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仏蘭西生活記

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フランスに住んで考えたこと、気づいたこと
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#この街がすき

ある冬の朝、パリを想うこと

自転車に乗って十一区のアパートを出る。 冷たい風で耳が痛い。キャスケットじゃなくニット帽を被ってくればよかった。まだ夏時間だけど、朝はすっかり冬だった。夏と冬の個性に押し潰され秋はどこへ行ってしまったのだろう。秋を感じるのは近所の八百屋で南京と葡萄を見かける時くらいだろうか。 自転車を漕ぎ、パルマンチエ通りを北上し、ヴォルテール通りへと抜ける。夏時間が冬時間に変わる前の朝は特に暗い。見上げると灰色の分厚い空が建物に切り取られている。 六時一五分。 七時前に郊外の撮影ス

俳優とばったり遭遇する街、パリ

マレ地区を散歩していた時のこと。ギャラリーの入り口に貼られたポスターを見ていると、中から出てきたムッシューが「ここ、よかったよ」とニコッと教えてくれた。 後からパートナーに「さっきのムッシュー誰だかわかった?」と聞かれ、驚きました。なんと俳優のダニエル・オートゥイユだったと言うのです!全然分かりませんでした! ダニエル・オートゥイユといえば、『メルシィ!人生』。 コンドーム会社に勤める主人公が突然解雇を言い渡され、思い詰まってベランダから飛び降りようとするところを隣人に

ヨーロッパ的正しいバカンスの実践・カダケス編

この夏、初めてヨーロッパ的なバカンスを実践しています。つまり、海辺の街でひたすらなにもしない、をすること。行き先はスペインの街、カダケスです。フランスとスペインの国境のすぐ側にある地中海沿いの小さな街は、フランス人にとっては定番のバカンス地。ダリが隣町に住んでいたそうで、彼の家が美術館になっているのが有名です。 白で統一された街並みに、ボートが浮かぶ海岸線。美味しい海鮮料理にビール。マジックアワーでピンクに染まる空。きちんと整備されたザ・観光地っていう街は苦手かと思っていま

パリに住んで気づいた地元のやさしさ

パリに住んで初めの3年半は一度も一時帰国しませんでした。金銭的な理由もありますが、日本に行くことに魅力を感じなかったのです。 それまで日本に住んで居心地がいいと思ったことがなかったし、長く住んだ神戸はとても狭く、閉塞感に押しつぶされそうな気持ちでした。小さいころから、ここはわたしの居場所じゃない!早くどこかに行かなきゃ!と強く思っていて、地元♡LOVEな友人たちのことを冷ややかに見ていたと思います。 ところが去年、小学校からのお友だちが結婚することになり、こんな機会がない