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キルタの物語。

ある所に、”キルタ”という、人間の歳で言うと8歳になる野生のキツネが住んでいました。幼いキツネのキルタくんは、首元にいつも紺色の生地に金銀の水玉模様の蝶ネクタイをつけていました。

彼の家のすぐ近くには、“ベッポル畑”と言う名前の田舎町があり、人々が行き交っていました。町には、小さな小川や水車や市場があり、レンガ調に作られたこの町は、全体が綺麗なオレンジ色をしています。

キルタくんは、そのベッポル畑のすぐ横にある山の奥で一人静かに暮らしていました。キルタくんには家族がいません。仲間もいません。彼の暮らす山には他の動物たちも居ないので、ずっと一人で暮らしていました。親とは小さい頃にはぐれたきりで、顔も覚えていません。

唯一の記憶は、自分の名前が“キルタ”であること。
そして唯一の持ち物が、小さい頃から首元につけている蝶ネクタイ。
この蝶ネクタイはキルタくんのお気に入りです。

なんで名前を覚えているかって?

それはね、彼の毎夜毎夜の夢に秘密があったのです。

眠っている時に朧げに浮かんでくる景色。そこには誰だかわからないけど、彼のことを、「キルタ!キルタ!」と呼んで遊んでくれる影。
その夢を見るたび、キルタくんの胸は、なんだかとても温かくなるのでした。

キルタくんは、毎日山から町の様子を見下ろして、人々の行き交う姿を見ているのが大好きでした。

朝と夕には、太陽の光がキルタくんの蝶ネクタイの金銀模様に反射して、
山の中を、そして町中をキラキラと輝かせます。そしてオレンジ色のベッポル畑は、更にオレンジ色を増してキラキラと輝くのです。
一日に2回訪れる、このなんとも美しい数分間は、誰もが思わず息を呑むほど美しい時間です。

ある日、いつも通り山から町を見下ろしていると、ふと心に留まることがありました。町の人々達は、いつも色々な表情をしているのです。笑ったり、泣いたり、怒ったり。キルタくんは不思議に思いました。そして、自分にはそんな事がないことに気づきました。

その夜、キルタくんが眠りにつくと、またいつもの夢を見ました。
いつもなら、見ると胸が温かくなる夢。
でもその日は夢から覚めると、なんだか胸にぽっかりと穴が空いた様な感覚になりました。
「あの影の、先を見たい。」
キルタくんは初めてそう思いました。

次の日。また町を見下ろしていると、次第に、町の人々に会って見たいと思う様になってきました。
「あの人達は、僕に無い何かを持っている。知りたい。」

そう思い立って、キルタくんは町に降り立つことにしました。

町に降りる途中で初めて会った人間は、大柄な男の大人たち。
キルタくんが勇気を振り絞って話しかけると、大柄な大人たちは、
「汚らしいキツネが!こっちくるな!喋るとはなんて気色の悪い。あっち行け!!」と罵ってきました。

あまりのことにびっくりしているキルタくんを、大人たちは容赦なく何度も殴りつけてきました。

傷だらけになったキルタくんは、怖かったけれど必死の思いで逃げ出して、
走って、走って、ようやく小さな小川まで辿り着きました。

誰もいないその小川で、キルタくんは自分の傷をペロペロと舐め始めました。

キルタくんがしばらく傷を舐めていると、ちょうど通りかかった少年が、キルタくんに気付いて駆け寄ってきました。少年にびっくりしたキルタくんは、慌てて逃げようとしましたが、少年が、「待って!大丈夫だから!逃げないで!」と言いました。

少年は、傷を負ったキルタくんを見ると、「かわいそうに。痛かったろう。もう大丈夫だよ。」と言って、優しく傷の手当てをしてくれました。

さっきまで怖くて、震えていたキルタくんでしたが、傷口に優しく触れてくれた少年の手に、思わず涙が溢れ出てきました。
少年は、「もう大丈夫。もう大丈夫だよ。」と言いながら、優しくハグしてくれました。

「君は素敵な蝶ネクタイをしているね。」
「ありがとう。これは僕のお気に入りなんだ。朝・夕になると、太陽の光が反射して、キラキラととっても綺麗なんだよ。」
「もしかして、あの町中を、いつもキラキラ照らしているのは、君だったの? 僕はあの時間が、いや町中のみんながあの時間が大好きなんだよ! どうもありがとう!」

少年が満面の笑みでそうキルタくんに言うと、キルタくんは嬉しくてまた泣き始めました。

キルタくんは気付きました。
「僕が探していた、僕に無い何かは、これだったのかもしれない。」と。
「ねえ、なんで僕は嬉しいの?なんで僕は涙が出てくるの?」と少年に尋ねてみました。

少年は言いました。
「それは心があるからだよ。」

その瞬間、キルタくんは、夢の影の先にいる、お母さんやお父さんの優しい顔を思い出しました。

「やっと見つけた。ここにあったんだ。
大切な思い出も、僕の中に、心の中にあったんだ!」

それからキルタくんと少年はいつまでも一緒に楽しい日々を過ごしました。

おしまい。






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「キルタの物語」を最後まで読んでくださり、ありがとうございました。🤲💓
こちらは、2021年の3月頃に、私の恩師middle-note先生のメルヒェン・テラピー受講の元、書かせて頂きました、私にとって3作目のノベルです。☺️

こうやって、狐のキルタくんが私の元に来てくれたことが、とても嬉しいです。💓☺️
middle-note先生、この度も沢山の愛をありがとうございました。🤲💓✨✨


今日も皆様にとって、素敵な日になりますように🙌💓
Have a beautiful day💓



この度は最後まで記事を読んで下さりありがとうございます☺️💓 これからも素敵な日々があなた様に訪れますように^^ Have a wonderful day🙌💓✨✨