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物忘れと言わないで

去年の秋、婆さんの物忘れがひどくなり、カギや携帯電話を無くしたり、置いた場所を忘れて探してたりということが増えた。

婆さんのそんな様子を見てこちらも不安になった。

私が「婆さん、随分物忘れがひどくなった。」と言うと、「そんなこと言わないで。」と、婆さん。


今度はもう失くさないで
ちゃんと仕舞って
大事なものだよ
これを無くしたら、もう無いよ


こんなことを言ったとしても、これから注意深くなるとか、仕舞った場所を忘れないように気を付けるとか・・・無い。




むしろ
不安そうな顔になる。
萎縮する。

また失くしたらどうしよう。
今度見つからなくなったら?

心が落ち着かなくなる。
婆さんから笑顔がなくなる。



もう独り暮らしは無理なのか?
もっと近くに住んでいれば。
私が実家にいれるうちに、どうにかしないと。

あれもこれもと焦ってたのは自分。

一人でバタバタして、大変ぶっていただけ。


実家にいる時は婆さんのご飯を三食用意する。せめて自分がいる間だけでも暖かくて栄養のあるものを、なんて思ったりもしたけど。

Uターンして自宅に戻ったとたん、自分の食事に手を抜く。食べるのを忘れる。いつの間にか夫が一品何か作っている。

何を出しても美味しそうに食べてくれる婆さん。そんな姿を見るのがうれしくて、自分も一緒にきちんと三食食べていたんだ。

婆さんの物忘れが気になるようになってから、もうすぐ一年。

たった一年弱手出ししただけで、まるで立場が逆転したようなつもりでいた。


私は今年60歳。婆さんは少なくとも59年間は、ちゃんと母だった。

そして今も立派な母親だ。

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