掃除嫌いの私がクリンネスト1級を取った理由


私は、長年一人暮らしをしていて、1人で過ごす時間が大好きだ。逆に1人の時間がないとストレスが溜まってしまう。コろナ禍で有難いのは、仕事の飲み会に出なくていいことだ。一日中同じメンツと向き合ってるだけでも大変なのに、仕事が終わってもまた付き合わされるのには辟易していた。
しかも私はアルコールが苦手。
私と同じような感情を抱いている人は少なくないのではないかと思う。
私にとって最高な一人暮らしだが、苦痛なこともある。私は「掃除」が大嫌いなのである。
だが、どんなに嫌いであっても人間が生きていく以上、部屋の掃除をしないわけにはいかない。いつも、そろそろやらなきゃな、と思うまで腰が上がらなかった。
そんな私が今年に入ってユーキャンのクリンネストの資格を取った。
クリンネストとは、お掃除のプロの資格だ。
なぜあんなに鬱陶しかった掃除の資格を取ったか?それは、苦手を克服したかったからではない。

2020年の暮れに、会社の大掛かりな席替えがあった。私のオフィスは、ベイエリアにあり東京タワーやレインボーブリッジが見渡せる比較的大きなビルに入っている。かなり広い面積での席替えだ。席替えと共に、全員が不要な書類を捨てたり、身の回りの整理や掃除を始めた。
会社には大きな冷蔵庫があり、中を覗くと長年掃除をしていないのが丸わかりで、不衛生で汚かった。同じ部署のIT担当の男子も冷蔵庫の汚なさを気にしていた。彼はきっと綺麗好きなのだろう。「もうこれは、拭くレベルじゃないですよね?中全部出して置き皿を水でじゃぶじゃぶ洗うしかないっすよね?」と言ってきた。
私も「たしかにそうだね。ちょっとヤバいよね。」と言って、自分の席の回りの片付けが終わると一念発起し、ゴム手袋をつけて覚悟を決め上司に「冷蔵庫の掃除をしてきます。」と言った。IT君は、「自分も後から手伝いますから。」と言ってくれた。
まず、冷蔵庫に皆が放り込んでいた、汚い使いかけの調味料やら飲みかけのペットボトルなどを捨てまくった。そして、中の置き皿を全て出し、シンクへ持って行った。洗剤をつけスポンジでゴシゴシ洗った。長年の汚れはひと拭きでは終わらない。無心で洗い続けた。置き皿が終わると、今度は冷蔵庫の中を磨いた。30分もあれば終わるだろうと思っていたが、実際私がシンクから戻ってきたのは2時間くらい経ってからだった。

日々の仕事では無心になることはできない。別々の業務を平行してやらなければならない。その間にも、誰かから別の仕事を頼まれたりもする。何時何分には来客対応もある。時間も気にしなければならない。この時間にはこれは終わらせないと…こういった一連のことは会社員なら皆同じだろう。
しかし、冷蔵庫の掃除をしている間は、何も考えなくてよかった。何も気にせず、ただゴシゴシ洗い続けることができた。
そして、冷蔵庫がピカピカになり、まるで買いたての冷蔵庫が届いたようになった。
冷蔵庫が綺麗になると、今度は隣にある複数の電子レンジも綺麗にしたくなり、まるで何かに取り憑かれたかのように、ありとあらゆるものを磨きまくった。時間の概念がなくなり、時計を見るともういつもなら帰る時間になっていた。
1番驚いたのは、綺麗になった冷蔵庫ではなく、途中から掃除が楽しくなってきている自分に気がついたことだ。こんなに何かに集中して、しかも結果として目の前に自分の仕事が形となって出来上がったことに感動すら覚え、しばらく自分が磨いた全てのものに見とれていた。
立ち仕事には慣れていないのにもかかわらず、疲労感も感じなかった。

もしかして私は掃除の仕事に向いてるのか?
いや、まさか。あんなに嫌いだった掃除だ。でも嫌ではなかった。何なのだろう。

この達成感を再び感じたくて、今度は家の冷蔵庫を綺麗にし始めた。私の冷蔵庫も会社のそれに負けず劣らず汚かった。ただ家の冷蔵庫は自分しか使わないので、あまり気にならなかったのかもしれない。会社となると、複数人の手垢がついているしやはり不衛生だ。家の冷蔵庫は、会社の3分の1くらいの大きさなので、さほど時間がかからなかったが、ピカピカに仕上がると、やはり嬉しかった。
そんなふうに、冷蔵庫以外の家電製品やシンクを磨いたりして、綺麗になるたび感動していた。
普通の人が普通にやれることをなぜ今まで敬遠していたのだろう。

手伝いますと言っていたIT君が「時間が取れなくてごめんなさい。今見てきたんですけど、ピッカピカですね!ありがとうございました。」と言った。いやいや、私1人で良かった。誰かとやっていたら、私は手抜きするタイプだ。
「IT君、私もしかしたら掃除の仕事向いてるかも。ダスキンとかで働けるかも。」と真剣に言ったら、上司が、えーまさか辞めないでよね、などと言って、冷蔵庫が綺麗になったことに皆から感謝された。

会社には、もう一台、私が磨いたものより小さめな冷蔵庫があった。よし、明日はあれを綺麗にしよう!早く会社に行って掃除したかった。
こんなに仕事に行くのが楽しみなのは初めてだ。
そして、次の日、時間を見つけて冷蔵庫を磨いていたら、ビル清掃員の女性に声をかけられた。「お姉さん、よく掃除されてますね?」笑いながら、またやってるんですか?と言ってきた。
彼女は、専属の清掃員で、主にトイレ掃除や床などを掃除するプロだ。
「そうなんです。なんか楽しくなっちゃって。お掃除の仕事って大変ですか?私、今の仕事が好きじゃなくて、掃除の仕事をしようかと思ってるんです。」など、彼女と掃除の話で盛り上がった。
日本語が上手なので、日本人かと思っていたら、中国の女性だった。
コろナ禍で、会社がどんどん潰れていき、失業者が溢れる中、私も今の仕事をいつまで続けられるかわからない。強みもない。若くもない。一生続けられる「仕事」というものを考えると選択肢が狭まれる。
彼女は、この仕事は世界がどんな状況になっても残りますよ、と言った。
確かにそうだ。感染病が流行ろうとも、清掃員という仕事は社会情勢で左右されるものではない。
彼女と話して、家に帰り、掃除の仕事について調べた。
一言で掃除の仕事といっても、たくさん種類があり、いろいろな資格が必要なんだなということがわかった。とりあえず、ユーキャンのクリンネストを取ろうと考えた。
申し込みをし、年明けには掃除道具や学習テキストが届いた。飽きっぽい私が1ヶ月もかからずに資格を取った。

デスクワークしかしたことのない私が掃除のプロになれるかはわからない。それに、プロなら冷蔵庫磨きに2時間もかけられないだろう。給料も下がるだろうし、他のバイトと掛け持ちしながら働く毎日になるかもしれない。でも、先々のことを考えると、自分に向いていて楽しく働けるなら、それでいいと感じている。
掃除の仕事を一生の仕事にしようなんて、IT君の冷蔵庫汚い発言がなかったら、考えもしなかった気づきだった。彼には、このことは話していないが、何かを始めるきっかけを作ってくれて感謝している。
今の会社を辞めたら本気で掃除の仕事がしたいと思っている。
実際やってみないと向いているかそうでないかはわからないが、世の中、ちょっとしたきっかけでどう転ぶかわからないものだ。

本日も、最後まで読んでいただき、ありがとうございました。



#掃除 #ユーキャン #クリンネスト #冷蔵庫

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