津森七

さみしさと手を繋いで生きているひとの小説を書いています。 https://store.…

津森七

さみしさと手を繋いで生きているひとの小説を書いています。 https://store.retro-biz.com/profile_o900.html

最近の記事

小説同人誌『孕む』サンプル

少年に、狂う。 四方を山に囲まれた小さな村に父と二人で太一が越してきたのは、水を入れた田が一面に青空を映し出すより前の、ある年の初夏のことだった。 「あすこの家は呪われているから、関わったらだめなんじゃ」 四宮家の末の子、馨は、太一を産んですぐに蒸発したという母に、似ているように思えた……。 少年に、狂う。少年が、狂う。四年に一度の祭りの晩、誰も知らぬ間に起きた、おぞましい出来事とは──。 本文サンプル ※実際の本文には段落ごとの空行はありません。  四方を山に囲ま

    • 小説同人誌『少年についての独白』サンプル

      少年に、出会ってしまった。 上手くいかない人生を抱え途方に暮れていた津野田温は、ある最悪な朝、一人の少年と出会う。現実逃避から少年との交流を重ねた温は、やがて、後戻りのできないラインを踏み越えてしまい━━。 本文サンプル ※実際の本文には段落ごとの空行はありません。  津乃田温は不気味な男だった。  第一印象はむしろ逆で、とりわけ特徴のない顔立ちの、普通の話し方をする普通の男だった。平均よりは不幸で、かと言って波乱万丈と表現するほどでもない、ありふれた生い立ちの男だ

      • 文学フリマ東京と京都、果たして売れるのはどっち?

        2024年1月14(日)、文学フリマ京都8にサークル参加してきました。 これまでリアルイベントといえば文学フリマ東京にしか参加してこなかった関東在住の私。 その私がなぜ今回、文学フリマ京都に出店したのか。 それは…… 東京より他地域の文学フリマのほうが売れる! と聞いたからです。 出店数・来客数ともに他を圧倒する東京よりも、規模の小さな地方のほうが売れる? そんなことある? そんな疑心と期待を胸に、私は文学フリマ京都に出店を申し込みました。 筆者の出店歴さて結果は

        • 月の居る町(短篇小説)

          「それで、お月さまって一体誰のことなんです?」「お月さまはお月さまに極まってるだろう」  小さな町の小さな交番に、ある晩、お月さまに殴られた●●氏がやってきて──。  2023年5月に完売した同人誌の有料公開です。月に狂う、大人向け童話。 「で、今度はいかがいたしましたかな、●●さん」  夜風が心地よい、秋のはじめの晩でした。「どうしたもこうしたも」そう返す老紳士の顔は怒りで真っ赤に茹で上がっています。彼の切れた口の端を見れば、誰かにひどく殴られたであろうことは明白でした

          有料
          300

        小説同人誌『孕む』サンプル

          文学フリマ京都8に出店します(試し読みあり)

          2024年1月14日(日)、つまり明日、文学フリマ京都8に出店します。 文学フリマ京都へは初の出店となります。つまりお品書きのどれもこれもが新刊のようなものです。すばらしいですね(と己に言い聞かせ、新刊のない不安をごまかしています)。 当日はぜひ『七つ森舎』にもお立ち寄りいただければ幸いです。 肝心の頒布物はこちら。 短篇小説『少年についての独白』文庫判28ページ/400円 少年に、出会ってしまった。 上手くいかない人生を抱え途方に暮れていた津野田温は、ある最悪な朝

          文学フリマ京都8に出店します(試し読みあり)

          はじめまして、の代わりに小説を。

          はじめての記事に何を書けばいいのか悩んでしまったので、自己紹介がわりに小説を置きます。 文学フリマ東京37で配布した、フリーペーパーの中身です。 「✕✕✕✕のチョコレートを毎月プレゼントしてくれる人となら結婚してもいい」と鹿乃子が言ったので、「じゃあ私と結婚して」と間髪入れずに返した。  ✕✕✕✕はフランスの有名なショコラティエが手掛けるチョコレート専門店で、日本でこの店の品を手に入れようとすると、個人輸入か、バレンタインの時期に百貨店のイベントで買うかくらいの選択肢しかな

          はじめまして、の代わりに小説を。