4「1番幸せになってほしい人 〜更に時が止まった編〜」①
「はるちゃん!」
我が家では、はるちゃんと呼ぶようになっていた。そして出て行ったはずなのに兄の物は減らず、むしろ増えていった。
新しいコップ、新しいタオル、新しいスリッパ。必ずはるちゃんの分も買うようになっていった。
私は20歳の時に病気をした。3歳年上の兄はずっと面倒を見てくれていた。
心に寄り添い、前を向ける様になるまで、一体どれだけ自分の時間を犠牲にしたのだろうか…。ごめんね…。
感情が優先して泣いてばっかりな日があったり、受け入れられなかったり…。私の心はやたらと忙しかった。寂しかった…。
思い返すと、はるちゃんが来た日は、やたら時間を気にし、ソワソワして、ドキドキして、落ち着かないでいた。
「大丈夫、落ち着いて! 疲れちゃうよ? お茶でも入れようか?」と、母が声をかけてくれた。とにかくウロウロしていた私は、
「父さんも母さんも、もう知ってるじゃん! 私だけ初めてだもん! 緊張するよ⁉︎」と、落ち着いていられなかった。その時『ピンポーン』とインターホンが鳴った。
兄がはるちゃんを連れて来た時、何もかも吹き飛んだ。
あまりにも似た空気を感じてビックリしたからだ。
あの時の、あの瞬間。なんて言葉にすれば良いのか全然分からない。
人生で初めて時が止まった気がした。特別な一瞬を経験した。きっと、
1秒もかからなかった。丁寧な挨拶をしてくれる前に、もう、受け入れていた。