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『真・三国無双8』、まったく無双できないぞ、なんだこれ。


それでも僕は、『真・三國無双8』が好きだ。
突然なんの話かと怪訝に思われる人も多いだろう。

読者諸兄は「無双」シリーズをプレイしたことがあるだろうか?
僕は現在20代半ばである。
コンシューマーゲームが好きな同世代のなかで、このシリーズにまったく触れていない人間は少ないのではないか。

それくらい、一世を風靡したシリーズである。
そのシリーズの最新作が『真・三國無双8』だ。
2018年2月8日にプレイステーション4、Steamで発売された。

しかし、この作品、評判がすこぶるわるい
例をだそう。

「ゲームカタログ@Wiki ~名作からクソゲーまで~」というサイトがある。
そちらでの『真・三國無双8』の評価はこんな感じだ。

「シリーズファンから不評」という評価をくだされている。
まあ、平たくいってしまえば、クソゲーということである。

しかし、僕はこのゲームが大好きだ。
だから、とても悲しい。

では、なにがそんなにダメだったのか。
簡単にまとめてみよう。

と、その前に、このテキストの目的を宣言しておく。

『真・三国無双8』はたしかに弱点の多い作品である。
しかし、そういう欠点もろもろを受け止めたうえで、それでも、作品を擁護してみせる。
そんな判官贔屓みたいな真似をすることが目的の記事である。

あ、ちなみに、僕は読者ホスピタリティのプロだが、さすがに「三国志」自体の説明はしない。

くわしくない人は適宜ググるか、いますぐ図書館にいって横山光輝の漫画『三国志』を全巻読んできてくれ。

では、いってみよう。

・残念な新規要素

このゲーム、マンネリの打破を掲げて、多くの要素をリニューアルしている。

草刈り脳死マンネリゲーといわれつづけたシリーズを一新して、まったくべつのゲームにつくりかえているのだ。

そのために、新規要素も大量投入されている。

もっとも大きな変化はオープンワールドの導入だろう。
ゲームをあまりプレイしない人にはいまいちぴんと来ない用語かもしれない。
乱暴に定義しておく。
「オープンワールド」とは、
「ゲーム自体が1枚の巨大マップで展開され、プレイヤーはその世界を好きに動き回れることが特徴のゲーム」
である。

プレイヤーは世界を気ままに冒険して、あるときはメインクエストを進めて、気が向かないなら延々お使いを楽しむこともできる。

そういう自由度の高さが売りのシステムだ。
「fallout」シリーズあたりが有名だろうか。


もっといえば、オープンワールドは最近のゲームの主流である。
「ゼルダの伝説」ですら、オープンワールドを採用している。

「無双」シリーズも最近のトレンドに乗っかったわけだ。

これまでのシリーズは、ステージ制だった。
「三国志」における有名な戦争をひとつのステージに見立てて、それを追体験していくという方式だ。

それをやめてオープンワールドになったのだ。
この新規要素は、「無双」のゲームシステムに決定的な大変化をもたらせた。

しかし、まことに残念ながら。
この要素が決定的に不評だった。

なにがそんなにダメだったのか。
簡単に確認しておこう。

先ほどのサイトでは、
「マンネリ化打破を目指すもことごとく裏目に」と身も蓋もない罵倒を浴びている。

たしかに、そういわれても、しかたない側面もある。

「無双」シリーズをプレイしたことのある人たち、ちょっと想像してみてほしい。
過去にこんな状況がなかっただろうか。

ゲーム中に登場するミッションやクエスト。
達成せねば、味方が不利になるか、最悪ゲームオーバーになってしまう。

めんどくさいが、ステージマップの端から端まで馬を飛ばして、急行せねば。ないなら、ダッシュだ。 

こういうことがしょっちゅうある。
ゲームの緊張感を高めることには寄与するが、ぶっちゃけめちゃくちゃにめんどうくさい。

オープンワールドの導入により、その規模がめちゃくちゃにデカくなってしまったのだ。
世界の端から端をくそダルイお使いミッションのために駆けずり回る。
俺は飛脚か。

そもそもオープンワールドは、世界を探索することそのものが醍醐味である。
しかし、『真・三國無双8』のワールドは、ただ広いだけで大した特徴がない。

ひたすら原っぱと川と山だ。
そこを馬で爆走して、たまに野生の熊やら虎やら山賊に襲い掛かられる。
基本的には、それの繰り返しである。

当然、めんどくさいし、そんなワールドはすぐに飽きる。
だから、プレイヤーはワープを使うことになる。
目的地の近くまで、ルーラで終了だ。

はい、これでオープンワールドである意味は完全に消失した。

こんな感じで、ぶっちゃけ『真・三國無双8』が駄作といわれる原因のほとんどは、オープンワールドの失敗にある。

・兵ひとりでは大局は変えられない


と、ここまでは最大の目玉要素であるオープンワールドがいかにめんどくさい要素になっているかを確認してきた。

ここからは、ゲームのシナリオについて話を進める。

しかし、ここで突然だが、ひとつ読者に質問をしたい。

最強兵士ひとりで戦争に勝つことはできるだろうか?

たとえば、「三国志」の世界には呂布という男がいる。
彼は、一騎当千の武力をほこり、戦場を駆けまわりつづけた。

呂布は天下を統一することができただろうか?
答えは、もちろん、否である。

あたりまえの話ではあるが、兵ひとりで大局は変えられない。
一騎当千、万夫不当の武を誇っていても、戦争に勝つことはできない。

「戦いは数だ」と、どっかのザビ家がいっていたが、それは端的に真である。

だからこそ、だ。

ゲームの世界くらいでは、僕たちは一騎当千したい。
プレイヤーの圧倒的なパワーでもって、戦争を勝利に導きたいのである。
すべての戦争を題材とした英雄譚は、おなじような構造をもっている。

そういう個人の活躍を、僕たちは「無双」と表現する。
ひとりで千人を叩き切って、無双する。
それが「無双」シリーズの醍醐味だ。

しかし、『真・三國無双8』は、いっさい無双ができない。

いや、ひとりで大軍を蹴散らすことはできるのだ。
オープンワールドによって世界が拡大したことにより、物理的に切れる人数も爆増している。

ならば、なぜ、僕は「無双できない」といったのか?
その理由はずばりこうだ。

いくら無双しても、大局は変えられないから。

すさまじい話である。

あたりまえだが、「三国志」には正史が存在する。

なお、うるさいこといわれるのが、嫌なので断っておくが、ここでの正史とは『三国志演義』を指す。

演義を正史と呼ぶことに違和感がある人もいるだろうが、記事をわかりやすくするためだ。
目をつむってもらいたい。

そう、『真・三國無双8』は「三国志」を題材としている。
すでに事実自体は確定しているのだ。
つまり、それを物語に、小説に、マンガにするときに、基本的なストーリーラインを変えることはできない。

これは、すべての歴史を扱ったエンタテイメントの共通条件である。

途中の解釈は変えれても、どうであれ、結論の改変は不可だ
しかし、ゲームではそれができる。

プレイヤーの活躍でもって、敗北の運命を書き換えることができる。
予定調和を覆すことが可能だ。
そういうストーリー展開を、僕たちはIFシナリオなんて呼んだりする。

しかし、『真・三國無双8』にはそれがない。
曹操は赤壁の戦いで負けるし、劉備は最愛の義兄弟たちを失うし、諸葛孔明は北伐を完遂できない。

個人の活躍なんぞで、運命が変わるはずなどない。

そういう残酷な現実を、僕たちに突きつける。
無双なのに。

僕は最初、劉備でプレイした。
最終ステージは夷陵の戦いだった。

義兄弟ふたりを失い、劉備は失意と復讐心で呉に攻め込むも、火刑により大敗北を喫した戦いである。

いや、ステージとして夷陵の戦いをクリアすることはできるのだ。
しかし、かならず陸遜に火刑を浴びて、蜀は焼き尽くされる。
そして、絶望に包まれたまま、劉備は白帝城にて病没する。

この運命は、絶対に不可避だ。

僕はエンディングを観たとき、しばらく放心としてしまった。

・それゆえに輝くあの男


以上が『真・三國無双8』のシナリオの最大の特徴だ。

プレイヤーの介入によって、敗北を勝利に導くというゲームの醍醐味。
これを完全に捨て去ってしまっている。

ふつうに考えたら、ダメである。

ゲームとしては、あまり褒められた要素ではない。
プレイヤーのやる気を削いでしまうかもしれない。

しかし、結果的に。

この運命は変えられないという仕様が、ひとりの男を大きく輝かせたのである。
僕はそれゆえに、このゲームが大好きになってしまったのだ。

すべての鍵を握る男の名はーー。

姜維だ。

「三国志」に明るくない読者に向けて、説明をしておこう。

姜維とはもともと三国最大の国家・魏につかえていた男だ。
劉備三兄弟がなくなり、物語の主役が諸葛孔明に移ってから劇中に登場する。

姜維は魏の将軍として、蜀と戦う。
さなか、その才能を諸葛孔明に見初められる。
そして、計略により、魏を追われ、蜀に降ることに。

以降は諸葛孔明の後継者として、蜀の魏攻略作戦・北伐に従軍する。
また、諸葛孔明亡きあとは、彼の意志をつぎ北伐を敢行する。
しかし、思うような結果はだせず、蜀の国力は衰退。
そこを魏に攻められ、蜀は滅亡してしまう。

と、三国時代末期の蜀の軍事を支えた男として、「三国志」世界では知られている。

しかし、これまでの「無双」シリーズでは、諸葛孔明が病没する五丈原の戦いまでしかステージが用意されておらず、姜維の活躍はあまり描かれなかった。

だが、『真・三國無双8』では、姜維の北伐の時代がはじめてまともに描かれた。
ならば、師匠・諸葛孔明すら成し遂げられなかった北伐を姜維が成功させる。
そういう、熱いシナリオを僕たちは期待するところだ。

しかし、先ほど説明したシナリオの特徴を思い出してほしい。
そう、『真・三國無双8』にIFは存在しない。

だから、姜維の北伐は、かならず失敗する。

プレイヤーは姜維を操り、なんとか蜀を勝利に導こうとする。
すでに五虎将軍は全員おらず、頼りになる軍師も自分のみだ。
かろうじているのは、関羽の娘やら張飛の娘やら諸葛孔明の嫁やら、女ばかりである。

対して、魏にはいまだ歴戦の英雄がそろっており、人材の格差は著しい。
そんな状況でも、姜維は何度も北伐を断行する。

プレイヤーも必死に彼を操り、蜀を勝利に導く。
当然、シナリオをクリアすること自体は可能だ。

しかし、そのたびにやれ兵糧がなくなったとか、別動隊がやられたとか、なんのかんの理由をつけて、撤退する羽目にはる。

正史においても、蜀は魏と圧倒的な国力差があった。
なんでそんなところだけ、リアルに再現してるんだ、KOEIよ。

そうこうしているうちに、正史どおりに、魏が蜀へ侵攻してくる。
姜維は劉備の、諸葛孔明の、夢がつまった蜀をなんとか守ろうとする。
押し寄せる魏の将軍たちに立ち向かい、奮戦する。

しかし、やはり、このゲームは運命を変えさせてくれない。絶対にだ。

ゆえに蜀は降伏し、滅亡する。

なんなんだこれ。
なんで爽快感を感じたくてプレイした無双で、僕はこんなに切ない気持ちにならねばならないのか。
期待したものと、まったく真逆じゃないか。

いいじゃん、姜維に勝たせても。

ふだんの「無双」とはまったく異質のプレイ後感。
僕はそれにやられてしまった。

いいゲームだと思います。

(終わり)

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