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温もりの香り

貴方は器用で、何でも美しく見せることに長けていて。
でも決して自分を大きく見せず、クシャッと子どものように笑う。
だからいつも人が集まるのでしょうね。
私は見ていてい羨ましかった。
だって、私には何も無い。会話も笑顔も、連絡先なんて夢なのだろう。
『繋ぐもの』が何でもいいから欲しいと。
そう思って仕方がないけれど、
いくら考えても不可能だった。
だって貴方と私は上司と部下で、私の想いを悟られてしまえば、仕事に支障が出てしまう。

ただただ目で追うばかりで。
嫉妬すれば笑顔の仮面を被り、雨が降れば持っている傘をわざと忘れ、貴方を待っていた。

そんな行動しか出来なかったのです。

それでも探し続ける日々を送っていた時、カタチに残る物ではなくても『香り』で繋がる事はできると思いました。

だって、貴方か通った後は足跡の代わりに温かい香りを残しているから。
思い返せば偶然では無い。
確かに私は貴方にたどり着いていた。
無意識に目で追う場所に行っていた。

『香り』なら、この先も繋がっていられる。
そう気付いた時、私は嬉し涙を瞳に沢山溜めていた。
無意識に感じていた『香り』を大切にしたいと心底思った。それでも日常で何かが変わる事は無かったけど、ある雨の日に本当に傘を忘れ、少し雨宿りをしていた。
刺さずに駅まで走ろうと思った時、近づいてきたんだ。
温かい『香り』が。

「傘、無いの?」と、こんなにも近くで貴方に聞かれた事にドキドキした。
「あ、はい、忘れてしまって」と言うと、傘を差し出してくれ、
「これ、使っていいよ」と、言いましたね。「え?」と言うと
「お疲れ様!」と、走ろうとしました。
私は初めて、
「あの!駅まで入らせて頂くというのはダメでしょうか!?」と、言いました。

貴方はビックリしていましたね。
私は自分の脈が速くなっている事、
そして二人で一つの傘に入り、
貴方の『香り』を感じられた事、
一生忘れません。

臆病私は、気持ちを伝える事は出来ないままでした。
あの日の空間を忘れる事は無いでしょう。
いつの間にか結婚して仕事を辞めていた貴方にもう一度会いたい。

ありがとう。
今、どうしていますか?