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要約 『採用基準』 伊賀泰代

誤解されるマッキンゼーの採用基準

人気の就職先候補として名が上がるようになったマッキンゼーではあるけれども、その採用基準としてのいくつかの項目については、マッキンゼーと就職希望者の間に認識に大きな乖離がある。

就職希望者の認識によれば我々の求める人材とは、「地頭が良く」「分析力があり」「優等生であり」「優秀な日本人」であるらしい。しかしこれは誤解である。

もちろん「地頭」や「分析力」が致命的に悪い人は採用に至らないかもしれない。しかしそれは必須の要件では無い。
マッキンゼーのようなコンサルティング企業は、企業経営者向けのサービスを行う。そこでの仕事を大別するならば、「課題の相談を受ける」「課題の解決方法を見つける」「課題を解決する」だ。ここで上記のような能力が役に立つのは、「課題の解決方法を見つける」主に時だけだろう。地頭が良くても相談相手としての適格性に欠けるような人を、我々は求めていない

なんでもそつなくこなす「優等生」であるということも、我々にとっての重要な採用基準では無い。
マッキンゼーで評価されるのは「スパイク型人材」と呼ばれる人たちだ。彼らは、ある一点に置いて卓越した能力を持っているような人材である。多少全体的な能力のバランスが悪くても、現場における難局を解決できるのは彼らのようなスパイク型の人材だと、我々は考えている。

このように、マッキンゼーが求める人材については多くの誤解がある。

もしマッキンゼーの採用基準を一言でまとめるとしたら、それは「グローバルリーダーとして活躍できる資質を持っているか」という点である。

リーダーシップについて

理解すべきなのは、問題を解決するために必要なものは「問題解決スキル」というよりはむしろ、「リーダーシップ」であるということだ。

例えば近隣のゴミ屋敷を綺麗にするにはどうしたらいいかと言えばゴミを片付ければ良いだけであるし、いじめを無くすにはどうすれば良いかと言えばいじめの原因を取り除けば良いだけである。
しかしこれらの解決方法を実行するには、それを実行する行動力が必要である。また行動するに当たっては、他者を巻き込み多くの協力を得る必要もある。

その意味で、単なる「問題解決スキル」よりも「自ら率先して行動し他者の協力を得て問題を解決するリーダーシップ」の方が重要なのだ。

日本ではリーダーシップはリーダーのみが持つべき能力だと認識されているが、私見ではこれは誤りである。リーダーシップは、チーム全員が持つことが望ましい能力だ
リーダーが命令を下しメンバーがそれを実行する、という上意下達のチームでは高い成果を出しにくい。
メンバー全員が個々に状況を判断し処理する能力、リーダーシップを持っていれば、前者のチームよりもより高いパフォーマンスを発揮できるだろう。

リーダーに求められる人格

リーダーとは和を尊ぶ人ではなく成果を出してくれる人だ、と誰もが実は理解しているはずだ。

例えばあなたが乗っている船が難破し、用意されたいくつかの救命ボートに乗り込むような状況を想像してほしい。それぞれの船には既に一人の漕ぎ手が乗船している。これがリーダーだ。我々はこの時、漕ぎ手の人格を判断して乗り込むボートを決めるだろう。あなたはそこで、「楽しい時間を提供してくれる」ような漕ぎ手や「人の和を重んじる漕ぎ手」を選ぶだろうか。選ばないだろう。選ぶのは、「少しでも高い確率でこの危機的状況を抜け出せそう」な漕ぎ手であるはずだ。

ただしこの例は全ての状況に当てはまるものでは無い。ここでは「生命の危機」という全ての人にとって最優先の課題があり、それが全員に共有されるという前提がある。
通常の仕事であれば、どうだろう。例えばメンバーのうち、プロジェクトの成功をそれほど強く望まない人がいたとしたら、「成果を出してくれるリーダー」よりも、「和を尊ぶリーダー」を望むこともあるかもしれない。

従って、リーダーに必要な本質的な能力は「成果を達成する」という力であるが、それは「成果を共有できる人とチームが組まれている」という前提の上に成り立っている。その意味でも、前述した「メンバー全員がリーダー意識を持つ」ということが重要になってくる。

リーダーがなすべき4つのタスク

1. 目標を掲げる

リーダーに必要な能力として成果達成力があるということは既に述べたが、成果の達成のためには、当然、成果目標がなければならない。まずリーダーはこの目標を掲げる必要がある。そしてそれは、メンバーが共有可能でメンバーを鼓舞するものでなければならない。

目標には魅力が無ければならない。「とにかく売り上げを上げる」という終わりの無い目標では、社員の士気は上がらないだろう。しかし「この技術で世の中を変える」「この業界のトップ3になる」などの明確かつリターンの大きい目標であれば、社員のモチベーションも上がる。

2. 自ら先頭を走る

問題は常に最初に起こる。故に先頭に立つということは、様々な点において不利である。しかしそれでも最初の一人になり、先頭に立つことを厭わない姿勢がリーダーには求められる

先頭を走ることは負担が大きい。マラソンならば先頭走者は風を受ける盾となるため物理的に不利になるし、プレゼンの一番目であれば機器の不備が起こり得るなどの点で二番目以降の話者よりも不利になる。そんなポジションを進んで引き受けるリーダがいれば、メンバーは安心してその後を走ることができる。

3. 自ら決定する

リーダーとは、たとえ十分な情報が揃っていなくても検討が足りていなくても、決めるべき時に決めることができる人である。

当然、情報が完全に揃っていない段階で決断をすることはリスクを伴う。しかし、未来のことに関して十分な情報が揃うことなどあり得ない。さらに言えば、仮に十分な情報が揃っているならリーダー出なくても決断はできる
リーダーの役割は、「情報も時間も不十分な中で決断をすること」である。

4. 言葉で伝える

リーダーは、言葉の持つ重要な力を行使し、言葉によって人を動かす力を持たなければならない。

説明責任を果たすこと、異なる価値観を持つメンバーをまとめること、など言葉でできることはとても多い。時としてチームは、時間、金銭、モチベーションのどれもが尽きかけているような状況に陥る。このような状況を覆すことができるのもまた、リーダーの言葉だ。物資が無い状況で使えるコストのかからない武器、それが言葉だ。

マッキンゼー流のリーダー

マッキンゼーのコンサルタントは、しばしば「バリューを出す」をいう言葉を用いる。これは、「何らかの成果(付加価値)を生み出す」という言葉だ。会議で有益な発言をすればバリューを出したことになるし、画期的な洞察を行うことができればそれもまたバリューを出したことなる。

マッキンゼーでは最も恥ずべきこととして、「バリュー0」ということがある。会議で発言をしなかった者、二時間資料を読んで◯◯についてよく分かった程度の成果しか得られなかった者、これらは全てバリュー0に該当する。

またマッキンゼー的な概念でもう一つよく使われるのが、「ポジションをとる」ということだ。これは、「あなたの意見は何か」「あなたならばどう決断するのか」という意味の言葉だ。マッキンゼーでは、常に全ての社員が自分の立ち位置をはっきりさせ、自分の意見を述べることが求められる

できるようになる前にやる

マッキンゼーでは、これらのようなリーダーシップは入社一年目から全てのコンサルタントに求められる。もちろん最初から全てを上手くこなすことなど出来ないだろう。しかし我々はやり方は、「リーダーシップは今すぐ発揮してください。出来ない部分については、次回からどう改善すれば良いかを学びましょう」というものなのだ。

最初から全てを求められる以上、年上のコンサルタントとの能力の差、また年下のコンサルタントであっても自分より優れた人物との能力の差を感じることが多々ある。これは悔しい思いを伴う辛いことだ。けれどもだからこそ、彼我のスキル差、経験値の差を強烈に意識して、向上を図ることができるのだ。
「できるようになるまで先輩の後ろで先輩のやることを見ている」という方法では、こうした悔しさを感じることは無いだろう。


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