アラサー非法学部未経験者が法務を3年やってみたら会社に居場所ができた話

皆さんこんにちは、ななみ(@nanamiffy7)といいます。
この記事は、裏 法務系 Advent Calendar 2022の16日目のエントリーです。
ronnor先生(@ahowota)からバトンを受け取りました!
ronnor先生の記事は、こちら
強者ひしめく法務系AC、初めてのエントリーで場違い感がハンパないですが、どうぞよろしくお願いいたします…

自己紹介と今回のテーマ

まずは、かんたんに自己紹介を。
アラサー非法学部卒、未経験で法務になりまして、現在は4年目です。
今の会社には3年前の春に総務で転職し、その年の秋頃までは総務と一部人事のお手伝いをしていました。
それから大人の事情により、法律など全くわからない状態から法務をやることになりました。
結論から言えば、法務になってキャリアが救われたというか、仕事ができないダメな社会人が会社に居場所があると感じられるようになったので、法務をやることにしてよかったと思っています。
これまでの3年を振り返るとともに、この記事がひとつの体験記として、私のように非法学部未経験で法務始めた方や、未経験者が配属された法務部の方などのご参考になれば望外の喜びです。

法務配属前夜

3年前の春に総務で現職に就きましたが、(転職前も含め)全く仕事ができず、会社にも社会にも居場所を感じることができなくて、悶々とした日々を送っていました。正直仕事に何にも興味がありませんでしたし、転職したのは単純に前の会社が嫌になったからです。人とかが。
総務では、備品発注を忘れて営業部の人に冷ややかな目で見られることも何度もありました(その節は本当にすみませんでした)。。

そんなダメ社員だったため、総務の皆様も持て余していたのでしょう、入社から半年ほど経ったある日、上司から「うちの会社も事業とか多くなってきて、法務の業務増えてるんだよね。ななみさんは勉強できそうだからさ、勉強。向いてるんじゃない?やってみない?」というようなことを言われました。

印章管理などはやっていたので、「ゲェーッ!あの契約書を私が読むの?ムリムリムリムリ…!」と思いました。
が、正直このまま総務でやっていてもどうにもならないだろうし、なんか圧も感じるし、ま、いっちょやってみっか!という感じで法務を始めることになりました。
(実際は、絶対できっこないと感じていてとても不安でした)

1年目~自己研鑽の日々

弊社の法務は、法律事務所から転職して来たインハウスの弁護士がひとりでやっていました。その人が上司になります。法務部などはなく、総務の一角でやっていましたが、寡黙な方で、いつも黙々とやっているイメージがありました。
静かな雰囲気で「無茶なことは言ってこなさそう」と思ったのも法務をやってみるかと思った動機のひとつです(私はあまり話すのが得意ではなく、前職の上司に「暗い」とか散々言われていました…)。

法務として最初は秘密保持契約から始めて、業務委託契約書などをやっていきました。
書籍や昔の契約書を見ながら修正して、上司のチェックを受けました。
上司は、習うより慣れろタイプというか、「とりあえず阿部・井窪・片山本を買って頑張れ」という感じで、数をこなしていきました。
書籍とか、上司が直したところとか、契約の相手方のコメントとかを参考にやっていきました。体系的に教わったことはそんなになかったかな?

この時期に非常に役に立ったのが飛翔法律事務所さんの契約書チェックマニュアルでした。
これは、チェックポイントが端的に書いてあり、ありがたかったです。
阿部・井窪・片山本も参照していましたがその頃は難しいなと思っていたので。。

あと右も左もわからないこの時期に役に立ったのは以下の本などでした。
こういうのを読んだりして条文に慣れていきました。

ビジ法2級から

NDAや業務委託契約書、簡単な法務相談などをやりつつ、業務外ではビジネス実務法務検定2級の勉強をしていました。
学習期間は2か月程度でしょうか。
学習を始める前に、インターネットを見ると資格取得ブログとかで、「ビジ法2級はテキストを読むな。過去問を回せば合格できる。2週間くらいで受かる」と書いてあり、そうなのか~と思いましたが、一応公式テキストと問題集を買い、テキストも読んでいきました。
後から思ったのですが、確かに合格するだけならテキストを読む必要はないと思います。試験問題はほぼ過去問から出てくるため、過去問を回した方が圧倒的に速いです。
が、法務をやるのであればテキストを通読した方がいいと感じました。
マーク式ですし、過去問だけではどうしても点取りゲームみたいになってしまって、深くは学べないと思いました。「資格を取る」目的ならそれでいいかもしれないものの、「資格の学習を通してビジネス法務について学ぶ」目的なら、達成は不十分になるかなと。
ここで近道せず、テキストを読んでひととおりビジネス法務について学べたのは大きかったです。
試験は無事合格でした。

その直後に人事評価があり、これがなんと、けっこう良い評価だったのです。
絶対怒られると思っていたため、かなり嬉しかったのを覚えています。
これまでこの会社で、社会人生活で、いや人生全部を通しても、これだけ人に認められたことはありませんでした。
このとき、なんとなく、法務なら頑張れるかもと思いました。
性格的に、法務業務の以下の点が向いていたのかもしれません。総務や営業よりも向いているのかなと。本を読んだり、ものを考えて、何か書くのはけっこう好きなタイプと思います。
業務時間の多くが契約書を作成したり調べ物をしていて、ひとりで考えている時間が長い(総務のときは細かいタスクがたくさんあったり、色んな人から頻繁に話しかけられたりした)
スキル向上については、書籍を読んで勉強すればなんとかなることが多い(大昔に営業をやっていたときは、どうやって頑張ればよいか、どうすればスキルが上がるのかわからず辛かった)

憲法はビジネスに活きる

ビジネス実務法務検定2級が終わり、次はどうしようかと思ったところ、行政書士試験を受けることにしました。
民法や憲法を勉強したいと思ったからです(ビジ法2級は民法はちょっと出たけど、憲法は無かった気がします)。
試験科目は、憲法・民法・行政法・商法・会社法・基礎法学・一般知識(個人情報保護法とか)だったと思います。

行政書士試験は11月で、年明けに情報収集し、市販の教材を揃えてスタートしました。試験までの期間が割とあったのでゆる~くやっていました。
インターネットで情報収集すると、憲法や民法は行政書士試験の参考書よりも公務員試験の参考書のほうがよいと書いてあったため、以下の問題集を買って、憲法から始めていきました。

この問題集は、国家公務員総合職の問題も載っており、行政書士試験の問題集よりもハイレベルな印象です。
これをやりながら、上司が持っていた憲法の基本書(通称「四人組」)を借りて読んで、勉強していました。

ここで始めて本格的な法律の学習をすることになりましたが、憲法の学習は楽しかったです(ただし統治は除く)。
判例が面白かったのです。
加持祈祷事件とか(「ど狸早く出ろ!」はパワーワード)。

で、最も面白いなと思ったのは、違憲審査基準のところで、比較衡量論とかLRAの基準とかです。
比較衡量論は、ざっくりいえば「得られる利益と失われる利益を比較する」ということで、これを学んだとき、「あれ、これって法務の仕事そのものでは?」と感動したことを覚えています。
要するにメリット・デメリット、プロコンを比較するということかと。それって仕事も一緒ではないかと。
LRAを学んだときも、ふむふむ…「Less Restrictive Alternatives」の略で、「より制限的でない他の選びうる手段」か…
あれ、これを考えるのも法務の仕事では
要は「目的を達成するのにもっと良い手段はないか」ってことでしょ。
これは仕事に通ずるぞ…

すごい…
叡智を感じる…人類の叡智を…
法とは…人類叡智の結晶なのだ…

こんなイメージで、勉強するのが楽しかったのです(熟練法務の皆様には憲法を深く理解していないと怒られるかもしれませんが…)。

民法と会社法

憲法が終わると次は民法に入りました。
民法についても公務員試験の教材がよいと書いてあったので、以下の本を買ってやりました。

上の本は、大学受験でいうと「実況中継」シリーズみたいな本です。講師が砕けた口調で話しているのを文字に起こしたイメージです。
同じような本は何冊かありましたが、書店で見たところこれが読みやすそうだったので選びました。
結果的には初めにこれを読んで正解だったと思います。スルスルと読めて、挫折せず、民法を概観することができたからです。
問題集にいきなり入ったら絶対できなかった。。

行政書士試験では配点が高くない会社法も、せっかくなので本を読んだりしました(ゆいの会社法入門は最近続編が出たんですね!)。

(有斐閣ストゥディアシリーズは薄いのと紫のカバーがかっこいいので好きです)

試験勉強としては遠回りしたような気がしましたが、行政書士試験は無事合格できました。

2年目~効率化を進めるのこと

行政書士試験が終わるちょっと前に法務2年目に突入していました。
業務については、NDAや業務委託以外にも、その他の契約書や利用規約、各事業部門から寄せられる法務相談、リーガルリサーチをやっていって、幅が広くなっていきました。

この頃、仕事に慣れてきたのとコロナで在宅勤務だったこともあり、「あれ、これ効率化して仕事速く終わらせればサボってもバレないのでは?」と思ったことがきっかけで、ちょっとずつ日々の業務を効率化していきました。
ひな形を作成して、条項の解説や以前に相手方に送った/相手方から来たコメントをメモ的に吹き出しコメントに付けていきました。
「どうしてこの規定があるのか」「根拠は何か」を常に意識しろと上司に言われており、それを考えて、調べて、後から参照できるようにコメントにメモを残しました。
また、他にこの時期は以下のようなことをやっていました。

  • マニュアル作成

  • チェックリスト作成

  • 寄せられた法務相談の質問と回答を、後から参照しやすいよう根拠資料とともにひとつの場所にまとめる(FAQ、Q&Aの作成)

  • 社内のDXツールをいじる

  • 契約業務に最適化したクイックアクセスツールバーを構成する

  • Wordのマクロにハマる

この時期に作成を始めた、ひな形・マニュアル・チェックリスト、FAQ・Q&Aは、後に若手後輩が入ってきたときの、未来の私を救うことになったので、ここでやっておいて本当によかったと思いました。
手順や操作をとことん可視化・言語化して、行動レベルに落とし込まないと、できるようにはならないのかなぁと。

マクロと効率化

契約業務でWordマクロを使っても、Excelマクロみたいに1時間の作業が1秒で終わるというようなことはないと思いますが、地味な短縮の積み重ねにより、精神的に楽になりました(面倒くささが減る)。時間短縮に効くというよりも精神力の温存に効くという感じです。
例えば、Wordの「書式のクリア」は、太字やアンダーラインなどの書式設定はクリアできますが、ハイライトやハイパーリンクまではクリアできません。
「ハイライト消すにはどうするんだっけ?」と方法を探したり、いちいち右クリックしてハイパーリンクを削除する時間が無駄だな~と思いました。
全部ひとつのボタンで消せたらいいのになと。ボタンを選ぶのに迷わないし。
そこで、①書式のクリア②ハイライトを消す③ハイパーリンクの削除→④上書き保存、の4つの作業を組み合わせて一度にできるマクロなど、地味な数行マクロみたいのを量産してました。
(VBAがゴリゴリ書けるわけではなく、落ち着いたら学びたいなと思っています)

4点分の働き

効率化の基本に、ひとつの行動に複数の意義/効果を持たせるということがあるかと思います。

今流行のスラムダンクで例えると(唐突)、山王戦の後半で湘北が劣勢に立たされたとき、安西先生が桜木に出した指示はオフェンスリバウンドを取りなさいというものでした(味方のシュートが入らなかったとき、ゴールリングからこぼれたボールを取ること)。
オフェンスリバウンドを取るというひとつの行動で、①敵のボール奪取からのカウンター速攻(-2点)を阻止できる、②味方のシュートチャンスがもう一度生まれる(+2点)というふたつの効果が生まれます
-2点を防ぐと同時に+2点のチャンスを生む…

井上雄彦「スラムダンク 新装再編版」(集英社・2018)
17巻259頁より

作中ではこれを「4点分の働き」と呼んでいましたが、最小のコストで最大の効果が得られるものを選ぶのが意思決定・行動選択のセオリーで、理に適っており、名将・安西先生のすごさが垣間見える鮮やかなシーンです。リバウンドが桜木の武器だというところもまた…
それに桜木投入で狙っていた効果はこれだけではないですしね
このシーンは有名な「あきらめたらそこで試合終了ですよ…?」の直後にあるのですが、一話でこれだけ見所のあるスラムダンクってやはり傑作ですね…

この後の試合では、安西先生の読み通り桜木が戦況を大きく変えることとなり、まさにこれは価千金の働きでした。
ここまでのものではなくとも、複数の効果をもつ行動とか、一度やれば効果が永続する行動(ITツールでの自動化等)とかを重点的に、地道にやっていけば、積もり積もって大きな成果を生むと信じています。

トラックボールとマウスジェスチャー

さて、いささか話が脱線しましたが、マクロは、ボタンひとつで複数のアクションが自動でできるため、作っていて楽しかったです。
マクロはショートカット登録できるので、作ったマクロを「Ctrl+1」とかに登録して、それをマウスジェスチャーに登録して使えるようにしました。

また、この頃、マウスからトラックボールに変えました。

トラックボールは、ボールをくるくる動かせばポインタを動かすことができ、手が疲れずに楽でした。
このトラックボールにはマウスジェスチャー機能が付いていて、例えば、中央のスクロールボタンを押しながらボールを左方向「←」に動かすと「Alt+Tab」のタスクスイッチャーを起動する、みたいな設定ができて便利です。
通常のマウスでマウスジェスチャーをすると手が疲れることがありますが、トラックボールだと疲れませんし、「↓」「↑」「→」というゲームのコマンド入力みたいな楽しみが生まれ、なんだかとりあえずWordを開くだけで楽しい、という謎感覚にもなりました。

3年目~困難の出現はステージが上がるから

そんなことをやっていたら、なんとか無事に3年終了することができました。
3年目になると、効率化が奏功してきたのか、社内的に「何やらPCとか使える人みたいだ」と思われたようで、法務のこと以外にもPCやDXツールのこと等で「これどうやってやるの?」「こういうことやりたいんだけど」と声をかけてもらえるようになりました。
会社に居場所を感じましたね…
いつも社会の端っこで生きてきたので…ううう…(泣)

でも、こうした効率化も最初から認められていたわけではありませんし、今でも興味ない人は興味ないです。
最初にやり始めたときは、「そんなの誰も求めてないから」と言われたりしましたし…
それでも止めずにひたすらやってたら、段々と皆さんが「これ便利じゃん!」と思ってくれるようになりました。

これ以外にも3年目は色々ありました。
法務経験者が中途で入ってきたり、法務の若手後輩が二人ほどできたり、冒頭に出てきた上司がいなくなったりしました
法務の募集要項を書いたり、採用面接を担当したりするようにもなりました。

法務経験者が入ってきたら私はお払い箱なのでは?とか、あの上司いなくなったらマジでどうするんですわよ、と思いましたが、なんとかやってこれましたね…
この記事では良かったことを書いてますが、大変なコトや嫌なコトもそれなりにあります。
会社の上層部のやり方に不信感を持ったり、また、最近は若手後輩に業務を教えていますが、あまりうまくいかなくて悩んでいます。。
そんな折、Twitterを始めて、世の中にはこんなすごい法務パーソンがいるんだと思ったり、皆さんも同様/類似のことで悩んでいるんだなと、元気をもらったりしました。
上司と二人でやってた頃は楽しかったなと思いますが、こういう困難や悩みが出てきたのは私のステージが上がったからなのかもしれません。
上層部のやり方に不信感を持つのは、仕事や会社のこと、自身のキャリアを多少なりとも真剣に考えるようになったから。
数年前までは、若い人のほうが普通に私よりも仕事できましたし、私が後輩に教えるなんてことはなかったですしね。。
とりあえずそう思うことにします。

おわりに~法学部・非法学部の壁を越えて

非法学部未経験で法務に就き、最初は不安しかなかったですが、なんとか3年やってこれました。
法務は、勉強は大変ですが、今まで知らなかったことを知り、できなかったことができるのが割と明確で、成長実感がある職種なのではないでしょうか。
悩むことはあれど、法務をやって少しだけ仕事に、自分に自信が持てるようになりましたし、会社にも居場所ができたと思えるようになりました。
そんなわけで、私は法務という職にも、法務をやらせてくれた会社や周りの人々にも感謝しています。
これで万々歳というわけではなく、私は弁護士の資格はないもので、これからどういう感じでキャリアを形成していこうかと悩むこともあります。

法務の求人には要件として「法学部卒」と書いてあることもありますが、少なくともその壁を越えていきたいな〜と思っています。

きっと、資格や肩書き、属性が仕事をするわけではなく、仕事をするのはその人自身であり、資格や属性の効果よりも、その人自身が何をやってきたか、そしてこれからの仕事に向かう姿勢とか自己研鑽とかの効果の方が、仕事に与える影響としては大きいのではないかと思います。
仕事に影響するものとしては、法的な知識、ビジネスの知識、文書作成力、起案力、読解力、論理的思考力、説明力、傾聴力、調整力などなど色々あり、資格や属性よりも、これからどのように能力を身につけていくかが大事なのではないかなぁと。

身も蓋もないですが、人によるという感じでしょうか。
こういう属性は今から変えられない又は変えるのが困難なので、今からできることをやろうと思います。
来年は将来のことについて考えたいと思います。

ここまで読んでくださり、ありがとうございました!

次はDaisuke Nakajoh様にバトンをつなぎます!
楽しみにしております!

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