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【小説感想】透明カメレオン(著:道尾秀介)

読書系YouTubeチャンネル「ほんタメ」で知った。
ええ声だけど冴えない容姿のラジオパーソナリティが行きつけのバーに、突如現れた美女が謎の言葉を残して去っていく。
あらすじを聞いて惹かれたのもあるけど、眼球サハラ砂漠と言われる滅多に泣かないたくみが"泣ける小説"として紹介していたので気になった。


"殺害計画"にバーの常連とともに巻き込まれていくのだけど、コメディなシーンもちょくちょくあるのでどこか緊迫感に欠けながら進んでいく。
個性豊かな常連達とチームのようになって何かをやるという展開は『カラスの親指』みたいでワクワクした。
本編に挿入されるメンバーの過去を紹介するラジオが物語のいいアクセントになってる。選曲も絶妙。
印象に残ったのは翅を失くしたトンボの話。

終盤はハラハラするような展開だけど、無敵状態でピーチ姫を救いにいくシーンでププっとなって、ここでも緊迫感は薄い。
「どうなっちゃうの?」よりも「どうやって切り抜けるの?」と思いながら読んでた。

そして最後に明かされる真実。
コメディタッチだったからこそギャップでよりズシッとくる。
ラジオで語られたエピソードに多少違和感があったとはいえ、真実が辛い。
特に朋生くんが亡くなっていた事実が辛すぎて、同じくらいの娘を持つ身として感情移入しちゃって涙が溢れた。
輝美ママの娘の話もキツかった…。
予想してた読後感とは真逆で、やりきれない悲しい気持ちに。
せめてエピローグで恵と恭太郎がくっつくとか何か救いがあれば…。

過去の結果は変えられないから"いま"をつくり変える。
変わりたいと願うことで"いま"が変われば、過去の結果の捉え方も変わる。
実は今までも人生でやってきたこと、でもいざという時に忘れがちなこと、それに気付かせてくれる物語。
"いま"が変わったからといって必ずしも幸せになるとは限らない、ということでアフターストーリーは描かなかったのかなぁ。
それでも何か一つくらい希望のようなものが描かれていれば読後感が全然違った。


作中で印象的だったのは「しようか」の件。
ドンキまで行って準備して、やる気満々で帰ってきたところで勘違いに気づくのがすごい。
あの状況で冷静に推理できるなんて並の男じゃない。
声だけじゃなく、冷静さと洞察力も非凡だった。

結局泣けたのは感情移入しちゃった朋生くんのくだりだけで、泣ける小説としては上位に食い込むほどではなかった。
まぁ泣けるポイントは人それぞれだからしょうがない。
エンタメ小説としては読みやすく、登場人物の描写も文句なしで楽しめた。

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