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勝手に1日1推し 131日目 「ジェラールとジャック」

「ジェラールとジャック」よしながふみ     漫画

よしながふみ先生の作品っていいよな~。何を今更・・・などとおっしゃらないで。
昔「西洋骨董洋菓子店」を読んで以来、久しぶりに読みました。で、しみじみいいな~と、余韻に浸っております。時を経ることで、見方も感じ方も変わるものなんだなあ。

フランス革命前夜のパリを舞台に、没落貴族の少年ジャックと、三文小説家の平民ジェラールの「一度目は街娼、二度目は息子、三度目は恋人」の如き愛の変遷を描く、大河歴史ロマン。

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先生の作品って、平等というより公平な描かれ方が心地良いんだと思います。
本作で言うと、裕福な平民ジェラールと没落貴族のジャック。明らかに平等にも公平にも扱えないであろう階級という壁をもってしても、2人の境遇や過去を描くとこで、対等な関係として見れるのがいいんですよ(奇しくも、作中ルソーの「人間不平等起源論」を扱っています)。
たとえ登場人物が複数人いたとしても(BLなどの恋愛関係でなくても)、それぞれが見る世界が同じになるように、個々を多面的、且つ、多角的に描いているからそう感じるんだと思います。そういうところが、本当にいいなあって思うんです。

登場人物たちがどんな境遇であろうと、どんな生い立ちであろうと、目線の高さを同じくして、その時を生きているのが心に響くんだと思います。目線の高さが一緒だからこそ、必然的に、いるべきして一緒にいる現在とか、起きるべくして起きた現在とかで、だから、今の関係が成り立っているっていう点がどの作品でも絶対的にブレていない!!そこに読者は夢を見るんだよね。本当に稀有な作家さんだなあって改めて思いました。(これ、特に「ソルフェージュ」収録の短編「本当に、やさしい」にめっちゃ現れている気がします。)ジーンとしちゃう。いいなあって、またしみじみ思います。

平等と公平

「西洋骨董洋菓子店」「きのう何食べた?」に続き、この度、めでたく「大奥」(未読です)も実写ドラマ化なんですよね!!うんうん、分かるぅってなります!

先に記したように登場人物たちの関係性の公平さがドラマ向きってだけじゃなくて、先生による作画の匿名性(?)の高さも、実写化要因なんじゃないかなって思います。誰も彼も美女で美男子ではあるけれど、特徴的でないと言うか何と言うか(褒めています)。
今、金カムの実写映画化で、杉元は俳優の誰がいい!みたいなのがSNSを騒がせているじゃないですか?!でも、そういうのがないんだよな。
誰がいいって言うより、誰がやってもハマるみたいな。
たとえその辺の人がやってもハマりそうなんだよね、先生の作品に登場する人たちって。そんな匿名性がある気がするんです。

紙面上では、表情豊かでそれだけで状況を表せるほどの機微を描写しているというのに、人物自体は匿名的なんですよ。決して没個性ではなくて、誰でもあって誰でもない、というイメージですかね。
それっていうのは、実写化に辺りその役が誰でもハマるっていうだけじゃなくて、先生の作品群にも現れていると思うんです。
本作のような西洋ものから「大奥」のような時代もの、もちろん「きのう何食べた?」みたいな現代もの、つまり、時代や国境を越え何でもござれ、自由自在、多種多様、これって無敵じゃない?!素敵過ぎます。

結局、先生の紡ぎ出す物語で生きる人物たちに命を吹き込んでいるのは人物そのものと言うより、素晴らしい表情や心情描写で、その人が背負ってるもの全てを含めて、たった一コマでも表わしきるその緻密さが魅力なんだと思います。だから個々が特徴的である必要はないんですよね。

おや、まあ!気付いたら、もはや作品の感想っていうより、よしながふみ評みいたいになっちったじゃん。えへ。

時を戻そう。そう、「ジェラールとジャック」。いいんだよね~。

娼館で客と男娼として出会う2人なんだけれど、そこから年月を経て、愛し合うに至ります。その過程が物語として描かれるんですが、2人の境遇や過去が明らかになるつれ、それぞれの言動の発露がどこからやってくるのか、がつまびらかになり、その意外な理由に心揺さぶられます。

必ずしも一つの価値尺度では収まりきらない問題の中で生き、もがき、苦しむジェラールの姿は、冒頭の、乱暴にジャックを凌辱する姿からは想像できません。いかに人が多面的であるかが分かります。
彼が自分自身を、過去を癒し、人を、人生を愛するようになるまでが丁寧に描かれており、シリアスかと思いきや、先生ならではのエスプリの効いた(?)コミカルさもあって、重くなることはありません。その匙加減が絶妙で、大団円。ハッピーエンドって、嬉し過ぎます!

ジャックはジャックで、ほんの子どもからの登場なので、その成長や心と身体の変化が著しいんです。その時、その年齢ならではの悩みや痛みが描かれており、先生の人を大切に慈しんで描いていている姿勢に感銘を受けずにはいられません。

まるで2人が同じ道を辿ってきたかのような構成も見事ですので、未読の方は是非ご堪能いただきたいと思います。長編なので、思う存分、先生の神髄を味わえちゃえます!

それに何だかんだ言って、フランス革命って、ロマンなんだよな。劇的な舞台で起こる出来事が魅力的であることに間違いはない訳です。やっぱり「ベルサイユのばら」があるからさ、自ずとロマンと結びついちゃうじゃん。
「風と木の詩」もしかり、未知の世界の未知なる事情が妄想と想像を掻き立てるのよ!そして何より上流階級の退廃ぶりは、最上級のロマンでしょ?!ハァハァ。衣装もキラキラで素敵なんだな。そんなとこもまたロマン!つまり、最高ってことです。

最後になりますが、クリムトの「接吻」構図で描かれる(?)ジェラールとジャックのハグ&接吻シーンが、とにかく素敵ナノダ!!ですので、お見逃しなく。

ということで、推します。


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