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「もう正義のヒロインなんて願い下げ!」第10話

〇お城・王の間(朝)

   国王、玉座に座っている。
   聖騎士団の司令塔・ルドルフ、ミザリーとアンナの前に立っている。

ルドルフ「先日リリーを解任したばかりだというのに、今度はソフィアナが聖騎士団から去りたいと言ってきた」

   アンナ、驚く。
   ミザリーはアンナと対照的に表情が変わらない。

ルドルフ「ミザリー、聖騎士団は一体どうなっているんだ?」
ミザリー「……」

   ミザリー、下を向いている。
   国王、静かに話し出す。

国王「ルドルフ、ミザリー、アンナ」

   ミザリー、顔を上げる。

国王「日ごろ、国民を魔獣から守ってくれていることには深く感謝している。それはこの国に住む者ならば皆同じだろう。しかし——」

   沈黙

国王「——しかし、国民から人気のあったエレナが去り、リリーが魔獣を前に逃亡した。そのリリーには元老院から解任要求が出た。その上、有望な薬草調合士のソフィアナまでも聖騎士団から去ろうとしている。ここのところ、魔獣が多く出現しているのに十分な戦闘ができていない。国民から『聖騎士団の内部はどうなっているんだ!?』と不満の声も出始めていることも事実だ」

   ルドルフ、グッと奥歯を噛んでいる。

国王「ルドルフよ、これ以上の混乱が起きぬよう、今一度管理体制の見直しを」

   ルドルフ、国王に跪いて、

ルドルフ「はっ」

   ルドルフ、ミザリー、アンナ、王の間を後にする。

〇ソフィアナの家

   外は快晴。

アンナ「ごめんください」

   ソフィアナ母、出てくる。

ソフィアナ母「はい、どちら様」

   ソフィアナ母、扉を開ける。

アンナ「あ、あの、聖騎士団のアンナと申します。こんにちは」
ソフィアナ母「ああ、こんにちは。少しお待ちくださいね」

   ソフィアナ母、ソフィアナを呼びに行く。
   ソフィアナが出てくる。

ソフィアナ「アンナ、どうしたの?」
アンナ「(泣きそうになりながら)ソフィアナぁ」
ソフィアナ「!?」

〇ソフィアナの部屋

   アンナ、出されたお茶を飲んでいる。

アンナ「ソフィアナ、聖騎士団を辞めちゃうんですか?」
ソフィアナ「……そうね」
アンナ「どうしてなんですか?」
ソフィアナ「うーん、聖騎士団ではなくて、自分のやり方で国民を守りたいって思ったの」
アンナ「自分のやり方……ですか?」
ソフィアナ「うん」

   ソフィアナはすっきりした表情をしている。

ソフィアナ「薬草調合士としての道をもっと極めたい。研究を重ねて、たくさんの人を病気や怪我から治す薬を開発したいの」

   アンナ、目線を落として、

アンナ「どうして急に考えが変わっちゃったんですか?両親に何か言われたのでしょうか?」
ソフィアナ「ううん、両親は関係ない。エレナとその友人、というのかな?今は。とにかく!エレナの友人に自分の道は自分で決めるよう諭されたの。それで目が覚めた。ああ、私のやりたいことは薬草の道だって」

   アンナ、訝しげに、

アンナ「エレナの友人……ですか?」
ソフィアナ「そう。フェデリック・ド・フーシェといってフーシェ地方の貴族よ」
アンナ「フーシェ地方ってことは」
ソフィアナ「そう。フェデリック自身も異民族よ」

   快晴だった空に厚い雲がかかり始める。

アンナ「そうなんですね」
ソフィアナ「どうやら、フェデリックがブロンズ勲章者に人事権が発動できることを伝えて、エレナがリリーを辞めさせたみたい。リリーって、自分勝手だったからね。当然の報いかなって思うけどね」
アンナ「そのフェデリックという人とエレナが……」

   ソフィアナ、雨が降り始めたことに気づく。

ソフィアナ「あら、雨が。うちから馬車を出そうか?」
アンナ「いえいえ、大丈夫です。もうすぐ迎えが参りますので」
ソフィアナ「そう」

   ソフィアナの家に馬車が到着する。

アンナ「ではソフィアナ、ごきげんよう」
ソフィアナ「またね」

   アンナ、馬車に乗り込む。
   女の声がする。

女「ご苦労様」
アンナ「はー。疲れた。こんなこと、団長がやるんじゃないの?ミザリー」

   ミザリーの姿が見える。

ミザリー「あんたの方が適任でしょ。で、どうだったの?」
アンナ「ソフィアナは聖騎士団を辞めるつもりらしいわよ。それとエレナ」
ミザリー「エレナ!?」
アンナ「ミザリーが異民族のフェデリック・ド・フーシェとつるんでるみたい」
ミザリー「異民族……」

   ミザリー、考え込む。

回想シーン
×    ×    ×
昔、瞳が紫色の異民族の男の子に助けを求められたミザリー。
×    ×    ×

ミザリー「まさかね」

〇フェデリックの邸宅(朝)

   アンナがソフィアナと接触してから3週間が経過した。

フェデリック「(嬉しそうに)エレナ!」

   エレナ、フェデリックが手紙を持っていることに気づく。

エレナ「どうしたの?とっても嬉しそう」
フェデリック「手紙が届いたんだ」
エレナ「手紙?誰から?」
フェデリック「ソフィアナだよ!」

   エレナの目が輝く。

エレナ「ソフィアナから!読みましょう。早く開けて」

   手紙を開封する。

「エレナへ
 フェデリックへ

 この間はどうもありがとう。
2人のおかげで迷いがなくなりました。
両親に初めて自分の気持ちを話し、薬草の研究に専念することを応援して もらえました。

 本当にありがとう。

 聖騎士団じゃなくなったから薬草を手に入れるのが大変だけど、色々な場所を探し、研究を重ねていつか人々の役に立てるよう頑張るね。

ソフィアナ」

エレナ「(涙ぐんで)ソフィアナ……」

フェデリック、エレナの肩に手を置く。

エレナ「ソフィアナがお父様とお母様と話せてよかった」

   エレナの目から涙があふれ出す。

エレナ「……しも……私もお父様とお母様に会いたい。会って話がしたい」

   フェデリック、エレナを抱きしめる。

エレナ「(泣きながら)お父様、お母様」

   エレナ、泣き続ける。

〇お城・司令官室(夜)

   扉の内側から男女の喘ぎ声がする。

ミザリー「今日は随分と激しいのね」
ルドルフ「ああ、ここんとこ嫌なことばっかりだからな」

   ルドルフ、激しく腰を振って、

ルドルフ「こうして女でも抱いてなきゃ、やってられねぇ」
ミザリー「ふふ。女なら誰でもいいの?」
ルドルフ「……」

   ルドルフ、タバコを吸っている。

ルドルフ「俺の元老院入りも遠のいちまったな。ったく、こっちがどんだけ賄賂を贈ったことか」
ミザリー「遠のいた?そうかしら?」
ルドルフ「どういう意味だ?」
ミザリー「元老院に空席ができれば、賄賂を受け取った連中があなたを推薦してくれるんじゃない?」

   ルドルフ、タバコを消す。

ルドルフ「つまり?」
ミザリー「賄賂を受け取っていない元老院のメンバーが1人いなくなればいいんじゃないの」

   ルドルフ、考え込んで、

ルドルフ「賄賂を贈ってない元老院……元老院の長・セナ―トゥスか!?」
ミザリー「そ♡」
ルドルフ「どうやって?」

   ミザリー、微笑んで、

ミザリー「近頃魔獣がとっても多いじゃない。魔獣が元老院を襲うよう、西に住む魔獣使いにお願いしてみましょ」
ルドルフ「魔獣使いが我々の言うことを素直に聞き入れるとは思えんが」
ミザリー「それなら大丈夫♡魔獣使いたちって元老院に恨みがあるみたい。10年前に西の辺境に追いやられたからね。それに……魔獣が現れたら騒ぎに乗じて元老院たちの装飾品が奪われても、誰もそれどころじゃないわ」

   ルドルフ、声を出して笑う。

ルドルフ「ははははは!魔獣に元老院を襲わせ、セナ―トゥスを殺す。ついでに元老院たちの高価な財宝も奪わせようって算段か」
ミザリー「そ。魔獣使いたちは、長年の恨みも晴らせるし、財宝も手に入る。一石二鳥でしょ♡」

   ルドルフ、ミザリーに激しくキスをする。

ルドルフ「そういうところが魅力的なんだよ、ミザリー様は」

(続く)


第11話↓



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