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介護essay#7 だいじょうぶの魔法

「アナタ、身体は大丈夫なの?」老母がふと、私を気づかう言葉をかけてきます。私は心臓の難病患者。介護をしながら大学病院で定期的な診察を受けています。

ドラマや小説の主人公なら、ここで「大丈夫、私のことは心配しないで」と笑顔で答えるところです。しかしある日、駅で心臓発作を起こし倒れる主人公。それを知った病床の母は感謝と後悔の涙を流す―そんな「ストーリー」に乗るのがふつうな気がして、つい「大丈夫」と答えたくなります。

年老いた親が心配くれるのが嬉しくて、久しぶりに「子供」として見てもらえたようで、ほんのり暖かくなった心を壊したくないから「ありがとう大丈夫」と返したくなる。

でも、でも。

「大丈夫?」と聞かれたとき、無理をしてまで「大丈夫」と答えなくても別にいいんじゃない?と、最近では思うようになりました。大丈夫どころじゃないというのが介護の現実なのですから。

「大丈夫」という言葉は魔法。白魔法にも、黒魔法にもなる呪文です。

「ありがとう大丈夫よ」と答えて、その言葉をはげみにできるうちは白魔法。

しかし、いつ白から黒の魔法に変わるのかわからないのが、この呪文の怖いところ。

それは風邪をひいて熱がある時かも知れないし、ただ何となく疲れた時かも知れません。キラキラした楽しい瞬間に、意外とカチッと切り替わったりすることも。

自分で答えた「大丈夫」の言葉に、なんだか がんじがらめ…な気分になったら、もうそれは黒魔法に変わっています。すぐに魔法を解除しなければ。

「大丈夫?」は、「やや具合が悪そうな相手に対する挨拶」として声がけに使うケースが多いですよね。

緊急かつ真剣な心配ではない場合が実はほとんどです。無理をして「大丈夫」と答えたところで、いっしょうけんめい耐えている我慢強さに相手が感動したり、高く評価してくれるわけではない、と私は思う。

ですから魔法解除の言葉も、気楽に選んでまいりましょう。

「ダメ大丈夫じゃない(笑顔で)」
「今のところは何とか・・・」
「本当につらくなったら言うね」

すべての返しに「(心配してくれて)ありがとう」を添えておけば、オールオーケー。

私の老母介護の日々は、これから何年続いていくのかわかりません。

自分が放った「大丈夫」が重なって追いつめられないように。白魔法がいつのまにか黒魔法に変わらないように。

母と末永く仲良くやっていきたいな。

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