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「もう正義のヒロインなんて願い下げ!」第9話

〇お城・ミザリーの部屋(夜)

   リリーの泣き声を聞くソフィアナ。
   ソフィアナ、無言のまま立ち去る。

   数日が経った。

〇薬草研究室(朝)

   ソフィアナ、薬草を調合している。
   女が近づいてくる。

女「ソフィアナ」

   ソフィアナ、調合に集中している。

女「ソフィアナ」

   ソフィアナ、調合し続けている。

女「ソフィアナってば!」

   ソフィアナ、ようやく気づいて顔を上げる。

ソフィアナ「ああ、ごめん。何?」
女「リリー様、聖騎士団を解任されたんでしょ!?」
ソフィアナ「……ああ、うん」

   ソフィアナ、目線を落とす。

女「何があったの?」
ソフィアナ「何がって……。私もよく分からない。元老院の命令には従うしかないから」

回想シーン
×    ×    ×
ミザリーに対して大声で泣き叫ぶリリー
×    ×    ×

ソフィアナM「ミザリーが?」

   女、鼻でため息をつく。

女「エレナ様が去ったり、リリー様が解任されたり、聖騎士団も大変なんだねぇ」

   女、立ち去る。
   ソフィアナ、立ち上がって、

ソフィアナ「……よし」

   ソフィアナ、どこかへ向かおうと歩き出す。

〇フェデリックの邸宅

ソフィアナ「ごめんください」
メイド「はい。どちら様でしょうか?」
ソフィアナ「私、エレナさんの友人のソフィアナと申します。エレナさんがこちらにいると伺いまして」
メイド「はい。呼びに行って参りますので、少しお待ちくださいませ」

   メイド、エレナを呼びに行く。
   エレナとフェデリックが出てくる。

エレナ「ソフィアナ!?」
ソフィアナ「エレナ」

   ソフィアナ、フェデリックに向かって軽くお辞儀をする。

〇フェデリックの邸宅・中庭

エレナ「今日はどうしたの?」
ソフィアナ「(戸惑いながら)あの、その……リリーのことで」

   フェデリックの眉毛がピクッと軽く動く。

ソフィアナ「リリーが聖騎士団を解任されたようなんだけど、何か知ってるかと思って」

   エレナとフェデリック、互いに顔を見合わせる。
   エレナ、これまでのことをソフィアナへ話す。

ソフィアナ「そんなことがあったのね。リリー…」

回想シーン
×    ×    ×
リリー「なんてことを言うの!?ミザリーだけズルいわ。私だって戦いたいわけじゃないし」
×    ×    ×

   ソフィアナ、ため息をつく。

エレナ「ソフィアナはどうしたい?」
ソフィアナ「え?」
エレナ「このまま聖騎士団の一員でい続けたい?」
ソフィアナ「……」

   沈黙を挟む。

ソフィアナ「……らない」
エレナ「え?」
ソフィアナ「分からないの。自分がどうしたいのか、分からない」

   フェデリック、ソフィアナを見つめる。

ソフィアナ「前にも話したでしょ。私が自分の意思で聖騎士団に入ったわけじゃないって。ただ、両親が望んだからそうしたの。それに、聖騎士団に入ると珍しい薬草も融通してもらえるし。エレナみたいに人助けをしたいっていう立派な目的があるわけじゃない。私も結局、リリーと同じなのよ…」
エレナ「ソフィアナ……」

   フェデリックが切り出す。

フェデリック「ソフィアナさん」
ソフィアナ「何ですか」

   フェデリック、自分の瞳を見せる。
   フェデリックの瞳が少しずつ紫に変色する。

フェデリック「自分は数十年前、この国を侵略しようと、ここフーシェ地方に侵入した異民族の子孫です。当時の族長は、自分の祖父のです。」
ソフィアナ「あ……」

   フェデリック、決意した表情で、

フェデリック「自分は祖父とは違う。この国を侵略しようとなんて微塵も考えていない。ただ、皆と仲良く暮らしていきたい。だから……自分たちを嫌う人はいるけれど、エレナのように信頼してくれる人もいるから、自分も一緒にこの国を良くしたいんです」

   フェデリック、ソフィアナに微笑んで、

フェデリック「自分の意思に従いませんか。親は親、ソフィアナさんはソフィアナさんです」

   ソフィアナ、涙を浮かべる。
   エレナ、ソフィアナの手をそっと握る。

ソフィアナ「そうよね。ありがとう」

   急にけたたましい音が鳴る。

音「緊急速報、緊急速報、中心部に魔獣が出た模様。住民はただちに避難してください」

   3人とも緊迫した表情。

ソフィアナ「行かなくちゃ!」
フェデリック「待ってください。1人では危ないですよ」
ソフィアナ「いいえ、行くわ。私は聖騎士団だもの。国民を守る義務がある。それに、後からミザリーとアンナも来るはずだから」

   ソフィアナ、中心部へ向かう。

エレナ「私たちも行こう」

   エレナ・フェデリック、ソフィアナより後に中心部へ向かう。

〇フーシェ地方中心部

   建物が壊され、人々が倒れている。

人々「うぅ……痛い」
  「誰か……たす……け」

   あちこちに怪我をしている人がいる。

ソフィアナ「ひどい状況ね」

   ソフィアナ、魔獣を見つける。

魔獣「グギギギギ」

   ミザリー、アンナが到着。

ソフィアナ「ミザリー!アンナ!」
ミザリー「はぁ、随分と派手に暴れたわね」
アンナ「人がこんなに倒れています」
ミザリー「まぁいいわ。アンナは怪我人の救護をお願い。ソフィアナ、あいつを左右から挟んで斬るわよ」
ソフィアナ「はい」

   アンナ、怪我人の救護へ。
   ミザリー・ソフィアナ、戦闘へ。

ミザリー・ソフィアナ「はああああああ」

   ミザリー・ソフィアナ、魔獣を斬る。
   魔獣、ドスンと倒れる。

ミザリー「やったわ」

   ソフィアナ、魔獣を見て、

ソフィアナ「まだ。まだ灰になっていない」
ミザリー「は?」
ソフィアナ「まだ灰になっていないということは、まだ生きています。とどめを刺さないと」

   ミザリー、とても面倒くさい顔をする。

ミザリー「そんなことないわよ。確実に仕留めた。死んでも灰にならないタイプの魔獣なんでしょ」

   ミザリー、アンナに向かって、

ミザリー「アンナ!もういいわ。帰りましょ」
ソフィアナ「え、でも……」

   ミザリー、イライラしながら、

ミザリー「ソフィアナが帰らないなら、先に帰るから」

   ミザリー、アンナと一緒に帰ってしまう。

   魔獣が少しずつ動き出した。

魔獣「グ……ギ、ギ、ギ、ギ、グァー」

   人々、再びパニック。

ソフィアナ「やっぱり」

   魔獣、ソフィアナに襲いかかる。
   ソフィアナ、目をつぶる。

ソフィアナ「駄目だ。1人で戦えるわけない」

   魔獣の鋭い爪がソフィアナに触れそうになる瞬間、

エレナ「ソフィアナ!!!」

   後ろでエレナが魔獣を弱体化している。

ソフィアナ「エレナ!?」
エレナ「早く!私がこいつを弱体化するから、早く斬って!」

   ソフィアナ、戸惑う。

ソフィアナ「無理だよ。いくら弱体化してるって言っても、1人で魔獣を斬れるはずない」

   エレナ、踏ん張っている。

エレナ「早く!」

   弓が魔獣めがけて飛び、魔獣に刺さる。

魔獣「グ、グギャー」

   ソフィアナ、振り向く。
   フェデリックが弓矢で攻撃している。

フェデリック「一緒に戦おう!」

   ソフィアナ、ようやく剣を握る。

ソフィアナ「はあああああ」

   ソフィアナ、魔獣を斬る。
   魔獣は今度こそ灰になった。

人々「ありがとう!聖騎士団様!フェデリック様!」

   ソフィアナ、満足げな表情。

エレナ「皆を守れてよかったでしょ。ソフィアナはリリーと同じじゃないよ」
ソフィアナ「エレナ……」

〇薬草研究室(夜)

ソフィアナ「ここまで送ってくれて、ありがとう」
フェデリック「お安い御用です」

   ソフィアナ、フェデリックの瓶を手渡す。

フェデリック「これは?」
ソフィアナ「これは強力な作用の目薬です。1滴させば、1年は瞳の色が変わりません」
フェデリック「こんな貴重なものを」
ソフィアナ「今日のお礼です」
フェデリック「ありがとう。でも僕には必要ありません」

   フェデリック、目薬を返す。

フェデリック「僕には、自分が大嫌いだった瞳の色を美しいと言ってくれる人がいるから。だから必要ありません」
エレナ「(小声で)フェデリック……」

   ソフィアナ、優しく微笑む。

ソフィアナ「そうですか」

   ソフィアナとの別れ際

ソフィアナ「エレナ、色々とありがとう。フェデリックさんも、ありがとうございました。」
エレナ「ソフィアナ」
ソフィアナ「私、自分の好きな薬草の道に進みたい。聖騎士団を辞めて、薬草の研究や調合に専念したい」
フェデリック「ソフィアナさん……」

   ソフィアナ、エレナの手を握る。

ソフィアナ「ちょっと怖いけれど、両親を説得してみます」

   エレナ・フェデリック、馬車に乗り込む。
   ソフィアナ、エレナとフェデリックを見送る。
   馬車が走り出す。

ソフィアナ「(大声で)本当にありがとう!結婚式には呼んでよね!」
エレナ「えっ!?結婚!?」

   エレナ、フェデリックを見る。
   フェデリック、表情が変わらない。

エレナ「ソフィアナつたら、何言ってるのかしら。非現実的ね」
フェデリック「非現実的そうかな?もうすぐ現実になるんじゃない?」
エレナ「…………え?」

(続く)


第10話↓



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