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勝手に1日1推し 108日目 「めもくらむ 大正キネマ浪漫」

「めもくらむ 大正キネマ浪漫」(1~6完結) 赤石路代     漫画

「大正キネマ浪漫」ってえー、もう最高でしょう?「ロマン」が「浪漫」って漢字表記されているだけで萌えまする。表紙もいいでしょう。裏表紙もいいのですよお。超カワユイ!特に5巻が素晴らしい~。ザ・レトロ、大正ロマン代表って感じでうっとりしちゃう。ツバキが大きく描かれている高い装飾性と、当時の建具や室内の緻密な写実的描写と、そのミクスチャー感は正に日本画、正に少女漫画な表現じゃあないですか?!てか、実はどの巻も扉絵がぜーんぶレトロで美しく、全てカラーにして欲しいってくらいに、又はぬり絵仕様にお願いしたいってくらいに素敵なんです。はー、好きだ!

無声映画に舞い降りた女優の正体とは!?時は大正時代――。
カフェで女給として働く乙香は、活動写真の脚本を書いている大鐘小六、兄の遺児である椿、そして活動写真のスタア・東海林鷹男と出会ったことで無声映画の世界に飛び込むことになった。
だが、乙香には秘密があって…!? Amazon

今で言うところのショービズ界、新劇と活動写真が舞台となるお話です。大正時代の浅草の街並みや市井の暮らし、風俗や流行りなど、歴史的背景や史実をしっかり押さえた上で進行していて、とても具体性があり読み応えがあります。

そして、主人公の乙ちゃんが自身を主役に活動写真を制作することが主軸となっておりますので、活動写真について詳しく知れて、ふむふむって、興味深いんです。

活動写真は無声映画のことで、弁士という映像を説明する専用の人込みで作品となっていました。台本は脚本家が執筆した1つしかなく、それは制作側の持ち物で、出来上がった活動写真はそれとは切り離され、弁士それぞれが解釈し、オリジナルの脚本を作り上映と共に語るというシステムだったようです(合ってる?)。へー、そうだったんだ?ですよね~。

それに週替わり上映ができるほどたくさん新作が作られていたって凄いですよね。新作もすぐに地方に回されて上映されるようで、弁士も全国各地に存在していたらしいです。つまり、弁士の数だけストーリーがあったと言うことになりますよね?そう思うと、なんだかとっても萌えませんか?!とんでもない誇大妄想的解釈とかあったりしそうで、面白そうだなあって。1つの作品を追いかけて津々浦々巡ってみたいと思う私です(遠い目)。そう言えば、数年前に周防監督が「カツベン!」って映画撮っていましたね。見てなかった!気になる~。

さて、まぁ、そんな訳で上記の通り、活動写真は当時、質より量的な生産状態であった訳でして、だからか?は分かりませんが、新劇(舞台)>活動(映画)という位置づけだったみたいです。その活動写真に新しい風を吹き込んだのが乙ちゃんでして、乙ちゃんは常に自ら行動することで活動写真や自身を含めそれに関わる人々の未来を切り開いて行くんです。超絶かっこいいです!!何事も変化を恐れず行動することって本当に大切なんですよね~。分かってはいるけれどなかなか実行に移せないので、全力で乙ちゃんを応援することで、自分もやった気になる!よし!

乙ちゃんはとにかく前衛的で、撮影所毎に制作するとい概念を取っ払い、自ら主演女優を希望し、脚本家に脚本を頼み、監督を探します。そこで目指したのが、よりリアリティのある新しい作品作りでした。物質的にも心理的にも作り物ではない、

「本物」に近づける

と思える作品作りに力を入れます。登場人物たちはしっかりセリフを話し、表情もまなざしも、感情のこもった演技をする。そんな今では当たり前のようなことも、当時の無声映画ではありえなかったことで、そんな演者の熱量に応えるように撮影などのスタッフも革新的な手法に挑み、

ずっと残る映画をつくろう 50年後も100年後も

という心意気で制作。見事に作り上げました!それが、乙ちゃんの「ナターシャの唄」。乙ちゃんのナターシャ・・・うっとり。てか、100年後が2020年って言う設定、粋ですね!

そもそも乙ちゃんは、ある理由からナターシャを演じるために女優を目指し、男であることを隠しているんですが、そこがまた、恋物語をややこしくするんですよぉ。他のどんな女性とも違う魅力を持つ乙ちゃん(ちなみに本名は乙次郎)に恋する鷹男(俳優)・・・そして、女優を目指す自分をいつも助けてくれる鷹ちゃんを好きになってしまった乙ちゃんは、本当は男の子であることを言えずにいるんですよぉ。きゃー案件でしょ?更にこの2人にはお互いの出自にも因縁もあってですねぇ、なかなかどうして実らない恋・・・ってもー、これでもかって言うくらい王道な展開が待ち受けておりますの!だって、だって、一応フラワーコミックスですもの。男性同士の恋とは言え、やはりBLではございませぬ。悲恋に決着する辺りがまた、とてつもなく少女漫画的であり、そこが魅力でもある訳です!「風と木の詩」もまたしかり。でもでもハッピーエンドですので、ご安心あれ。

概要はこんな感じなのですが、ここで、私が本作の最重要ポイントとしたいのが、男性なのに女性の立場で世の中を見る乙ちゃんの視点です。乙ちゃんは、その美貌や女優を目指している都合から、女として生活をしているのですが、そこで数々の女性ならではの理不尽を知り、理解し、それを打開しようとしているんです。

知ってるか? 女がどんなに嫌なことに出会うか 男の嫌らしさとかほんと もう散々なんだ ぼくは一通り知ってる でもぼくはまだいい ぼくは男にもどるけど 女はずっと女なんだ (中略) 世界を変えてやる

とにかく女性の自立を促す作品作りに心血を注ぎます。「ナターシャの唄」の脚本に、ナターシャ(女性)の意志を反映させるべく奮闘。脚本家のころちゃん(小六)が仕上げた結末に対しても、

なんで最期の時をアレクセイが決めてんだ ナターシャの意志はどこへ行った! だまって死に従ってしまうなんて! 君の話はあちこちがそんな感じだ ナターシャがどこかに行ってしまうんだ 君の中で女が男の従属物の域を出ていないんだよ

ほんと、よくぞ言った!読者層が20代くらいかと考えると、このセリフ、このストーリー展開にどんなに共感し、勇気づけられるだろうと思います。

随所に乙ちゃんが女性に寄り添う姿、女性に敬意を示す姿が描かれており、本当に素敵だなあと思うのです。彼の言葉に、行動に多くの女性たちが解放されます。新劇女優の須磨子さん、活動女優の琴子さん、弁士の八重さん、未来を担っていく存在の椿ちゃん・・・容姿にコンプレックスを抱いていたり、家庭に事情を抱えていたり、様々なタイプの女性が描かれており、少女漫画であろうともステレオタイプの女なんていねえんだよ!って宣言しているみたいでスッとします。

奇しくもMeToo運動と共に、性加害、性被害の問題で日本でも芸能界が揺れています。ギャランティーが男性よりも劣っている問題や女性芸人の待遇なども含めショービズ界に蔓延る理不尽が早く見直されて欲しいと思わずにいられません。そして女性たちや立場の弱い人たちの意志や希望が通るような世の中になりますように・・・と願います。

で、クライマックス。須磨子さんがイプセンの「人形の家」を演じているのとか、マジ、胸アツ!!

以上、本当に大まかに思う存分書き連ねて参りましたが、もっとずっと設定が細やかで、登場人物それぞれの背景も描かれ、練られたストーリーで、バラバラに見える物語が結果、1つにまとまっていく構成力が素晴らしいので、実際読んでみて欲しいなあって思います!

予想外の伏線が張り巡らされていて、小物使いなんかも説明的で、見逃せないと言うか、何度でも読み返してしまいます!小鳩柄の着物なんて~。本当に効いてます!!抜かりない!「主題は細部に宿る」(東京心中)を目の当たりにしました。はー、好きだ。

さて、話は変わりますが、巻末の先生によるあとがきを見ると、大正時代をとことん取材されているんだなあって思います。凄いですね!古き良き大正を巡る旅をしたいものです。無声映画 with弁士さんも機会があったら見てみたいなあ。

あ、でも、紹介されていた「江戸東京たてもの園」には行ったことがあります。凄く楽しかったです!!凄いおすすめです!デートも断然ありだと思いますよ~。タイムスリップした気分になれて、本当に素敵です。前川國男邸とか、まじモダン過ぎてカッコ良くて震えます!建築に興味のある方にもおススメです。実際、本作で赤石先生が参考にされていたり、「千と千尋の神隠し」の釜じいの薬棚(?)もありました~。素敵な洋館のカフェでいただくパンケーキやドリンクも美味しくて、可愛いです。都の施設なので、無料開放の日もあったはず。(コロナなどの関係で、現在も行っているかは不明ですが。)ぜひ!

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↑↑↑ たてもの園にて撮影した邸宅(どこか忘れた)の玄関の写真。乙ちゃんと鷹ちゃんが立ってても不思議じゃない!!美しい~。↑↑↑

最後に総括。「めもくらむ」シーンは多々あれど、とにかく乙ちゃん!見た目の美しさのみならず、優しさ、芯の強さ、思考力、行動力、どれをとっても「めもくらむ」素晴らしい存在でした!はー、好きだ。

ということで、推します。


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