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ねこだけど、カスタム絵文字をわかりたかった

みなさんお疲れ様です。いかがお過ごしでしょうか。
インターネット最高!それはなにより。

さて、前回に引き続きMisskeyの話をしていく。

Misskeyには「カスタム絵文字」というものがある。
カスタム絵文字は、カスタム絵文字として登録されている画像を本文中で絵文字として利用したり、リアクションボタンなどとして使用することができる機能である。
カスタム絵文字を簡単に作成できるwebサービスなどもあり、サーバーによっては12,000種類以上のカスタム絵文字がある。
▼カスタム絵文字についての公式サイトの説明。

Misskeyの多くのサーバーは、個人や団体により運営されている。その運営資金はFANBOXやCi-en、Patreonなどのパトロンサービスを通じたユーザーからの支援や寄付により運営されているといったところも少なくない。
(管理人が自費で費用を捻出して運営しているサーバーなどもある。偉業すぎる。)
私がMisskeyに興味を持った当時、Misskey.ioは急激なユーザー数の増加により一時新規登録を中止していたが、道民を応援したい気持ちでいつ登録できるともしれないMisskey.ioの支援した。
(幸い支援を開始したその日のうちに登録できた。)

そして、その支援の特典に「カスタム絵文字の申請権」があったのだ。

私はイラレでポスターやフライヤーを作ったり、文字のはんこを彫ることも好きだったので、せっかくの特典だし何か私も作って申請してみようと思い、制作に取り掛かった。
これは「申請権」だから、クオリティが低ければ採用されないだろう、せっかく特典なんだから使わないともったいないよねという軽い気持ちで。
今ならよくわかるが、カスタム絵文字はあまり軽い気持ちで作らない方がいいと思う。

うちのこ(キタキツネのまことちゃん)の画像は省略。

そうしてフォロワーさんの「お前が作れ」という後押しもあって、絵文字は完成し、申請後程なくしてMisskey.ioに実装された。
それが「うちのこかわいい」「よそのこかわいい」「ねこだからわかんにゃい」「ねこだけどわかった!」である。

この時はまだこの絵文字によって様々なことが起きることをわかっていなかった。
(あたまが)ねこなので。

せっかくなので、制作意図を解説する。
【うちのこかわいい・よそのこかわいい】
MisskeyにはVRchatで遊んでいる方や創作キャラクターをアイコンにしている方が多い印象を受けたため「うちのこかわいい」「よそのこかわいい」の絵文字があったら「うちよそ」交流がより盛り上がるのでは?と考え制作。
なお、実際には「うちのこかわいい」は投稿で使用していただくことを目にする多いが、「よそのこかわいい」はあまり使われてない。「よそ」という表現が冷たい印象を受けるらしい。
この意見を受けて、派生系として「このこかわいい」「ぜんぶかわいい」も作成した。

【ねこだからわかんにゃい】
私のサークル名「なないろLab.」が「nyaize(猫化)」機能により投稿文で「にゃにゃいろLab.」になってしまい、イベント出店などの活動を現在では行なっていないことも相まって「(人間だった頃のことは)ねこだからわかんにゃい」というニュアンスで作成。
Instagramなどでかわいい女の子たちが猫耳をつけて「ねこだからわかんない」と投稿しているのを見て、このワードを気に入っていたことも作成したきっかけの1つではある。

【ねこだけどわかった!】
「うちのこ」「よそのこ」のように「ねこだからわかんにゃい」とペアで使える絵文字を作ろうと思い制作。
猫の知能は人間の3歳くらいと言われていることから、ねこ≒3歳にもわかるというような意味合いも含んでいる。
後から気がついたので真偽の程は定かではないが、どうやら「ねこだからわかんない(にゃい)」という言葉はわりとネット上で使われているものの、私がその対義語として作成した「ねこだけどわかった!」は一般的に使われていなかった……?私の語彙ってことにしていい?だめ?
(とはいえありふれた日本語なので、やはりn番煎じかもしれない。)

「うちのこかわいい」はよくTwitterなどでもよく使われている言葉なので、たくさん使ってもらえるだろうと思っていた。
実際にMisskey.ioだけでなく、多くのサーバーで利用していただいている。
インポートしてくださった管理人の方並びに絵文字管理担当者の方、ご利用いただいている各サーバーのユーザーの皆様、いつもありがとうございます。

しかし、今やこの「ねこだから・ねこだけど」の方がなんというか、すごく、私の予想を遥かに超えてMisskeyで流行ってしまったようだ。
私のことは知らないが、この絵文字は見たことがあるという人はおそらく何万人……いやもしかすると、何十万人かいるかもしれない。
なんせ今や、開発者のsyuiloさんやMisskey.ioの管理人村上さんが技術的な投稿をすると「ねこだからわかんにゃい」や「ねこだけどわかった!」がリアクション欄に並ぶことも少なくないからだ。嫌でも目に入る。
(※MisskeyはワードミュートやカスタムCSSという機能で見たくない絵文字だけを可能な限り視界から消し去れるので、本当に投稿やリアクションで見たくない・嫌だという方は、己または偉人の技術を駆使して目に入らないようにしてください。)

また、blobcatやblobmeowといった(Misskeyではにゃんぷっぷーの愛称で親しまれている)黄色いねこちゃんの絵文字と組み合わせて使っていただいている様子も目にする。かわいい。癒される。
▼黄色くてまるくてかわいいものはかわいいとされている。

なんとファンアートなどに取り入れてくださった方などもいらっしゃる。
(本当にありがとうございます。)

じわじわと使ってくださる方が増える中で、この絵文字が見づらい・可読性が低いという意見も目にするようになった。
なにせ私はこれまでポスターやフライヤーといったそこそこの大きさの印刷物は作っても、このカスタム絵文字のように256×256pix72dpiみたいな小さい画像は全然作ってこなかった。
自分が経験の浅い分野にも関わらず、なんとなくで手を出したばっかりに大変なことになってしまった……どうしよう……と徐々に思い悩み始めた。
その上、Misskeyの開発に携わる方が投稿した仕事の実績に関するノートのスタッフ一覧に、よく知った名前を見つけてしまったんだ。
瞬間、こんなに可読性が低いとユーザーが不便を感じていることを知りながら、それを直さない自分を私は許せる?許せないんだよな……とカスタム絵文字と向き合うことにした。
つまり、私が絵文字の可読性の向上に取り組み始めたのは、出来のよくないものを作ってしまったことを知られたくないというあまり褒められたものではない動機である。

まず、Misskeyの機能には「アンテナ」という、指定したワードを含む投稿を収集する機能がある。このワードにはカスタム絵文字も適用できるため、作成した絵文字でアンテナを立てた。
想定外にあちこちで使用していただいていたので、4カ所(※現在は減らして3カ所)のサーバーに同じ内容のアンテナを立てた。
複数カ所に同じ内容のアンテナを立てている理由は、分散型の都合上、ある投稿がAサーバーでは拾えないが、Bサーバーでは拾えるということがあるためだ。

そうして私が作った絵文字を利用してくださる方が、どのように使ってくださっているのかを観測した。
その結果、可読性の低さをMisskeyの機能で補うために、MFMを活用して絵文字を大きく表示して利用している方もいらっしゃることがわかった。こんな手間をかけてしまうものを作ってしまい申し訳ないと思う気持ちもあったが、手間をかけてでも使いたい方がいるという事実に励まされた。

様々な意見を読み、最終的に4つの差し替え案を作成し、アンケートを実施した。

可読性の問題以外にも、「わかんにゃい」と「わかった」が区別し辛いという意見もあった。

多くの方に拡散や投票などのご協力いただき、364票中205票を集めたA案でMisskey.ioに差し替え申請をし、差し替えていただくことができた。
(なお、他のサーバーでは新しいものを使用しているところもあれば、最初に作ったものを使用しているところもある。作ったものがカスタム絵文字として登録され様々な所で使用していただけるというのは、そういうものなのである。)

また、多くのmastodonサーバーは正方形の絵文字しか利用できないが、Missekeyサーバーでは横に長い絵文字も利用できるため、不等幅バージョンも作成した。

上が最初に作ったバージョン。いくつかのサーバーで利用されている。
下が現在Misskey.ioやBackspaceKeyで利用されているバージョン。
より見やすく、そしてかわいいを目標に作成。
絵文字のサイズではほとんど見えないが、ちょっとした遊び心で猫のシルエットを入れてみた。
たまに気がついた方が驚きのノートをしていて嬉しい。

現在では、独自のデザインの「ねこだからわかんにゃい」「ねこだけどわかった!」を採用しているサーバーや、「いぬだからわかんない」「いぬだけどわかった!」といった派生系の絵文字を作っている方など、「〇〇だから/〇〇だけど」は気が付けば様々なバリエーションが作られていた。

まさか軽い気持ちで作ったものがここまで広まるとは思っていなかったので、未だに受け止めきれない部分があるが、とても嬉しい気持ちである。

一方で、複雑な気持ちになることもあった。

「ねこだからわかんにゃい」のリアクションが、相手との対話を拒否してるようにも見える場面で使われているように思われるからだ。
Misskeyはオープンソースのソフトウエアで誰でも開発に参加することができる。そのため、コミュニティにはエンジニアが多い印象である。
しかし、Twitterが不安定な状況が続く中で、こういった技術に明るくないユーザーが多く流入したと思われる。(私もその1人である。)
このためか、先ほども書いた通り、サーバー管理者や運営スタッフ、またMisskeyの開発者の技術的な投稿に対して「ねこだからわかんにゃい」のリアクションが多くつくことがある。
これらの傾向ゆえか、この絵文字が嫌いだというノートも拝見したし、「リアクションしない方がいい」というような内容のノートを拝見した。

言いたいのは「こういうことを書かれると悲しいですぴえん」ということではない。人それぞれ価値観があるのだから、なにが好きでも、なにが嫌いでも自由である。
言いたいことは「私は、誰かを嫌な気持ちにさせたくてこれらの絵文字を作ったわけではない」ということだ。

不等幅の「ねこだからわかんにゃい」と「ねこだからわかった!」は「ZEN 丸ゴシック」で作成している。このフォントを選んだ理由の一つは、説明文に「やわらかくて優しいコミュニケーションにご活用いただければと思います。」書いてあることが気に入ったからだ。
優しいコミュニケーションに利用してほしくて作ったが、なかなかうまくはいかない。
作者がもやもやするような使い方はダメと言えばいいのでは?と思う方もいるかもしれないが、この絵文字についてはCC01.0で公開している。
(※そもそもこのライセンスについても単純な文字からなる絵文字はパブリックドメインではないかという意見や、いや美術的価値があるとみなされれば著作物だとか様々議論が飛び交っている。なやましいはなし……。)
また、もしも作ったものについて(私に何らかの権利が発生するものであって)私が持ちうる権利をなるべく放棄しようとしていなかったとしても、受け取る側の感性によるライン引きの曖昧なものに対して、いいとかダメとか言うことは難しいことだとも思う。

私にできることは、ただただ毎日アンテナを眺めて絵文字の行く末を見守るのみである。
考え込む時間は日に日に長くなり、一般にエゴサはやめた方がよいと言われている理由がよくわかった。
これが嫌だという人は目に付くのに、好きだと言ってくれる人は見えづらいということも。(でも好きだと言ってくれたノートもたくさん見ました。ありがとうございます。)
Misskeyを知ったときは「絵文字があるからなんだっていうんだ」とさえ思っていたのに、すっかり絵文字を巡って一喜一憂するようになった。

現在(11月30日)Misskeyには400以上のサーバーがあり、総ユーザーは60万人以上いるのだそうだ。
▼以下からサーバー一覧を見ることができる。

これらのサーバーは、利用したいと思えば私の作った絵文字を自由に複製し利用することができる。
(Misskeyには他のサーバーから絵文字をインポートする機能がある。本当にたくさんの様々な便利な機能があるのだ。syuiloさんをはじめとして開発に関わっている皆様は本当にすごい。暖かくして栄養のあるものを食べてどうか健康で長生きしてほしい。)
全ての人に受け入れられるものを作ることは難しいことはわかっているつもりであったが、それでも嫌悪感を示されると申し訳なさが募る。
一方で、一度インターネットに公開したものはもう止まらないだろう。
絵文字制作は、私に更なるものづくりの楽しさと難しさを教えてくれた。
作った絵文字がきっかけで関わりを持てた方々もたくさんいらっしゃる。
願わくば、どうかこの先もこの絵文字をとりまく世界が「やさしいせかい」でありますよう。

これはBackspaceKeyにある私が作った絵文字。
それにしたって、気がついたらたくさん作っていたな……
どうしてこんなことになったって?それはまた別の機会に。

※蛇足
私が絵文字のエゴサ用に立てているアンテナの名前は「1000年」であるが、これはいよわ氏の楽曲「1000年生きてる」をオマージュして付けたものである。
きっともうこれだけ多くの方が使ってくださっているのなら、これだけ多くの場所に複製されているのなら、いつか私が死んでも作った絵文字だけは残るだろう。
どうかこの先も「優しいコミュニケーションに利用してほしい」という私の気持ちは、1000年生きてほしいから。

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さて、明日は12月1日ということで、いよいよ待ちに待ったアドベントカレンダーシーズンに突入する。
これから毎日たくさんの記事が読めるだろうと今からわくわくだ。
え?なんでこの時期に記事を書いておきながら、どこのアドベントカレンダーにも参加表明しなかったんだって?
それはその、えぇっと……また今度!


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