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カイジュウ・ガール

 私はランウェイを歩くモデルのごとき優雅さで、リノリウムの床を歩いていた。しかしこの頭痛が、波のように押しては引いていく痛みが、口元に歪んだ笑みを浮かばせる。

 もちろん本物のモデルなど知らないし、興味もない。だが今は、そういう気分だったのだ。

 身に着けた簡易服は血に汚れ、髪から垂れる赤い水滴が歩いた道に点々と印をつける。

 長い通路の先に銃を構えた男たちが集結し、一斉に銃口をこちらに向けた。それと同時に頭痛がピークを刻み、思わずその場にうずくまった。

 どうしてこんな時に、そう思うのと同時に痛みが何かを叫んでいるのが分かった。解放しろと叫んでいる。

 だがそれは違う。欲しいのは解放ではない。鎮痛剤だ。きっとこれもただの幻聴だ。

 そう自分に言い聞かせるが、それを否定するかのように頭痛はますます痛みを増して私を襲った。

 鳴り響く銃声が鼓膜を震わせ、銃口に咲いたマズルフラッシュが男たちの影をそこら中に焼き付ける。

 あらゆる刺激が殺到し、ついに『溢れた』。

 私は獣のような叫び声を放ち、自分の影が廊下を覆った。こちらに飛んできていた弾丸は闇に飲まれて消え去り、男たちの困惑した表情から光を奪う。

 そして壁から、影が二次元の平面から滲みだし、三次元の立体へとその姿を投影していく。

 長い手足に、爬虫類のような顔と白っぽい鱗に覆われたそれは、鋭い牙をむき出しにして吠えた。

 そうだ、これだ。それを一目見た瞬間に、私はそう確信した。

 ずっと私の中にあって、それでいて私でないものの正体だ。

 さぁ。

 私は言った。

「さぁ行って! もう何にも縛られない! 私たちは自由なんだから!」

 私の呼びかけに応えるように咆哮すると、一直線に飛び出していった獣は男たちを蹂躙していった。

 その光景を見て、私は自分自身が何者なのかを悟った。

 今までさんざん化け物だの怪物なのだと呼ばれ続けてきたが、それは違う。

 私は獣。怪しい獣だ。


 そう。私の名は、カイジュウ・ガール


【つづく】

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