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HiGH&LOW THE WORSTの衝撃で退職日が決まった話

ゆるふわ社畜として数年を過ごしていた私の退職日が決まったのは、昨年夏に辞意を告げてから延びに延ばされ、実は人事まで話が通ってなかったと知った秋を過ぎ、本当ならば有給消化中のはずだった年末。
忘れもしない、『HiGH&LOW THE WORST』を観た直後のことだった。

そもそも私が『HiGH&LOW THE WORST』(通称ザワ)を知ったのは、ゆるふわ社畜ぶりが極まったせいでタイムラインを追うのも間遠になってきたころ、Twitterを開くたびに何かしら目に入ってくるツイートだった。

――いわく、「ザワがやばい」と。

とにかく何かやばいらしいことしかわからなかったものの、ザワってなんだろう……と思いつつ家と会社を往復するだけだった私が、それが『HiGH&LOW THE WORST』の略称だと知ったのは、都住まいの友達が熱いLINEを送ってきたときだった。ような気がする。
あまりに熱い感想だったので、じゃあ観てみようかな……と検索したところ、私の住む地方ではとっくのとうに上映が終わっていた。知ってた! 地方って、そういうとこあるよね。と昔から慣れ親しんだ諦めを溶かしてどのくらい経ったときのことだったか。

退職日交渉にも疲弊して、(いつ辞められるのかなあ)とぼんやり電車に揺られながらTwitterを眺めていたときに、そのツイートは流れてきたのだった。

『HiGH&LOW THE WORST』のライビュがあるから観て!!

見知らぬ誰かの熱いツイートで知ったライブビューイングの予約開始日は、たまたま、残業は普通にしたけれど接待のない日だった。
熱い感想を送ってくれた友達とLINEしながら、まあ地方だし取れるんじゃないかな~と、気楽に映画館のHPにアクセスしてみた。のだけれども。

なんだか、妙に映画館のサイトが重い。いままでライブビューイングは何度か観たことがあるけれども、もう少しスムーズに買えていた気がする。何度リロードしても、なかなか予約購入画面まで進めない。
都住まいの友達がなぜか私と同じ映画館の申込み画面にアタックしてくれていた理由が、遅まきながらようやくわかった。

あっ、これ、ほんとうにやばいやつなんだ。

と内心ざわざわしながら、何かに突き動かされるようにチャレンジし続けて無事予約購入を済ませてからしばし。ちょっとだけ、私は怖じ気づいたのだった。すこし、冷静になったのだと思う。
この作品は私には合わないんじゃないかな、と不安になってしまったのだった。たぶん不良もの、というくらいにしか分かっていなかったし、「いわゆる不良もの」にこれまでほとんど縁がなかったこともある。
私が摂取したことのある不良っぽいものは、少女漫画もしくは接待でつれて行かれた不思議なお店でちょっとだけ嗜んだ水煙草くらいのものだった(べつに水煙草は不良ではないけれど、お店はなんだかドラマのセットのようにいかにもなわるっぽさを発揮していた)。
そんなこんなで、「もしもミソジニーがきつかったら……」とか「とにかく怖いのでは……」と、勝手に恐れていたのだった。そもそもLDHの方たちのことも、いっぱいいる方たち、という認識くらいのもので、ほとんど何も知らなかった。家のテレビが死んでいるせいで、芸能関係の知識がとんとないことがわからなさに拍車をかけていた。

ゆるふわ社畜なので、家と会社を往復していたら、あっという間にライビュの当日になった。結局何も予習もできないままでいたので、前から三列目のド正面に腰かけたあとも、(もし楽しめなかったらどうしよう)と、いじいじ考えていた。

そんな私が上映が始まって真っ先に抱いた感想は、これだった。

(あのやたらめったら地面を埋めて、ふわふわと舞って雰囲気を醸し出している紙きれは、破り捨てたテストとかプリントのなれの果てなのかな……)

などと思ううちに、コナンの映画でいうところの「これまでのあらすじ紹介パート」のようなわかりやすい説明がはじまり、(あっ、何にも知らない初心者にも優しそう……?)と安心しはじめたら、もう早かった。

なにって、『HiGH&LOW THE WORST』の衝撃に撃たれるのが。

色々ときになるところとか「裏取りしたほうがいいよ!」と思ったりしつつも、それ以上に、猛烈な勢いで押し寄せるエンタメの力になぎ倒された。

退勤できないかも、と何度か諦めそうになったけど、会社からちょっと行きにくい場所にあるけれど、頑張って映画館に行ってよかった。

まさか、こんな……こんなに……??? 雷に打たれるような衝撃って、こんな感じなの……?? というくらい、それはもう、『HiGH&LOW THE WORST』の持つパワーにぶん殴られた。びっくりした。

映画の感想はくわしくはかかないけれど、端的にまとめるとこうなるのは、だいたいみんなそうだと思う。

・抑えた色調で撮られた画面と、役者さんのお顔が持つ力がつよい
・ハイローの世界ではわるものしか刃物と銃を振るわないらしい美学がある
・登場人物の関係性が狡すぎて情緒が大変になったし、観ながら作中で描かれていないエピソードを幻覚に見そうになった(それを人は妄想と呼ぶ)
・鳳仙学園の人々がちゃんと電車で戦いに来るのえらい(好きな場面)
・きゅうりが最大の伏線

その日の私は、頑張って頑張って業務を巻いて、残業調整で2時間早く退勤するはずが、ライビュに間に合うぎりぎりの1時間半前に退勤していた。あと、ちょっと寝不足続きだった。そのせいかなんなのか、映画の後にはじまったライブ映像を観ながら、何度か気を失ってしまったような気がした。今でも、ほんとうに気を失ったのか、ちょっとよくわからないけれど。
とにもかくにも、『HiGH&LOW THE WORST』の衝撃は、そのくらい強かったのだった。

映画館を出ながら友達にLINEで「小田島……」「轟……」「すべてがずるい……?」「太陽と月……?」などとうわごとを送り続け、それを聞きつけた別の友人からは何とは言わないがいろんな画像が送られて来た。そんなこんなのあまり、ただでさえバッテリーが瀕死だったiPhoneの電池が電車の中でなくなった。帰宅してごはんを食べながらも、放心していたように思う。

ライビュの翌日の私は、なんだか強かった。

朝、出勤して上司にメールを打ち、その返事がなかなか来ないので電話をかけ、横にいる同僚に分からないように気をつけつつ、夕方の面談を取り付けた。面談で「後任が」とくり返す上司に微笑む私の脳内では、昨夜鬼のように聞きまくっていた鳳仙学園のテーマソング「Top Down」が絶えず鳴り響いていた。そうして、退職日が決まったのだった。

※EXILE THE SECOND「Top Down」とは、↓の動画で使われている曲です。
(ハイローの世界では各学校・組織ごとに、ロゴ・明確なカラー・服装とともにそれぞれのテーマソングが設定されている。何も知らない初心者にも分かりやすくてやさしい。)

面談のあと、すみやかに退職日が決まったことを人事に告げ、自席に戻ってふうと息をつき。他部署からかかってきたひどい内容の電話に、自分がいつもよりかなり強気に出てしまっていることに、ふと気づいた。

一人きりになったのをいいことに、電話を切った私はしばし、両手で顔を覆って俯いていた。

――私、今日ずっと、鳳仙学園の人たちの威を借りて、強く振る舞ってた。

私は、彼らのように拳をふるって戦えるほど強くはないのに。彼らのように、仲間のために戦えるほどまっすぐな心を持ち合わせているわけではないのに。勝手に、ものすごく勝手なことに、彼らの威を借りてめちゃくちゃ強くなったような気になってしまっていたのだった。
はずかしい、と心底思った。自分でもなんだかちょっとおかしくなっているような気はしたものの、ばかばかばか! と心底まじめに反省した。

でも、ちょっととは言わず、少なからず安堵してもいた。鳳仙学園とザワの力を借りることで、半年くらいふわふわしていた退職日がようやく決まったのだから。ひとしきり反省したのち業務に戻った私の頭の中では、相変わらず「Top Down」が元気よく鳴り響いていた。

……まあ、このときの私もさすがに、このご時世の影響もあって、決まったはずの退職日がさらに延びて延び延びになってしまうとは思ってもみなかったのだれども。

そんなあれこれを思いだすと、なんだか遠い目をしてしまう今日。
なんとなくTwitterを眺めていると、『HiGH&LOW THE WORST』の円盤が販売されるというおしらせが流れてきた。わー!!!!!!! となって、すぐさま豪華版を予約した。

あの日、勝手に虎の威ならぬ鳳仙の威を借りてしまったけれど。これは、私の勝手な思い込みでもあるのだけど。あのすべてをなぎ倒していく勢いと熱さを持つ物語の力に、確かに私は救われたのだった。

ありがとうありがとう、EXILE THE SECOND「Top Down」! 
『HiGH&LOW THE WORST』!!!

無事に退職もしたことだし、ハイローのあれこれが観られるらしいと聞いて再入会したHuluで、けれども大事にとっておいたザワのエピソード0を観てBlu-rayが届く日を待とうと思う。楽しみだな。


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