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2023年を映画でふりかえり

今年はなかなか面白い映画と出会えなかった。そもそも映画を観る本数が極端に減ってしまったのだ。去年までは1年に100本は映画を観ていたのだけど、今年は12月になってようやく60数本。観る作品が減ると名作に出会う確率も減るのだなと、身をもって証明する年だった。数打てば当たるというのは映画にも当てはまるようだ。

人口あたりの映画館数が世界一とも謳われていたパリから、映画館のない町に引越した。最寄りの映画館まで車で1時間かかるようになったいま、映画館の有り難みを感じる。

劇場公開の最新作を観にいく機会が極端に減った。趣向を凝らしたエッジィなセレクトで魅せてくれるミニシアターが近場にないのも大きな痛手だ。

配信に流れないような単館系の作品、ドキュメンタリー、自主制作作品や海外のマイナーな映画祭で賞を受賞した作品、なにより埋もれてしまっていた過去の名作たち。パリの映画館は私の思っていた以上に、さまざまな映画との出会いを惜しげもなく提供してくれていたのだなと気づかされる。自分で選ぶだけだと、選択の幅が狭まってしまう。



聞いたこともない作品だけど、この映画館が選ぶのだから見てみよう!と思える信頼できるミニシアターがあるのは、なんと幸せなことなのだろう。

ときどき東京へ行く機会があると、映画館を探す。たくさんある映画館の中からどこへ行こうか分からない。しょうがないから公開中の作品を検索して、観たい映画を上映している映画館の中からどこへ行くかを決めている。

私にとって、この映画館が選んだ作品なら観てみよう!と遊びに行けるのが、カルチェラタンにあるLe Champoだった。

カルチェラタンのこの辺りにはミニシアターが集まっていて、映画好きなら退屈することはない。

その中でもLe Champoのセレクションは特に良かった。人生で好きな作品トップ10に入る『ポゼッション』を観た衝撃は忘れられない。

田中絹代監督作品のレトロスペクティブも良かった。日本に、あの時代に、素晴らしい映画を撮る女性がいたとパリで知った。

見逃してしまったけれど、ときどきオールナイト上演もやっている。ジム・ジャームッシュ3本立て祭り、行きたかったなあ!朝を迎えるとクロワッサンとエスプレッソが提供されるらしい。きっとチープなものだけど、それがまた良い。

Le Champoでは最新の作品はやっていないけれど、いつも発見のあるセレクトが良かった。それに回数券を買えば1本6€で観れるのもありがたかった。これくらいの価格だと時間が空いた時にふらっと遊びに行ける。

日本に比べてパリの映画館には割引がいろいろあってお得だった。大型シネコンにも回数券があって、最新作でも1本7.5€くらいで観れた。1000円しないくらいの価格帯だ。UGCとmk2という二大大型シネマチェーンで映画を見放題という年間パスもあった。週1で映画を観る人にはこちらがおすすめ。年パスデュオなら2人で使えるから家族で持っている人もいた。映画を観やすい環境だった。


思えば今年は何かにつけて、パリはこうだった、日本はこうだ、と比較することを繰り返していた気がする。これから日本に住む時間が長くなっていくと、わざわざパリを持ち出して比べることもなくなるのだろうか。そうして私の知っているパリは、遠く古いものになっていくのだろう。こうやって比較してしまうのも今だけなのかもしれない、と思うと自分のためにも心に浮かぶことを書き残しておきたいと思う。

パリにも日本にも、良いところと悪いところがある。もちろん日本のお山へ引越して悪いことばかりじゃない。本はネットで手に入る。映画は減ったけど、読書の数は倍増した。本を読むのが楽しい1年だった。一時帰国した時に厳選して文庫本を買ってはフランスへ運んでいた時に比べると、格段に日本語の本が手に入りやすくなったのは何よりの喜びだ。


さて、今年初めて観た作品の中で特別に面白かったものをいくつか。

『L.A.コンフィデンシャル』 監督 カーティス・ハンソン 1997年

久々に面白い映画を観る爽快感を味わわせてもらった!抜群に面白い超大作で、どうして今まで観ていなかったのが不思議。

きちんと丁寧に、綿密に練られた脚本が素晴らしく、無駄なシーンがひとつもない。登場人物も多く、入り組んだ物語なのにツッコミどころがないという痛快さ。緩急のリズムも心地よく、全く飽きさせない。入り組んだ物語なので刮目して見ることが必要。観客に注意して見ることを要求する作品だ。もちろん、その努力は無駄にならない。それだけ注意深く観るほどに味わいがある。せっかくなら前情報を入れずに観る方が良いだろう。

下手な役者がおらず、特に主役3人の演技に引き込まれた。三人三様のキャラクターがどれも魅力的で、誰も聖人でも悪人でもない。グレーゾーンのたっぷりある性格の書き分け方が上手く、それをセリフで説明させるのではなく、演技で見せてくれる演出が素晴らしかった。

エンターテイメントってこういうものだよなあと思う。何も考えないで観れる作品がエンターテイメントではない(最近は何も考えないで観れる作品も少ない、設定や脚本の爪が甘いとツッコミどころが多過ぎて何も考えないどころではない)。ちゃんと撮られた映画でしか味わえないエンターテイメントな大興奮があり、至福のひと時を堪能した。大絶賛!




『ザ・プレイヤー』  監督 ロバート・アルトマン  1992年

ハリウッドの映画業界を風刺するピリリと辛口なサスペンスコメディ!

何か面白い映画をみたいな〜というときは、ぜひこちらを。本当に面白い作品を、確かな技術で作った名作だ。とくに映画が好きな人は見逃せない。映画業界って本当にこんな感じなんだろうなあとニヤリとしたり虚しくなったり、楽しめること請け合いだ。

ここまでやっちゃって大丈夫?と心配になるくらいの皮肉のオンパレードが痛快。劇中惜しげも無くふんだんに盛り付けられるこの皮肉があってこそ、予定調和を破る超・胸糞展開が天晴れ!むしろ爽快で気持ちが良い!




『こわれゆく女』  監督 ジョン・カサヴェテス  1974年



今年とくに記憶に残った面白作品はこの3本。
あとは遅ればせながらようやく観たヒッチコックの『サイコ』も流石の名作だった。めちゃくちゃモダン。


久々に見返してみた作品でやっぱり安定の面白さだったのは『ファイトクラブ』『ミッドナイトクロス』『レオン』そして『ミッションインポッシブル1』と『ミッションインポッシブル4』。

この夏のビッグイベントだったミッションインポッシブルシリーズ最終作前編の公開に向けてシリーズ全作を見返したのだが、やはり1と4は抜群に面白い。その後のはちゃめちゃなシリーズ作品に比べると、しっかり作られた脚本をじっくり楽しめる第1作は見逃せないし、シリーズの方向性をラディカルに転換した4は、整合性のなさなんて吹っ飛ばす勢いとめちゃくちゃ加減が良い塩梅で、これこそ”何も考えないで楽しめる”映画のお手本だ。
最新作は勢いがなくツッコミどころばかりが目立ってしまったけれど、シリーズの大ファンとしては後編に期待している。


振り返ってみると面白いと唸ったのは間違いのない名監督の作品や大作ばかりで、コンサバなセレクションになってしまった。
でも本当に面白いものを見たいんだ!外したくない!というときは、過去の名作に手が伸びる。時間が経ても残っている作品にはやはり満足させられるものが多い。


2024年はどんな年になるだろう。もう少し映画館へも足を運べるといいな。皆さんにも良い映画との出会いがありますように!


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