ということが明確に示されていました。

この本を読んだとき、力の均衡、軍拡に頼ることの不合理さが明確に示されていて、冷戦の膠着状態から脱する理論的な到達点ではないかと、明るい未来を感じたのを覚えています。

いろいろな要因が重なっていたとは思いますが、とにかくこの報告書がまとめられてから、わずか数年で、冷戦は終結しました。そして新しい安全保障の枠組みができてきました。

その一つが、「欧州安全保障協力会議」の流れを汲んで機構化された「欧州安全保障協力機構」です。紛争の平和的解決、経済協力、環境、情報、人権、文化遺産等に至るまで様々な分野で協力し、域内の安定・発展を目指すものでした。

この機構にはあのロシアも参加していて、冷戦後、たしかに「パルメ委員会」の提言は、域内の安定に貢献したのではないかと思っています。

残念ながら最近のロシアの暴走は止められなかったのですが、わたしは「パルメ委員会」の概念の敗北というよりも、ここから逸脱して再度台頭してきた、軍事ブロック、力の均衡、軍拡に頼る安全保障の考えかたが、地域の不安定化につながってしまったのではないかと感じています。

「共通の安全保障」の概念にもう一度立ち戻る必要があるのだと思います。あの膠着した冷戦も終わりをむかえたのですから、今の事態をさらに悪化させる前に私たちは打つ手があるはずだと信じたいです。そしてアジアの安全にも、軍拡に固執しない「共通の安全保障」の道筋があるものと信じています。外交努力がなによりも大切です。

オロフ・パルメ氏はスウェーデン首相在任中の1986年、ストックホルムの路上で拳銃によって射殺されました。日本の元首相の殺害事件の報道の中でオロフ・パルメ氏の名前が出てきたことで、「パルメ委員会」の報告書を思い出しました。

安全保障の考え方があまりに違うお二人ですが、射殺という非業の最後をむかえたことは、大変痛ましいことだと思います。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?