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研究費獲得のヒント

こんにちは、市橋です。
日々、研究費支援に感謝しながら研究に邁進しております。

今回、研究費の獲得に苦労されている方に向けて書きます。

若い頃の私はなかなかフェローシップが取れず、辛い日々を過ごしておりました。しかし、ある時期からフェローシップを立て続けに獲得できるようになり、採択率10%以下のフェローシップにも採用していただきました。
*フェローシップ:研究助成金制度のこと。研究費に加えて生活費等がサポートされる。

研究費についても、これまで私が代表で申請したものは70%以上の確率で採用してもらえました。

また最近では、私が指導させてもらった方からも嬉しい報告を多く聞くようになりました。

そこで、私が博士過程の頃から模索してきた10年以上の経験に基づき、研究費の獲得についてシェアします。

1. 研究費を獲得するためのマインド

いきなり精神的な内容かとガッカリされる方がいるかもしれません。

ただ私の経験上、どんなテクニックよりもまずはマインドを変えることで全てが変わったと実感しております。そのため、まずはマインドについて書かせていただきます。その後で、具体的な方法を書きたいと思います。

前述した通り、若い頃の私はなかなかフェローシップが取れない日々を過ごしておりました。博士号取得後すぐに結婚して渡米していたので、一家を支える者として、また社会人として、フェローシップが取れない時期はとても惨めな思いをしました。

一方で、自分にとって研究が全てだと強く思い込んでいたため、研究の内容について助言してくれる方の好意的な意見でも人格を否定されたように感じてしまい、聞く耳を全く持てない心理状況でした。つまり、自分の中の理想とフェローシップを獲得できない現実のギャップに悩まされていました。研究費の獲得に苦労されている方の多くも、同じような悩みを抱えているのではないでしょうか。

そのようななか、幸運にも、いろんな分野のいろんな研究者と会って話す機会に恵まれました。

多くの研究者とお話することで、以下のように思うようになりました。

プライドを捨てて、何がなんでもフェローシップを獲得する
自分で研究費を獲得できてはじめて、研究者の土俵に上がったことになる

今まではフェローシップの採択者と自分を比べて、自分のアイデアの方が優れている、審査員には見る目が無いと自分で慰めていました。これは「スポーツ観戦をしながら、選手のプレーを批評している」ことと一緒ではないかと思いました。自分は、評論家ではなく、研究者というプレイヤーになりたいと思うようになりました。

フェローシップを獲得することが重要だと心から思い、それに向けた努力を積み上げるしかない、と考えるようになってから、私の行動が自然に変わりました。なりふり構わず、フェローシップを採択された方に教えを乞うようになりました。

そこでお世話になった方の多くは今でも親交があり、私が尊敬してやまない人達ばかりです。本当に多くを学ばせていただきました。そのおかげで、私もフェローシップを取ることができました。ただ今振り返ると、もっとも大切なことは「自分のマインドを変えた」ことであり、いかにこれまで自分が「自己満足」的な申請書を作成していたのか気づかされました。

自己満足から抜け出し、自分の研究の良さを審査員に伝えて、評価されるように努力するしかない

これが最も大切でした。
ここから全てが変わりました。

2. 研究費を獲得するためのヒント

それでは、私が多くの先輩方の指導を受けて、学んで、実践して、実際にフェローシップや研究費を獲得できるようになった具体的な方法について書きます。

【研究費を獲得できるようになった方法】
1. 時間を確保する
2. 公募の内容を熟知する
3. 審査されるとは何かを知る
4. 構成が8割だと認識する
5. 文章をとことん追求する
6. 理解を助ける図を作る

時間を確保する

しっかり時間を確保して、申請書に取り組む状況にすることがまずは重要です。
研究をストップさせてでも申請書作成に注力することです。言い訳できないくらい本気になるためにも、実際に時間を確保することが大前提になります。

公募の内容を熟知する

公募の内容を読み込むことが重要です。
どんなに良い研究内容であっても、公募内容に合致しない申請書は審査対象にすらなりません。また公募の内容には多くのヒントが隠されていますので、何が求められているのか、しっかり把握した上で申請内容を考えることが必要です。

審査されるとは何かを知る

審査員に評価されてはじめて採択されるかどうかが決まります。
審査員は皆さんと同じ人間が行なっており、そこには公平に評価するための審査基準が決められています。まずは審査されるポイントは何か、そこに自身が提案する内容でアピールできるか、しっかり見定めましょう。

また審査員が置かれている状況にも想像力を働かせましょう。
審査員の多くは同じ研究者の場合が多くなります。毎日の研究をしながら、ある一定の時間を割いて多くの申請書を審査しています。採択率が低い研究費であれば、より多くの申請書を一度に審査することになります。つまり、審査員が一つの申請書に割ける時間は非常に短いのです。そのような審査員の状況から、どうしたら競合の申請書よりも高評価を得ることができるのか考えると自ずと答えがわかってくるでしょう。

例えば、審査員は全ての申請書に好意的な姿勢ではなく、審査する立場上、基本的には批判的な姿勢で申請書を見ていることが想像できます。その時に、複雑なロジックを読み解くようなことは嫌うはずですし、読み進めて文章に違和感があったり、タイポがあったりするのはマイナスに評価することでしょう。もちろん研究内容が重要なのですが、審査員が審査できるクオリティに達していないものは、肝心の研究内容の審査まで辿り着いてもらえないと考えた方が良いでしょう。

構成が8割だと認識する

すぐに文章を書き始めないこと。
まずは文章の構成をしっかり考えることが重要です。申請書作成において、ここに一番時間や労力を割くと心得ておくと良いと思います。

どういった研究内容にするか、関連する情報を収集して精査する必要があります。さらに、それらの情報をどのように論理的に述べていくか、必要な図表をどのように配置していくか決めていきます。また常に公募の内容や審査基準に照らし合わせて、採択される可能性を高めていく必要があります。

このように、実際の文章を書き始めるまでに決めるべきことが沢山あります。コンテンツとしてもうこれ以上精査できないと判断するまでしっかり考えるおきましょう。構成をしっかり考えていれば、いざ文章を書くときに迷うことは少なく、「筆が乗る」という感覚を実感できるでしょう。

文章をとことん追求する

一文一文がピカピカ光り輝く申請書」にしましょう。
これは私に指導してくれた先輩の言葉です。文を書くことはとても奥深いです。審査員にとって読みやすく、誤解なく研究内容を理解してもらい、良い部分がきちんと伝わる文章にするため、何度も何度も推敲することが必要です。

私も慣れていない時は、一文に何時間も費やすことが多々ありました。しかし、決してそのような時間は無駄ではなく、文章に対する試行錯誤の経験を通して、文字で伝える大切さを実感するようになります。

ただ何度も推敲するうちに、自分の書いた文章に慣れすぎてしまい、うまく文章を精査できない時が来ると思います。その場合は、何日間か寝かせてから、また推敲しましょう。可能であれば、過去に同じ研究費に採択された方にも見てもらってフィードバックをもらうことができると良いです。とても地道な作業ですが、このような文章をとことん追求した者だけが到達できる高みがあることを知ってください。

理解を助ける図を作る

人間は視覚に頼る動物のため、図の影響力は大きいです。
例えば、申請書の内容を一目で理解できるような「研究内容の概要」、計画の実現性を示すための「予備実験結果」、計画の妥当性を示すための「研究計画のスケジュール」のような図を作ると効果的です。

ただ、文章を疎かにして、図へのこだわりが強くなってしまう方がいますが、図はあくまでも申請書の内容の理解を助けための一要素として捉えておくのが良いかと思います。

いかがでしょうか?

どれも当たり前だろうと思うかもしれません。しかし、魔法のようなトリックはありません。これら当たり前のことがしっかりできているかどうかで大きな差が生まれます。

3. さいごに

自身で研究費を獲得できるようになることは、研究者人生を劇的に改善してくれます。また実際の結果にかかわらず、その過程で学ぶことは、研究者として一回りも二回りも成長させてくれます。

この記事が、研究費の獲得に苦労されている方の参考になれば嬉しい限りです。

今回、私の経験に基づいた内容を伝えさせてもらいましたが、もっと体系的に学びたい方、個別ケースのことも深堀りしたい方は、研究資金獲得について多くの書籍がでております。
何か一冊を手に取り、読み込んでみると良い思います。

また申請書作成にあたってデザインにも意識されると良いかと思います。
私も重宝させてもらっているデザインの本はこちらです。

伝わるデザインの基本

今回は以上になります。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

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