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研究能力トレーニング法

こんにちは、市橋です。
研究者は日々のトレーニングが欠かせません。

今回、研究者に必須の論理的思考や知識獲得能力を強化したい方に向けて書きます。

皆さんの周りに、研究の論点をすぐに見抜く、膨大な知識量と深い考察、天才的な発想をする、といった異常に優秀な研究者はいませんか?こういった方の研究能力は生まれつき備わっているわけではなく、日々のトレーニングによって鍛錬されています。私もこれまで多くの優秀な研究者に出会い、とても敵わないという思いを何度も体験してきました。

今回、アメリカで所属していた研究室での取り組みに基づいて、優秀な研究者になるための研究能力トレーニング法を共有したいと思います。

1. 考える力の鍛え方

優秀な研究者の思考行動

これまで私が出会ってきた優秀な研究者の考える力についてまとめたいと思います。

もちろん、世の中には色んなタイプの研究者がおり、それぞれに優れた点があり、多様な人材が組織を強くしているという事実を前提にしています。ただ、多様な研究者集団のなかで、議論しているとその賢さに惚れ惚れしてしまうような頭脳を持った研究者が存在しており、このような研究者が新しい研究領域の潮流を先導し、多くの発見に寄与していることもまた事実です。

優秀な研究者と話していると、全く考えもしなかったような突飛なアイデアを導出するということを目の当たりします。しかもそのアイデアはしっかりと論理立てられていたりするので、あたかも神が降臨して世の中の真理を教えてくれたかのような気分にさせられ、我々の理解の範疇を超えた能力に圧倒させられます。一体、どのようにして彼らはこのような能力を手にしたのでしょうか?

私が出会ってきた優秀な研究者には共通する行動がありました。

【優秀な研究者に共通する思考に関する行動】
・ 理解するために積極的に質問する
・ データに基づいて議論する
・ 正しい情報を正確に把握して記憶している
・ 具体的に考える、すぐにプロジェクトを計画する
・ 期待される結果を予測してさらに2つ3つ先のことを推察する
・ 行動が早い
・ 妄想が多い

これらの行動から、優秀な研究者の思考がどうなっているのか考えてみたいと思います。

まず世の中にある真理や本質といったコアの部分は、表面をなぞっただけではその全貌を見ることはできません。つまりどんな研究対象であっても断片的な情報しか私たちには与えられていません。そのような状況のなか、優秀な研究者は、断片化された多くの情報の一つ一つを精査して正しい情報のみを抽出しそれらをつなぎ合わせて、矛盾が最も少ない真理の姿を導き出します。さらに自身の考えやアイデアが正しいのか検証する方法についても同時に考えを巡らせ具体的な手順に落とし込むことをします。これら一連の思考があまりにも高速で処理されるため、彼らの話を聞いていると「天才である」とただただ圧倒されるとなる訳です。

それではこのような思考力は生まれつきの才能なのでしょうか?

もちろん遺伝的な個体差はあるものの、トレーニングすることで後天的に身につけることができる能力だと考えられます。かくゆう私も、博士課程のころは研究室の方の高速な脳の回転に全く付いていくことができず、ただただ圧倒されているばかりでした。しかし、そういった環境に身を置くことで少しずつトレーニングされ、多くの研究者と対等に議論できるようになりました。

効率的な思考トレーニング法

それではこのような思考力を効率よく鍛えるにはどうしたら良いのでしょうか?

そのヒントは私が出会ってきた優秀な研究者に共通する思考の行動にあると思います。そして、そのような思考の行動を見つけるために、効果的な取り組みをしている事例をアメリカ留学で経験しておりました。

その具体的な方法は、「チョークトーク」です。

チョークトークとは、黒板にチョークで文字や図を書きながら説明するプレゼン・講義のスタイルです。スライドを使う場合に比べて、リアルタイムで書く動作が特徴であり、重要なポイントを強調する等エンターテイメント要素が強い手法になります。

私が所属していた研究室では研究の進捗報告であるプログレスミーティングをチョークトークで実施しておりました。実際、アメリカ留学のときの私の周りには思考力に優れた研究者が多ったのですが、このようなトレーニングを日々実践していれば、否が応でも優秀な研究者の神経回路になると納得しました。

具体的に私が体験したチョークトークの手順をご紹介します。

【チョークトークの流れ】
・ ホワイトボードとペンなどを準備する
・ 終わりの時間を決めておく
・ 参加者は発表途中で質問できる
  ▽
・ 研究の背景・方法・結果・考察を文字や図を書きながら解説する
・ データは、要点のみわかるような図や数字などを書く
・ 詳細な情報は口頭で解説する
  ▽
・ 今後の進め方を話す
・ 計画している実験で期待される結果などを述べる

実際にチョークトークを体験してきた感想としては、スライドを使ったプレゼンに比べて、とにかく緊張します。よりどころになるのが自分の脳一つというところがなんとも心細く感じ、最初のころは自宅でチョークトークの練習をして挑んでおりました。

また研究に対する理解度がチョークトークの出来に如実に反映されます。研究を始めた経緯やその必要性など研究のバックグランドに論理の一貫性が必要とされます。そのため、研究をうまく進めることができており、生産性が高い研究者は総じてチョークトークが上手な傾向がありました。一方で、そもそも論理的に破綻していたり、スライドでなんとなく誤魔化して発表することに慣れている方がチョークトークをすると、どんどん変な方向に話を進めてしまい、最終的には自滅するケースをよく目の当たりにしました。

さらに、私が所属した研究室では発表順を当日のくじ引きで決めていたので、いつでもチョークトークができるように準備しておく必要がある状況でした。このように、研究者としての知識や論理的思考を包み隠さずにオープンにした状況で議論を戦わせることで、(精神的にはとてもタフですが)ものすごく効果的なトレーニングになると実感しております。

2. 情報収集力の鍛え方

優秀な研究者の情報収集

私が出会ってきた優秀な研究者の情報収集についてまとめたいと思います。

彼らが持つ情報の量や範囲は、多くの研究者が持つ情報を圧倒的に凌駕しています。優秀な研究者と話していると、とにかく色んな事を知っており、また一つ一つの情報がクリアである印象を受けます。また好奇心が旺盛で関心の幅が広く、知識に対して貪欲です。また何よりサイエンスを愛しており、その愛が会話を通して伝わってくるため、こちらもワクワクしてきます。一体、どのようにして彼らは情報を収集しているのでしょうか?

私が出会ってきた優秀な研究者には共通する行動がありました。

【優秀な研究者に共通する情報収集行動】
・ 知識に貪欲
・ データをよく吟味する
・ その場ですぐに調べる
・ 耳学問で知識を吸収する
・ よく人と話している
・ サイエンスが好き

人間には限られた時間しかなく、一度に収集できる情報も限られています。また研究者の仕事として情報収集だけに時間を費やすことはできず、むしろ研究に多くの時間を費やします。このような状況から考えると、上記した優秀な研究者に共通する行動は、限られた時間の中で効率良く情報収集をするために洗練された行動だと捉えることができます。情報を制するものは戦いを制すと言いますが、情報の重要性を第一に認識しており、常にオープンなマインドであることを反映した行動です。

ただ多くの研究者が研究コミュニティを通して情報交換しているため、「情報ソース」にその秘訣がある訳ではないようです。むしろ多くの研究者があまり意識していない行動として、「データをよく吟味する」と「その場ですぐに調べる」が特に重要なのではないかと考えられます。というのも、優秀な研究者ほど高い精度の情報を持っており、またその意味するところを深く考察しております。取得した情報を単に知識として持っているだけでなく「知恵」に昇華させている点が他者と大きな差を生み出していると考えられます。ただの知識から知恵になるまで落とし込んでいるからこそ、その知恵が核となって雪だるま式に関連の情報が収集されていきます。

効率的な情報収集力トレーニング法

それではこのような効果的な情報収集力を鍛えるにはどうしたら良いのでしょうか?

その具体的な方法として、アメリカ留学で経験した取り組みを紹介したいと思います。それは、多くの研究室で実践している論文紹介(通称ジャーナルクラブ)に少し変わった工夫がされています。この少し変わったジャーナルクラブに、知識から知恵に昇華する情報収集力のトレーニングが含まれております。

その工夫とは、担当者が一方的に論文を紹介するのではなく、「参加者が図表を解説する」というオプションが入っていることです。

このたった一つのオプション「参加者が図表を解説する」で通常のジャーナルクラブとは全く異なる体験になり、得られるメリットが格段に大きくなります。

具体的に私が体験したアメリカ式ジャーナルクラブの手順をご紹介します。

【アメリカ式ジャーナルクラブの流れ】
・ 演者は紹介論文を事前に参加者に共有する
・ 紹介論文は最新で当該分野でインパクトがある論文が良い
・ 参加者は必ず論文に目を通す
  ▽
・ 当日、演者は紹介論文の背景情報を解説する
・ なぜこの論文を選んだかも伝えると良い
・ スライドは使う必要はない(使っても良い)
  ▽
・ 演者が図表一つずつに対して参加者に解説を依頼する
・ 参加者は図表が何を示すのか解説する
・ 不足があれば、演者が補足する
・ 紹介論文の図表全てについて上記を繰り返す
  ▽
・ 最後に演者が結論を解説して総括する
  ▽
・ 全体を通して皆で議論する

実際に留学4年間に体験した感想としては、毎回演者じゃなくても紹介論文を読み込まないといけないので面倒だと最初は思っておりましたが、実際に参加し続けると論文を読み込む良い習慣になっていると感じました。

また図表を解説するのは演者でなく参加者になるので、演者が準備する負担は軽減されます。また一方的に演者から紹介論文の内容を学ぶわけでなく、演者にとっても参加者からの解説により「そういった見方や解釈があるのか」など、演者も参加者も双方にとって多くの気づきを得ることができました。

参加者全員が共通に紹介論文を読むことによりグループ全体での知識が向上するとともに、個人的な解釈の誤りも修正されるといったメリットを強く感じました。また全体を通して議論することで、紹介論文のデータやインパクトなどを吟味でき、自分達のプロジェクトにもフィードバックする考えも生まれました。加えて、学生〜教授クラスまで様々なキャリアの方が参加しており、教授クラスの方がどのように論文を読み解いているか知る機会になるのでとても学びが大きいと感じました。

このように、いつものジャーナルクラブに少しの工夫をすることで、紹介論文の情報を知識として取得するだけでなく、取得した知識の解釈や関連性を議論する機会となります。知識から知恵に変えていくことができるようになると、大量に流れる情報から関連する情報を自然に引き寄せることができるようになり、ものすごく効果的な情報収集力のトレーニングだと実感しております。

3. さいごに

今回紹介した方法は、あくまでも私の経験に基づいているため、それらの効果は個人によって差があると思います。

スポーツでトレーニングすれば上手くなるように、研究能力もまたトレーニングすれば上手くなります。今回の記事が研究者の皆さんにとって意識改革の参考になれば嬉しい限りです。

今回は以上になります。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

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