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12/18の映画感想

どうしてこう観ようとすると用事が立て込むのか
はたしてレンタルしてきたすべてを見終えることは出来るのか……


『夢』

3.11.の直後にCSの邦画専門チャンネルでやってたことがあって、『鴉』と『赤富士』と『鬼哭』の三篇観て「このタイミングでこれ放送する!!?」ってなったのを覚えてますが、そこで当時の心情的に視聴不可能になってやめたので、今回改めて全編視聴。

『黒澤映画スペシャルセット詰め合わせフルコース』ですね。
八篇が八篇とも満足感半端じゃないです。
映像美がすごい。もうこんな画が撮れる人っているか?ってくらいすごかった。ただただ感動。
虹も花畑も雪山も青空も麦畑も水車も全部綺麗。ゴッホの跳ね橋とか麦畑なんて空の色まで色彩まんまだ……すげー
そして亡霊となった一個師団の『トンネル』が重い。暗い。
『赤富士』の色味が悍ましい。怖い。それがいい。
あと、いかりや長介さんが懐かしかった。いい役者さんだったなあ。

『日照り雨』と『桃畑』はちょくちょく見覚えのある景色が挟まってたので、思わずロケ地調べたらやっぱり地元でした。
こういうロケが出来る場所も、今の日本にはどのくらい残ってるんだろうなと思います。
この映画のロケ地はそのまま残っていますが、地元自体はこの三十年間でだいぶ宅地化と観光地化が進んで、子供の頃に慣れ親しんでいた街並みや、森や草原のいくつかは大いに様変わりし、まったく残っていない風景もあるので、それを思い出して何とも切ない気分になりました。
『雪あらし』は冒頭台詞もなく、ただ必死になって雪山を歩いているだけなのに目が離せなかった。いや、でも、「雪はあたたかい」って、それは何となくわかっちゃうんですよね……(かまくらの中の話)

後半に行けば行くほど、『白痴』と同じく、第二次世界大戦を生き抜いてきた世代だということもあって、戦争に関する描写が具体的で(多分『トンネル』の陸軍士官の衣装とか持ち物とか居姿は、実際にそれを携行したり遂行していた人たちが思い出しながら撮影したんだろうな、とわかるくらいリアルで怖かった)、反戦・反核に対する思いが非常に強く感じられました。
『鬼哭』の巨大なタンポポも、今は都市伝説扱いになってますが、チェルノブイリ原発事故からもそこまで年数開いていなかったこともあったでしょうし、実しやかに近年まで語られていた話ではありますので、これを劇場公開した時の世間の反応はどうだったんだろうと気になるところです。
特に先述した『赤富士』は、富士山の噴火はさておき、原発事故に関しては実際に近いことが起こってしまっただけに、全く洒落にならない話になってる。そう、大人は何十年か生きたから、それなり自分で諦めはつくかもしれませんが、子供は未来があるんですよね。
これに関してはぐうの音も出ない。
発電方式がどうこうではなく、はたして今の子供たちが自分と同じくらいの年になったとき、今よりも豊かで幸せな生活が出来ているかと問われたら、迷わずに「NO」と言ってしまうだろうと思う。
自分たちが人類の歴史の最後のいいとこどりして、どうにもならないものを子孫に押し付けてしまうんじゃないかという不安は常にあります。
大人は大人になると自分が子供だったことを忘れてしまうんだよなあ、そして、おそらくは幼い子供を腕に抱いてもろともに飛び降りて死んだ他の大人たちと、原因作っておきながら一言詫びただけで、『私』と親子三人を残して先に飛び降り自殺した原発の職員はあまりにも無責任で残酷だな、と。
放射能の色の煙の中でかすむベビーカーが胸に痛かった。
この映画が公開されたときから三十年の時を経て、「大人になった今、お前は同じことをしていないか」と刃を突きつけられた気持ちでした。

最後の『水車のある村』での笠智衆さんの台詞の数々も、現代の人々からすれば「丁寧な暮らし()」とか揶揄されてしまうのかもしれませんが、便利なものに頼り過ぎてどんどんダメになっていく、というような台詞に、SNSやAIや電子化に振り回されて、実物に触れたり自分で考えたり創り出したりという大事な機会をどんどん失っているような、きわめて個人的な感覚ではありますが、間違いなくそう思っている昨今、人類の文明というものが穏やかに緩やかに滅亡に近くなっているような気がして、ぞっとしつつ考えさせられました。
黒澤明はやっぱすごいや。

個人的に一番好きなのは『鴉』です。ゴッホ大好きなので。
撮影エピソードをWikiで読みましたが、カラスを何十羽も捕まえて一斉に放して撮影したとか、ほんと潤沢な時間の使い方だと思います。そして極めてクレイジーです。大爆笑してしまった。今の世ならCGでやっちゃうんだろうけど、あれは本物のカラスだからこそ生み出せた不気味さのある映像なんだなあ。天才の発想は根本から違う。

そして、寺尾聡さんが本当にカッコよかった。
『桃畑』の『私』を演じられた伊崎充則さんにも、一緒になって泣かされてしまった。
雪女の原田美枝子さんも怖くて美しかった。
黒澤監督は画面に映る人の魅力を最大値まで引き出す天才だったんだとしみじみ思う。

この映画の元になった夏目漱石の『夢十夜』も今さらながら読み始めました。子供の頃に『坊ちゃん』とか『吾輩は猫である』とか、高校の教科書で『こころ』は読んだことあるけど、著作全部読んではいなかったので……
めちゃくちゃ面白いです。こういうふわっとしたのも書いてたんだなー。
この十年間、忙しかったり病気したり身内の不幸やら何やらでまともに本を読んでなかったから、老眼なりかけの目に鞭打って紙の本でも青空文庫でもとにかく読めるものは全部読んでおこうと思います。与謝野晶子の源氏物語も読む……がんばる
死んだら何も読めないし観られないし、書くことも出来ないもんなあ。生きてるうち、身体がそこそこ元気なうちに、やれることは出来るだけ全部やっておきたい。


明日は時間が取れたら明るい映画からいこうと思います。
『羅生門』はまだ観る決心がつかない。そのまま返却する可能性無きにしも非ず。
ちなみに今日、本屋に立ち寄った際に、ずっと探してたチャップリンのDVD見つけて買い占めてきたので、後日それもゆっくり見る予定です。
『モダン・タイムズ』とか『ライムライト』は断片的にしか覚えてないから勉強し直しだ。
ただ、『街の灯』だけが見つからないので、それを探してしばらくは書店廻りに精を出すことになりそうです。ぐぬぬ


全然関係ない話になりますが、この間ブコフ巡りしてたら、状態の悪くないフェルナンデスのZO-3を入手出来ました。
ネックとボディの継ぎ目のとこにちょっとヒビが入ってるだけ。あと電池のとこの絶縁体がぶっ壊れてるだけ(大問題や)
ひとまず年が明けたら、楽器屋さんにメンテ出して弾けるようにします。
買おうとした矢先に倒産してしまったのでホント絶望してましたが、現物が確保できたことは幸運でした。やったぜ。

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