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内省的な旅日記3 岩手、宮城

七草と旅の記憶

日本半分縦断、青春18切符の旅
青森と音楽3


駅そばと途中下車-北上市、仙台市


乗換駅でお昼ごはんを食べることになり、友達が北上ラーメンを見つけてくれた。お互いにスマホ画面をのぞき込んで相談し、乗り換え時間とお店までの距離を鑑みて行けると踏んだ。

私達は改札をくぐり、待合室の一角にある湯気のもくもく立ち込める立ち食いそば屋さんに向かった。
食券を買う。予め決めていたメニュー、リアスラーメン。
めかぶとわかめのたっぷり乗った醤油味の細麺をカウンター越しに受けとって、わくわくと割り箸を割った。
美味しい。優しいシンプルな醤油の味が、めかぶのネバネバと一緒に細麺によく絡み、磯の香りが口いっぱいに広がる。温かなスープが胃の中まで温めてくれた。私は無心で麺をすすった。



この日の移動は秋田駅から仙台駅まで6時間、それから移動して福島駅まで1時間半。合計7時間半の予定だ。
JR奥羽本線、JR北上線、そしてJR東北本線と乗り継いで東を目指した。

午後に仙台駅へ着くと、改札口の賑わいをキョロキョロと見回しながら、人並みに流されるようにして駅前の大きな歩道橋を渡った。
地元の食材が手に入るという情報を得て、地図を片手に仙台朝市を目指した。さほど幅の広くない庶民的な道路の左右には露天が立ち並び、立派なタチウオや昆布などの海産物、様々な種類の豆や野菜が軒下に積まれ、手作りの値札がつけられていた。どの食材も生き生きとして新鮮そうで、行き交う人々の活気も相まってか食欲の湧いてくる場所った。自宅が近かったらぜひ通いたいと私は思い、ふと想像した。
旅をする中で、時折このような想像をするようになったのは今回の旅の発見でもあった。
自宅のそばにほしいなと思うような魅力ある温泉、食堂、市場。それらのある場所には必ずその土地で生活する人々がいて、自分が心惹かれたその場所は、その人達にとっては日常の一部なのだろう。
自分の住む町にも似た場所や店舗があるのかもしれない。似たものはなかったとしても、その土地にしかないものは必ずある。もし自分の町に旅人が訪れたら、私と同じように心惹かれて自分の町にほしいと感じる場所を見つける可能性だってあるのだ、と。

その後、ホヤと牛タンを食べ、旅の3日目に乾杯した。初めて食べたホヤの唐揚げの不思議な歯ごたえある食感も、何切れかだけ少しつついた牛タンの染み渡るお肉の味も素晴らしいものだった。
食べたことのある料理の中で美味しいものを食べる衝撃も勿論あるが、今回は未知の食材に出会う楽しさを知った旅だった。海外旅行ではむしろ後者の衝撃の方が大きいように思っていたが、国内でもこの喜びに出会えることを知ったのは大きな収穫だった。−…とは言っても、海外にもさほどたくさん行ったことがある訳ではない。海外にもまた行ってみたいという思いも芽生えた。

とっぷりと日の暮れた仙台駅を出て、宿をとってある福島駅を目指した。

旅も明日で終わりになる。本日入手したお土産のひとつに、北上駅の売店で見つけた里芋タルトがある。里芋は好物だがお菓子に使うイメージがあまりなく、見つけてすぐにレジへ直行した。店員さんはてきぱきとバーコードを読み込むと、ありがとうございましたと笑顔を見せてタルトとレシートを渡してくれた。私もお礼を言って軽く会釈した。
二子さといもという名産品があることをその時知った。強い粘り気と滑らかな食感が特徴の、在来種由来の里芋ということだ。

いつ食べようかと楽しみに考えながら、私の意識は日常へと吸い寄せられていたが、不思議と心は重くならなかった。
自分にとっての旅と日常について、夜闇に街明かりの流れる窓の外を見つめながら、私は静かに考えていた。

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