「次元大介の墓標」感想レポ

子供の頃からテレビスペシャルを主に視聴していたゆるめのルパン好きによる「次元大介の墓標」感想レポです。

まず作品の絵的なテイストについて。
初期シリーズ、あるいは古き良き昭和アニメへの愛とリスペクトがすごいです。
こってりした人物の絵柄と影に使われる黒の斜線、彩度低めの色合い、人物と比較して細めの背景主線、薄めの背景配色は名作アニメの特集で紹介される70年代の作品達を思い出しました。ルパンシリーズが大好きな友人曰く、絵柄の方は原作に寄せられているとのことで製作陣の原作に対する思い入れ、そして流行に左右されない魅力への熱意を感じます。そこに現代のPC作画によるクリアな画面と滑らかな動きも加わり、単純な過去作品の現代版リメイクとは違う懐かしさと新鮮さがあるように感じました。

続いてストーリーについて。
総括としてはやはりこちらも70年代!ハードボイルド!!の二言に尽きます。OVAということもあってか現代の地上波ではあまり見られない描写や話の広げ方がされていて「きっと制作陣は自分たちの好きなものを全力で好きなように作ったんだ!」と思わせる静かな力強さがありました。

前提条件が徐々に明らかになっていく形式なので最初は少し首を傾げながら見ていました。
まず盗みの仕事中に歌手のクイーン=マルタの死に引っ掛かりを抱える次元、私が今まで見たことのある作品の中では次元が他人の死で物思いに耽るシーンは思い当たりがなかったのでかなり意外でした。またルパンがゲストの女性キャラや不二子にホイホイされるのを見て「ロクなことにならないぞ」と呆れている場面が必ずと言っていいほどある印象が強く、子供心に「次元は女嫌いなんだ…」と思ってままここまで来たので、「防げた死だった」という言い方からしてボディガードを引き受けていたのかな?次元女嫌いなのに引き受けたの?と足りないピースを見つけるために必死に情報を拾おうとしていました。(次元の女嫌い疑惑については後で友人に確認しておきます(笑))
いつもなら序盤は銭形刑事も交えてのコミカル且つ鮮やかな逃走劇が見られる所が、常に警察に先回りされて序盤からピンチ、そして次元とルパンの負傷…全編シリアスの予感に思わず気が引き締まりました。舞台が世界屈指の低犯罪率国家ということで、市民全員が監視と密告で協力しているのかと思いました。
ここで二人を撃ち抜いたのは殺し屋 ヤエル 奥崎。彼が狙撃銃を組み立てる際、それぞれ違う大きさ重さの部品がぶつかる音や、もう無意識で行っていると解る程に熟達した手の動きと部品の配置が本当にリアルで、このシーンだけで彼の殺し屋としてのキャリアが察せられる見事な演出でした。ただ顔色が緑っぽい色だったのでルパンシリーズ恒例のファンタジック科学で体を改造か何かしている人なのかと思いました。

その後のストーリー中盤で、次元は早撃ちの一騎打ちで奥崎に敗北を喫して逃走中射殺され、同時進行でルパン達とは全く別行動していた不二子もピンチ、メタ視点では絶対助かると解っていても額から血が出ている次元がどう助かるのか解らないし、不二子はこの状況でルパンが間に合うとは思えない…と自分が慣れ親しんでいたテレビスペシャルのルパンとは一味違った展開に画面を凝視していました。
ここで不二子は大分倒錯的なショーに放り込まれていましたが、全裸の女性をローション敷いた水槽に入れて殺戮ロボット投入とは…OVAならではの大胆な描写でしたね。不二子に襲い掛かるロボットの下半身に搭載されたモーニングスターのようなドリルにまたも70年代の懐かしさを感じつつ「エレガントだ」と感嘆するオーナーに「グロテスクの間違いだろ!!」とツッコミを禁じ得ませんでした。あと助けに来たルパンに「俺の演奏を止めたな!?」って殴りかかるピアニストにも「演奏って程大したものどころか鍵盤1つしか弾いてないじゃないか!!」と言いたい。因みになんとか間に合ったルパンを利用して脱出した不二子へのルパンシリーズお決まりのセクハラは最近の地上波では厳しい表現かもしれませんし、現実では絶対やったらダメなやつですが、あぁルパンだなあという安心感がありました。
ここにきて不二子が狙っていたお宝、舞台となっている東ドロア共和国の暗殺リストによってここまでの疑問が一気に説明されますが、やっぱり次元はクイーン=マルタにボディガード頼まれてたんですね。そのリストがルパンの手に渡ったことでルパンと不二子は暗殺の標的に加えられ、終盤へ。

狙撃銃でルパンに完璧に狙いをつける奥崎、そのまま完璧な 一発が放たれるはずが仕留めそこなう弾丸、驚愕する奥崎の肩を貫く弾痕とその軌道の先にいるライフルを構えた次元…いやぁ、これはかっこいい。教会の鐘の前という位置取り、腕を銃座にした片膝の座り姿勢、帽子からチラリと覗く左目、これはかっこいい。シャツから見えるガーゼのテープも色っぽい!!
そして奥崎と国の犯罪率の低さの秘密、街中の監視カメラと網膜に直接つないでその映像を観る機械の存在が明かされましたが「出たファンタジック科学…網膜に直接…痛そう…」というのが正直な感想でした。
ここでタネがバレた後でも依頼主については一切しゃべらなかった、そして最後の一騎打ちの前に汚れたスーツを着替える奥崎に殺し屋としての矜持を感じます。
次元と奥崎再びの一騎打ち、速かったのは奥崎でしたが速さに重点を置いて22口径と軽い銃を使っていた奥崎に対して次元は45口径、弾がぶつかり合った時のブレ幅が小さくなる次元の方が大きなダメージを与える結果となってのパワー勝ちでした。次元、あるいはガンマンの世界に詳しくない私には「銃と言えば45口径」みたいなガンマンの憧れがあるのか、早撃ちを自分の腕ではなく銃の性能で上乗せすることに是非があるのかは解りませんでしたが、それを「ガンマンたるものこうあるべき」と説くのではなく「ロマンに欠ける」とただ一蹴して立ち去る次元にはガンマンとしての確固たる美学があること、だからこそ次元はかっこいいことだけはわかりました。

最後に夕焼けの中で仕事終わりの一本を楽しむルパンと次元、序盤で「ビジネスパートナーであって仲間ではない」と次元が言っていたのでまだ一緒に仕事をし始めて日が浅いのかと時系列が気になっていましたが、ここで「格別な味」の煙草を共にする二人の仕草や表情が「あぁ今二人は唯一無二の相棒になったんだ」と思わせてくれる格別なワンシーンでした。その後ほんの少し劇場版ルパン第一作目「ルパンVS複製人間」のマモーが登場したので本当にルパンと次元、そしてルパン一味はこれから始まるんでしょうね。
所でこのシーン、ライターではなく燃やした暗殺リストの火で煙草を点ける様子や、深く吸い込んで吐き出す二人の表情に宿る得も言われぬかっこよさが最高ですね。

エンディングテーマもギターとドラムのシンプルな曲がハードボイルド!という感じでかっこよかったです。

以上、次元のカッコよさを存分に見せてくれた「次元大介の墓標」楽しく拝見いたしました。

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