2021年度開催の ななめな学校 連続ワークショップ における 金川晋吾さんの授業「夏への扉 日記をつける、写真をとる」の往復書簡で、金川さんとななめな学校ディレクター細谷でやり取りしています。
これは細谷から金川さんへの書簡で、WS五回目のレポートです。

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金川様

全5回のWSが終わりました。まだ成果発表展とその準備が残っていますのでWS全体の総括は次回以降として、第5回のWSを振り返ろうと思います。

今回のWSは写真に着目したWSとなりました。
それは成果発表展にて、日記の展示とともに、この期間に撮った記録の中から参加者が自らセレクトした写真をそれぞれ数枚展示しようと考えているからです。

今回のWSは写真の技術を学ぶWSでは無かったですし、「こういう写真が良い写真だと考えている」といった提示が金川さんからなされていたわけでもなかったので、いきなり「写真を選んでください」と言われても参加者は難しかったと思います。

そんな中で、日記と関連した意味のある写真を選んだ方もいれば、自分が撮った中で「好きだ」と思う写真を選んだ方、枚数全体で「昼、夜、夕焼け、屋外、室内、緑、青、赤」などとバランスを考えて選んだ方、他の参加者との兼ね合いを鑑みて客観的にセレクトされていた方など、みなさん丁寧に考えて下さってありがたかったです。

参加者の中には以前から写真に興味があった方も、今まであまり写真を撮らなかったという方もいらっしゃいましたが、写真にも参加者それぞれの個性は現れていました。
そして、そういった「その人らしさ」を感じる写真に金川さんも私も惹かれました。

皆さんの写真を見ながら話したことで、(日記と同じように)写真にもその人が好きなものやその人が気になっていることが現れるのだな、と感じました。
例えば、写真に自分の足を写り込ませたり、ビルのミラーガラスに映った自分を撮ったり、自分の衣服を撮ったりと「自分の身体」を意識させるような写真の多かった参加者(自覚的に撮っていた写真と無意識的に撮った写真が混在しているように受け取りました)は、そういった話が日記のひとつの核になっていたと思います。

と同時に、「その人らしさ」を感じる写真の良さに、本人は意外と気が付いていないのかもしれない、とも思いました。
例えば、日記に“お店で食べたパンケーキ”の写真と“いいちこ+おつまみ”の写真を載せていた参加者がいて、展覧会用の写真にはパンケーキの写真の方を選んでいました。確かに、色彩的に綺麗なのは“パンケーキ”の写真でしょうが、「なんでこの写真を撮ったのだろう」と興味を惹かれるのは“いいちこ”の方でした。

もう一つの観点として、日記に書いたことを補足したり日記の内容と対応している写真と、内容とはあまり関係なく「たまたま気になったものがあったから撮った」という振る舞いの写真がありましたが、後者の写真について、気になるポイントが皆さんそれぞれに違って本当に面白かったです。僕自身が町の中のこういう場所と遭遇してもきっとカメラを構えられないだろうなという写真もあり、自分にはない視点を提示された感じがしてハッとしました。また、特にそういう写真の時に「何に気になって撮ったのか」が説明されなくても伝わってくる写真は、パワーがあるなと思いました。

写真については、日記以上に金川さんのコメントが参加者に対し強く作用してしまうのではないか(金川さんのコメントに影響を受けてしまい、「撮りたい」写真ではなく、「狙った」写真になってしまうのではないか)と懸念し、最後のWSでテーマにとりあげましたが、数回前のWSでこういった写真の話をしても良かったなと思いました(WS後に金川さんもこの旨、仰っていましたね)。毎日写真を撮る中でフレーミングやアングルを試行錯誤されていた方もいらしたようですし、「あなたの撮ったこういう写真が面白い、惹かれる」ということをもっと前に伝えられたら、参加者が写真を撮る際のヒントになったかもしれないなと感じました。

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ここで少し自分のことを話すと、前回の書簡で「写真はインプット」と書きましたが、今回あらためて写真を見返してみると、成果展を行うことが決まっていたせいか「アウトプット」の側面も意識して撮っていたんだなと気づかされました。そう感じたのは、夕日の写真が多かったり、雨がフロントガラスに落ちる様を車内から撮った写真があったりと「瞬間」を捉えようとした写真が多かったからです。そしてそれは写真でしか表現し得ないもの(ほかのメディアで表現できる方も勿論いらしゃっると思うのですが、僕のスキルだと、写真をとることでしか表現できないもの)だったからです。

最後に、ひとつ。
WS終了後、今回でWS自体は終わりということで、どなたかが提案して下さって、みんなで集合写真を撮ったのがすごく良かったです。僕自身はそういうこと(記念写真を撮ろう!みたいなこと)を全くしようと思わないタイプなので気が回らなかったのですが、いざ撮ってみると、こういう記念というか記録を残せたことがとても良かったなと感じている自分がいました。写真には大切な記憶を記録するとい大事な役目があって、この写真を見返したらいつだって「夏への扉」というWS中心に動いていた2021年の夏のことを思い出すのだろうなと考えていました。


成果発表展までまだやることは残っていますし、参加者も日記を整えたりと引き続き大変だと思いますが、もう少しだけ走り続けましょう!

展示会場に足を運んでいただき、しっかり見て下さった人にはとても強いインプレッションを与えられる発表展になるような気がしています。

引き続きどうぞよろしくお願いいたします。

21/08/05 ななめな学校ディレクター 細谷

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※追記:今回のWSの成果発表展では、6~7月のWS期間中の全日の記録(日記と写真)を参加者ごとに冊子化したものを机に並べ、同期間中に撮った写真の中からセレクトした数枚を壁面に展示しようと考えています。

勿論、来場者には写真一枚一枚をつぶさにも見て欲しいですが、参加者ごとに複数枚で構成される写真のまとまりから、その参加者のトーン・雰囲気を感じていただけたら嬉しいです。そして、興味が湧いた方の日記に手を伸ばしてみて欲しいです。

それぞれの参加者の写真が何を被写体とし、どんなトーンなのかを言葉にするのは難しいので、是非多くの方に成果発表展に来ていただきたいです。


■ひとつ前の書簡はこちら

金川晋吾(かながわしんご)・ 1981年、京都府生まれ。写真家。千の葉の芸術祭参加作家。神戸大学卒業後、東京藝術大学大学院博士後期課程修了。2010年、第12回三木淳賞受賞。2016年、写真集『father』刊行(青幻社)。写真家としての活動の傍ら、「日記を読む会」を主催している。
近著は小説家太田靖久との共作『犬たちの状態』(フィルムアート社)

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