掘削リグで働く人たち。そしておもしろい船の用語。
[海洋掘削リグで働く人たち]
社会人になって初めて海洋掘削リグに乗ったとき、リグで働く人たちの呼び方や意味がよくわからず戸惑いました。
通常、石油会社は掘削請負会社と掘削請負契約を結び、リグを傭船します。掘削中は、石油会社から乗船してくる人、掘削請負会社のクルーと掘削請負会社が契約したサブ・コントラクター、石油会社が契約したコントラクターなど、様々な人たちが働いています。
石油会社から乗船してくるのは、「カンパニー・レップ」あるいは「カンパニー・マン」と呼ばれる石油会社側の責任者で、掘削に関する石油会社側からの指示や、クルーの乗・降船許可。掘削資材の積み下ろしの許可、掘削中の安全確保など、掘削にかかわるあらゆることに責任を負います。そして、私のようなジオロジスト (地質屋) も石油会社側から派遣されて、必要な時に乗船します。
掘削請負会社側の作業監督者は「ツール・プッシャー」と呼ばれています。こちらは石油会社のカンパニー・レップの指示に従い、ドリリング・クルーやリグのメインテナンスを行う作業員を直接監督・指示します。
掘削作業を行うドリリング・クルーの中にはドリラー、アシスタント・ドリラー、フロアーマン、デリックマン、ポンプマンなどと呼ばれる人たちがいます。
ドリラーは掘削ビットやドリルパイプを上げ下げするウインチ (ドローワークス) を操作したり、ビットやドリルパイプを地表から回転させるロータリー・テーブルを操作したりする、掘削作業の要となる役割を負います。井戸坑内の状況把握や、掘削機器やドリルパイプの接続・取り外し作業、ドリルパイプの長さの測定、管理なども行います。
アシスタント・ドリラーはドリラーの業務をサポートします
フロアーマンは、通常1組のクルーに3~4名いて、ドリラーの指示を受けながらドリルフロアー上の機器の操作を行います。とにかく大きくて重たい機器を素早く操作しなければならず、素早い動きと体力が求められる仕事だと思います。
デリックマンは掘削櫓の中・上部にある足場に上って、ドリルパイプやケーシングパイプの移動、接続作業などを行います。ドリルフロアーから最大90ft (約30m) の高さで作業を行います。私のような高所恐怖症では足のすくむ仕事です。
ポンプマンは掘削中にドリルパイプおよび井戸坑内を循環させる掘削泥水 (ドリリング・マッド) の循環ポンプの管理や保守を行っています。また、泥水量の監視や、泥水にさまざまな薬品を混ぜる調泥作業なども行います。
そのほか掘削リグでは直接掘削にはかかわらなくても、機械関係のメインテナンスを行うメカニック、電気関係のエレクトリシャン、医療関係のメディック、そしてリグでの生活を支えるコックやボーイなどなど、多くの人が24時間働いています。浮遊式のリグでは船の運航に責任をもつキャプテンをはじめとする船員も乗船していました。
[移動式海洋掘削リグも船。面白い船の用語]
私は海なし県で育ち、社会人になるまでほとんど船とは縁のない生活を送ってきました。なので、船の用語にはほとんどなじみがなかったのですが、移動式の海洋掘削リグに乗って、いくつか面白い言葉を知りました。
リグにはいくつかクレーンが取り付けられているのですが、現場での指示を聞いていると、「スターボード・サイドのクレーンを使え」とか「ポート・サイドのクレーンでこの荷物を船に乗せろ」などという言葉が頻繁に飛び交っていたのでわかったのですが、「スターボード」は右舷、「ポート」は左舷という意味でした。
調べてみると、昔の船は舵を取るためのオールが、船の後方右側についていたそうで、船の進行をコントロールする (ステアリングする) 舷側 (ボード) ということで、ステアー・ボードとなり、それが変化して右舷が「スターボード」と呼ばれるようになったそうです。
一方、左舷は船が港 (ポート) に接岸するとき、舵となるオールのない左側で接岸していたので、左舷が「ポート」と呼ばれるようになったとのことです。
今の船は舵が右舷側についているというわけではないので、右舷側でも左舷側でも接岸できそうですが、今も左舷で接岸することが多いようです。たしかに私が石油関連資材の積出港で見た船はみんな左舷で接岸していました。この伝統は旅客機にも引き継がれているようで、人の乗り降りは左の出口からおこなっていますね。
また、昔、舵を取るためのオールが右舷側につけられていたのは、右利きの人が多く、右利きの人が右手で操船しやすいように右側に付けていたという説が有力だそうです。
船の右舷、左舷を英語では単に「右」「左」と言い表さない理由が、こんなところにあったなんて面白いですね。