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「もう正義のヒロインなんて願い下げ!」第12話

〇元老院の議場(木曜日、議会終了間際、夕)

   ズシンと重い議場の扉が開く音。
   エレナとフェデリックが入ってくる。
   元老院たちは突然の来訪者に騒然とする。

元老院議員①「一体誰だ?」
元老院議員②「まだ議会中なのだが」

   話し声がきこえる議会。

議長「静粛に」

   まだ静まらない議会。

議長「静粛に!」

   やっと議会は静まり返った。

元老院の長・セナ―トゥス「何の用だね」

   セナ―トゥスの放つ威圧感に圧倒されるエレナとフェデリック。

エレナ「あ……えと、」
フェデリック「もうすぐこちらに魔獣の大群が襲ってきます」

   さっきよりも騒がしくなる議会。

元老院議員③「魔獣!?」
元老院議員④「そんなはずは……」

   セナ―トゥス、元老院の議員たちを見回す。
   元老院議員たち、静かになる。

セナ―トゥス「エレナ、どういうことだ」

   エレナの額から一筋の汗が流れる。

エレナ「聖騎士団の司令塔であるルドルフと同じく聖騎士団の長ミザリーが画策して元老院を襲うつもりです。皆様、速やかに避難を」

   元老院の議員たち、呆気に取られる。
   次の瞬間、笑い声が聞こえ出す。

元老院議員たち「わはははは」
       「あーはっはっはっはっはっ」

   エレナ、たじろぐ。

エレナ「なっ」

   元老院議員③、笑いを堪えながら、

元老院議員③「ルドルフとミザリーが!?そんなはずないだろう」

   元老院議員たち、笑い続ける。
   泣きそうなエレナと彼女の手を強く握るフェデリック。
   議長まで笑っている。
   セナ―トゥスはそんな議長を睨みつける。

議長「(はっとして)ゴホン、静粛に」

   元老院議員たちの笑い声がようやく止まる。

議長「国王直属の聖騎士団が我々元老院を襲うとはとても考えられない。さきほどのエレナくん発言はこの議会を汚す行為、即ち懲罰の対象となり得る行為である」

   静まり返る議会。

セナ―トゥス「エレナを聖騎士団の前団長に指名した立場として言わせて頂く。エレナは決して嘘をつき、議会を貶めようとするような人間ではない。皆、ここは私の顔を立ててエレナを信じてくれまいか」

   誰も何も答えない。

議長「分かりました。では、エレナくんの言う通り、魔獣襲撃に備えてこの議場に結界を張ることといたします」

   結界師によって強力な結界が張られる。

   1時間経過。

   3時間経過。
   元老院議員たちに疲労の色が見え始める。

   5時間経過。
   元老院議員たち、結界師たちも我慢の限界。

元老院議員③「いい加減にしてくれ!」

   元老院議員③、激しく怒り出す。
   他の議員も同調して怒り出す。

元老院議員たち「そうだ」
       「いつになっても魔獣なんか来ないではないか」
       「いい加減にしてくれ」

   エレナ、焦る。

セナ―トゥス「エレナ、この神聖な議会で我々を欺いたのか」

   エレナは顔を上げることができない。

フェデリック「そのようなことはございません」
      「我々は確かに魔獣がここを襲うと耳にしたのです」

   セナ―トゥス、ため息をつく。

セナ―トゥス「もう結界を解いてよい。皆も帰路に就くがよい」

   元老院議員たち、結界師たち、エレナとフェデリックを睨みながら議場を退出する。

   広い議場。
   セナ―トゥス、エレナ、フェデリックが無言で立っている。

   セナ―トゥスが退出した。
   重い扉の閉まる音がする。
   絶望した表情のエレナ。

フェデリック「お待ちください」

   フェデリック、セナ―トゥスを追いかけて議場から出る。

   エレナ、フェデリックを置いて一人歩き出す。

〇元老院の議場へと続く暗い道(金曜日、夕)

   ルドルフとミザリー、それに魔獣使いがいる。
   3人は円をつくるように向かい合って立っている。
   ルドルフ、魔獣使いに向かって、

ルドルフ「では楽しんできたまえ」
ミザリー「元老院たちのもの、何でも奪い放題よ♡」
魔獣使い「……」

   魔獣使い、議場へとゆっくり歩き出す。

ルドルフ「待て。ゆめゆめ忘れるな。元老院たちから昨日の記憶を消すことを」

   魔獣使い、振り向いて、

魔獣使い「分かっているとも。人間の記憶が大好物の魔獣もいるんでね。セナ―トゥス以外は生かし、昨日の記憶を消す。それが我々の同盟だ」
   
 魔獣使い、再びゆっくり歩き出す。

ミザリー「回りくどいことしないで、全員殺せばいいのに」
ルドルフ「愚かだな。そんなことしたら、今まで賄賂を贈り続けた苦労が水の泡だろう。それに邪魔なのはセナ―トゥスだけだ。無駄な殺生はお断りだよ」
ミザリー「ふぅん、優しいのね」

〇元老院の議場(金曜日、議会終了間際、夕)

   ゴゴ、ゴゴゴゴゴゴゴ

   地響きが聞こえる。
   議場の天井が崩れる。
   元老院議員たち、パニックになる。

元老院議員たち「何事だ!?」
       「天井が……!」
       「早く、早く逃げるんだ」

   魔獣使いが上から元老院議員たちを見下ろしている。

魔獣使い「逃がさないよ」

   魔獣、元老院議員たちを襲う。
   元老院議員たちの悲鳴が聞こえてくる。

魔獣使い「おおっと、そうだ。記憶を奪うんだった」

   魔獣使い、魔獣に特殊言語で指示を出す。
   魔獣、口からピンク色のモヤモヤした煙を出し、それが充満する。

元老院議員たち「こ……れは」
       「うっ、くっ」

   元老院議員たち、眠りに就く。

魔獣使い「さてさて、セナ―トゥスは……。おっ」

   魔獣使い、セナ―トゥスを見つける。

セナ―トゥス「くっ」

   魔獣、セナ―トゥスに向けて、大きな口を開ける。

セナ―トゥス「ここまでか……」

   ビュンッ
   突然、魔獣に向かって矢が飛んでくる。

魔獣「(苦しそうに)アガガガガガガガ」
セナ―トゥス「???」

   ベールに身を包んだ謎の男が立っている。

謎の男「こちらです。早くお逃げください!」

   セナ―トゥス、謎の男と共に逃げ出すことに成功。

魔獣使い「クソッ。……まあいい、ゆっくりこいつらの金品を奪うとしよう」

   魔獣使い、元老院議員たちの装飾品や金を奪う。

   遅れてルドルフとミザリーが登場。

ルドルフ「(怒りながら)何をしている!!!セナ―トゥスは殺したのか!?」

   セナ―トゥスを殺した形跡はない。

魔獣使い「ベールに身を包んだ男と逃げた。こっちは、あんな男が現れるなんて聞いてないんでね。あんな男を倒すのも追うのも契約の範囲外だ」
ルドルフ「ふざけるな!!!」

   魔獣使い、契約書を出して、

魔獣使い「ふざけるな?こっちの台詞だ。いいか?こっちは契約通り、議会の最中にこいつらを襲い、丁寧に記憶まで消してやった。それにセナ―トゥスを殺せとは言われたが、追えとは言われていない。殺してもらいたいんなら、今すぐセナ―トゥスを連れてこい」

   ルドルフ、悔しそうに奥歯を噛む。

ミザリー「謎の男って?どんな奴だったの?」
魔獣使い「さあね。ベールに身を包んでちゃあ、分かりゃしない。魔獣に矢を放って、眼を傷つけやがった。大事な商売道具を傷つけられたんだ。あんたらに賠償してもらいたいもんだね」

   ミザリー、考え込んで、

ミザリー「矢か……」

〇街(夜)

   謎の男がセナ―トゥスに肩をかしながら逃げている。

セナ―トゥス「礼を言う」
      「フェデリック・ド・フーシェ」

   謎の男、ベールを取る。

フェデリック「ご無事で何よりでございます」

回想シーン
×    ×    ×
   昨日、セナ―トゥスを追いかけて議場から出たフェデリック。

フェデリック「お待ちください」

   セナ―トゥス、足を止める。

フェデリック「ルドルフとミザリーが、元老院議会の場を襲おうとしていることは確かです。しかし、エレナが言ったように今日ではないのかもしれません」
セナ―トゥス「……」
フェデリック「エレナは罠にかけられたのです」

   セナ―トゥス、フェデリックの方を向く。

フェデリック「魔獣が元老院議会を襲うのは明日かと」
×    ×    ×

セナ―トゥス「フェデリックよ、きみの言った通りだな」

   人通りのない通りをゆっくり歩くフェデリックとセナ―トゥス。
   空は厚い雲で覆われている。

フェデリック「これからどうなさるおつもりですか」
セナ―トゥス「あいつらの悪事を議会で暴くつもりだ」
      「でもその前に」
フェデリック「その前に?」

   一呼吸置いて、

セナ―トゥス「エレナくんに謝らないとな」

   フェデリック、微笑む。
   さっきまで厚い雲に覆われていた空には少しずつ月が見えてきた。

フェデリック「参りましょう。エレナの元へ」

   優しい月明かりが道を照らしている。

(続く)


第13話↓



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