【つらつら草子⑫】いろんなもんのはざまで

 新しくできたタンデムパートナーは、トルコ出身のムスリムで、私はルームメイトに聞きそびれてしまったラマダンの時間について質問することができた。ドイツは日照時間が長いし、もっと北だと日が沈んでるのが一時間だけだからとても大変だ、と話していた。日の出日没というルールは、その土地の日照時間にかかわらず一定らしい。北方の国に住むムスリムの人々の大変さを思ってため息が出た。
 
 ここからは完全に愚痴である。愚痴を昇華しつつ作品にしつつ文章創作のリハビリをしようという当初の意気込みはどこへやら、これはもう目下に迫った状況と自己嫌悪の吐き出しである。①の文体はどこへ行った。でももともと縛りなく書いちゃえというノリだったのでよかろう。次の話でまた①の文体に戻っているかもしれないし、数日後に恥ずかしくなってこのノートはなかったことになっているかもしれない。それでいい。精神安定が目的だもの。といいつつ思いっきりビューの数などに反応していますこのあたりのバランスがまったく取れない。あらゆるSNSで取れない。気がつくと中の人の人格が溢れてしまって自分でいたたまれなくなって破綻、今回も若干その予感に怯えているけれどnoteの片隅でぷるぷるするなど自意識過剰も甚だしい。自意識過剰の延長で若干身バレに怯えてもいるが、こちらで知り合った日本人はみんなドイツ語の勉強で忙しいし、絵描きには複数出会ったが文章創作が趣味という人には会っていないので、どう間違っても捕捉されることはないと思う。多分。

 noteに文章を上げたのに触発される形で長いこと放置してあった小説を本格的に書き進めてしまっている。なにもドイツでドイツ語勉強できるときにやらなくてもいいだろうと思うのだがじゃあ日本でなら書けたかというとそうでもなく、物音のいっさいしないハイデルベルクの山奥でなぜだかノッてしまったわけで、仕事しなきゃと焦ることもないという状況だからこそ書けるんである。ロンドン→カッセルのドクメンタ→マンハイムのコンサート→ミュンヘンのオクトーバーフェスト→ベルリン→ミュンスターの彫刻プロジェクトと、「今行かないと行けないんじゃないか」という強迫観念のようなものに後押しされて飛び回っていたときに「”今しかない”というのがそもそも誘惑」という趣旨の忠告を頂いて、そのとおりだと思いつつ忠告を聞き入れずに四方八方飛び回って疲弊したわけだが、ここに来て「ドイツでしかできないこと」を放り出して小説に食らいついてしまったのは甚だ滑稽である。いやでもクリスマスマーケットも行くけど。ルートヴィヒスブルクのカボチャ祭りも行くけど。小説なんてネタばかり膨らんでけれど書けない万年ワナビで一生かかっても書ききれないでしょというレベルなのでいつだって「今しかない」のだ。ドイツ語の勉強? やばい。というか「あ、これはちょっと一年でモノにできるレベルじゃないっすね」というのが分かってしまったからこその創作再燃という現実逃避部分が八割五分である。ダメな大人の見本である。
 どんな生活をしたいんだろう? って、広い今のあるお部屋で小説を書いて暮らしたい、というのがもうほんと理想、小説を仕事にできたら最高。それで稼ぐにはデビューしなきゃならない。デビューするには書かなきゃならない。じゃあそれ優先したほうがいいんじゃない? というごくごく当たり前のことにハイデルベルクで気づく。ハイデルベルクの山奥で気づく。海外で暮らすより外国語操るよりやりたいのは小説でしたと気づけたのは収穫ではあるけれどもいかんせん感情の起伏の激しい(もうこのマガジンの破綻ぷりからして私の正確が現れている)のと気分の移り変わりが激しいのとで、どうしようもない。
 昔、一度だけ予選にかすった作品は、3ヶ月缶詰をして書いたものだった。仕事をしながら書くみたいな生活が理想だと思っていたけれども振り返ってみればそんな器用なことできていないし、仕事しながら書いたときはだいたい仕事がボロボロになっている。でも小説だけ書ける財力もないでしょうっていう。世の作家志望の人達の多くは似たようなことでもがきつつ、でも作品を完成させて投稿して、デビューしてるんだなと思うと自分の小ささと覚悟のなさを思い知ります。5ちゃんねるの文学賞板覗いて「うわあこんなに投稿してる人いるんだていうか私もそのひとりかようわあ」ってなる、そしてそうなるのも私だけじゃないでしょう多分。ドイツ滞在期限は3月末。いろんな文学賞の締め切りが3月末なのを考えるとそれまでに何かしら完成させたい。それまでに何かしら、といなると逆算してもう5ヶ月しかない。5ヶ月。年齢的にも体力的にもほんとになんか形にしないとちょっともうこの先やっていける気がしない。
 でも来月は「やっぱりドイツ語を」とか言ってるかもしれない。
 とりあえず書いている。書けば書くほど書けなさにげんなりする。黒田夏子さんの文章が好きすぎるのでポスト黒田さんになりたいと途方もない妄想を膨らませつつ、とりあえず毎日何か書いている。

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