その出会いは突然に

「ふぅ…ありがとう、おじさん」

 

「へっ、いいってことよ坊主。夢を追いかける馬鹿野郎は嫌いじゃないんでなぁ」

 

迷宮都市オラリオを目指し、数時間が経っていた。

 

気が付けば日も落ち、空を見上げれば星がちらちらと輝き出そうとしている。

 

そんな中僕はというと、小さな村で足を休めていた。

 

幸いな事に、先ほどのおじさんの小屋で寝泊まり出来ることになったので、貸してくれたおじさんには感謝している。野宿よりかはマシだろうし。

 

聞けば、ここを越えればオラリオへはすぐだという。一足先にベルが向かっている迷宮都市である。

 

そこには一攫千金を夢見た冒険者をはじめ、多くの人々がその地に集うと言われている。

 

そして極めつけには神様までいるという。それ程魅力があり、活気が溢れる都市なのだろう。

 

「明日には恐らく着くだろうし、何より…」

 

何よりもベルにまた会える。とは言っても、1日遅れなだけなので、まあ心配はしていない。

 

なんといっても人に好かれるしね。ベルは。

 

「早く会いたいなぁ…」

 

とりあえず、今日は休もう。体をしっかり回復させて明日に備えよう。

 

そう思い、目を閉じた。

 

―――――――――ォォォォッ

 

…?何だ?何か聞こえt

 

――ォォォオオオオオッ!!

 

「……っ!!」ガバッ

 

おいおい、まさか…っ!嘘だろ、こんな時にっ!!

こんな時に限って!!!

 

「「「「ブモオオオオォォォッッ!!!!」」」」

 

―モンスターかよっ!!!!

 

「…ちぃっ!」ガチャッ!

 

荒々しく小屋から抜け出し、外を確認する。そこには

 

「オオオオオオオオオッ!!!」

 

「いやぁ!誰か、誰か助k」グシャア

 

「くっそぉ!何だってんだよ!こいつら!!」

 

「おい!何で、なんでミノタウロス達·······がここにいる!」

 

――――――キャアアアァァァァ

 

――――――イヤダァァァァ

 

地獄が広がっていた。

 

「な……」

 

家屋は崩れ、場所によっては焼け落ちたりしている。それに何よりも、なんであんなモンスター達がここにいるのか。

 

見る限り、ミノタウロスや炎を吐く犬みたいな奴までと、様々なモンスターが暴れている。

 

「…っ」

 

「…!お、おい!坊主も早く逃げろ!」

 

っ!おじさん!生きてたか!

 

「おい待て!なんであんな奴らがここにいる!少なくともこの村には自警団がいたはずだろ!!」

 

「なんでも何も、あいつらいきなり村の中心に現れやがったんだ!!」

 

「はぁっ!?」

 

いきなり?!魔法か何かの類いか?

 

「いいから坊主も逃げろ!あのモンスター達は普通じゃねぇ!さもないと」

 

その時、

 

「こーんな風になっちゃいますよ?」

 

背後から、

 

「……え?」

 

誰かが、

 

「っ!危ねぇ!坊主!!」

 

俺をよんd

 

ズシャアアアッッッッッ!!

 

…………あ?

 

「…………ガ……アァ…ッ!」ドサッ

 

………何で

 

「……っ何してんだよ!おじさん!!!」

 

と、突然現れた血染めの剣を持っているの黒ローブの男が口を開く。

 

「あれぇー?間違えてしまったかなぁ?」

 

「……はっ…テメェ………イカれて、やがる…」カハッ

 

「褒め言葉をどうも♪」ニタァ

 

足が震える。悪寒がする。吐き気がする。

 

「……あ」

 

「さて…次はぁー」スタスタ

 

「…………くっ」

 

「貴方の番ですよぉ?」シュバッ

 

―――来るっ!

 

「………っ!!」バッ

 

咄嗟に自前の剣で防ごうとする。

 

しかし、

 

「そんな鈍なまくらな剣ではっ」

 

「…………っ!!!」グッ

 

現実は、

 

「私の剣はっ!!」グォッ

 

余りにも、

 

「防げないっっ!!」

 

―――非情であった。

 

ガッシャァァァァァン!!!

 

自身の剣は、余りにも脆すぎた。

 

「あぁ………全てはタルタロスの為に……」

 

「ぼ、坊主……………」

 

(あ、あれ…から、だ……が………さ……む…く…)

 

「――――――」ドサッ

 

自身の弱さ、脆さ、そのせいで守れなかった。

 

村も、人も、夢も、そして自分自身も。

 

救える手段を持たない。いや、もとより救えるに値する力も持ち合わせてもいなかったんだ。

 

ああ、僕はなんて弱い人間なんだ。

 

僕は、冒険者に憧れた「ただの人間」として生を終えるのか。

 

もう、何も見えない。

 

見ていた景色も。

 

これから夢見ていた未来も。

 

僕は、ここで死ぬ運命なのか――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

暗い……冷たい……………何も、見えな………?

 

 

「見えようと見えまいと、そんなことは重要じゃない! 選び取ろうとする意思……掴み取ろうとする力…………――は今 それを手に入れた!」

 

……誰だ?

 

何を言っている?

 

「――は、――の力で――を斬り、そして、未来を切り開く!」

 

選び取ろうとする意志、掴み取ろうとする力……

 

 

 

 

「変えてみせる!変えるんだ!!その為にここまで来たんだ、――は!!!」

 

まただ……

 

「誰の……為でもない!そうする事で皆が笑えるなら、命が繋がっていくなら…!!それが――の役目だからだぁ!!!」

 

皆が笑えるための明日……

 

命を繋げる役目……

 

でも、僕にそんな力は無い……

 

願いはあっても、力が無ければ…………

 

「でもそれが……――がいるこの世界だ!ならその中で……前に進むしか無いんだ!」

 

前に、進むしか……でも、僕は…

 

「あら、ここにいたのね」

 

「んだよ。労力使わせるんじゃねぇよ」

 

「まあまあ、そう言わずに」

 

「やあ、迷っているみたいだね?」

 

……っ、誰?

 

「ああ、ごめんよ。決して驚かせるつもりは無かったんだ」

 

…………

 

「僕は……そうだな…………アルヴィースって呼んでくれ」

 

……アル、ヴィース?…………え?あの……

 

「おい、小僧が置いてけぼりになってんぞ。少しくらい待ってやれや」

 

「ていうか、アンタ何でこっちの世界にいるのよイケメンスカしモナド野郎」

 

「まあまあ二人とも、落ち着いて。ね?」

 

あの、えっと?

 

何かイケメンが寄ってきて、それを黒の兄貴っぽいゴツい人が咎めて、加えて金髪の女性が追い討ちかけて、その二人を赤髪の女性が止めに入っている。

 

「ごめんごめん、これでも焦っているんだよ?何せ――」

 

……?

 

「君はもうすぐ時間切れで生を終えようとしているのだからね」

 

……っ!?

 

待て、待ってくれ!僕はもう既に死んだはず………!

 

「いえ、まだ貴方は完全に死んではいません」

 

死んで、ない?

 

「あ、私はホムラといいます。で、もう1人の女性がヒカリ、そしてこっちの男性はメツという名前です」

 

……ん?

 

「「いや、今のタイミングで言う(か)?普通」」

 

…………天然?

 

「ンンッ……話を戻すね。つまりここは、君が生か死か…どちらの道を選び取るかの分岐点という事さ」

 

分岐点………

 

「そう、君自身の意志でね」

 

自分、自身の……意志…

 

でも……僕は…………

 

「力が無いってか?」

 

…………

 

「臆病で、脆弱で、助けられてばかりで、自分じゃ何も出来やしないと…………」

 

…………

 

「そう思ってるんだろ?」

 

…………

 

「なら、言わせてもらうぜ小僧」

 

…………っ

 

「頼ればいいじゃねぇか」

 

…………え?

 

「自分の力が及ばなければ、他人の力を借りればいい。自分の知恵が足りなければ、皆こぞって集まって飽きるほど知恵を出し合えばいい。いいか、生物が一人で出来ることなんざ限られてんだ。恥をかいてもいい。泣いたっていい。己の無力さを嘆いてもいい。他人の力に嫉妬したっていい。たとえ地面に這いつくばったとしても、生きる理由を常に考えろ!無くなったら死に物狂いで探し出せ!!せめてそれを全うした後に死んでみせろ!!!」

 

……………

 

「いいか小僧、俺は悪だ。気に入らねぇものがあるならこの手で消してしまいたいと思っちまう悪の権化だ。そんな俺にここまで言わせたんだ。ちっとは気張りやがれ」

 

……………でも、頼る相手が今は……

 

「いるでしょ、ここに」

 

え?でも君たちとは初対面じゃ……

 

「いいえ、初対面では無いですよ?」

 

?じゃあ、何処で………

 

――――――ドクンッ

 

……っ!?胸が……熱く…?

 

ふと、胸元を覗いてみる。

 

……………………っ!?なんだ、これ……

 

「――コアクリスタル」

 

………コア、クリスタル?

 

「そのクリスタルは、私達そのものなのよ」

 

……それは十字の形をしており、自身から見て左が翠玉、右が紫色に綺麗に分割され、鮮やかに輝いていた。

 

なんで、こんな物が……

 

「何の因果か、君にコアクリスタルの力なるものが恐らく宿っていたんだろうね」

 

そんな特別な事があったという記憶は無いはず。

 

いや、そんな事よりも…………

 

君たちは、僕に力を貸してくれるのか……?

 

「ああ、もちろん」

 

「ええ、いいわよ」

 

「ええ、もちろんです」

 

「しょうがねぇな……」

 

……何で………………

 

「だって、君……」

 

「冒険、したいんだよね?」

 

「冒険、したいんでしょ?」

 

「冒険、したいんですよね?」

 

「冒険、したいんだろ?」

 

………ああ、僕は……こんなに恵まれてていいのだろうか。

 

いつの間にか、縁は繋がっていたんだ。

 

「……っと。そろそろ時間切れだ、ブレイ」

 

……ああ。

 

 

「うん、最初よりもいい目をしているね。これなら安心だ」

 

……だったら、歩んで見せよう。

 

「力の担い手よ、教えてくれ。君が決めた願いを、君が望む未来を」

 

たとえ報われなくとも、最期まで叶わなくとも、僕は……

 

「皆が笑える、自由に歩める未来を最期まで繋ぐ―――それが僕の望む、僕が僕であるための願いだ」

 

「―――うん、儚いけれど素敵な願いだ」

 

歩んでみせる。繋いでみせる。

 

「さあ、行くといい。君の冒険が待っているよ」

 

「あれ、アルヴィースは行かないのか?」

 

「うん。言い方が難しいけど、僕は元々この世界にはいるはずのない存在だから……」

 

「そうか……」

 

「……行けないと言いたかったんだが、何だか面白そうだからやっぱり僕も残るよ」

 

「え?大丈夫なの?」

 

「ブレイ。世界は不思議で溢れているんだよ?」キリッ

 

……自由だなぁこの人。

 

「はぁ!?アンタも来るの!?嫌よ!こんなのと一緒にいるくらいだったらまだメツの方がマシよ!」

 

「俺の方がマシとか、お前終わってんなぁアルヴィース」

 

「いやぁ、そんなぁ」テレッ

 

「いや褒めてねぇよ」

 

「何だか、賑やかになりそうですね♪」

 

……何だかなぁ。まぁ、でも………

 

「皆」

 

こんな始まりも

 

「僕に、力を貸してくれ」

 

悪くはないかな。