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とある彼女の話

気がついたら四角い空を見ていた。
鳴いた。

無性に寂しくて悲しくて。
温かな温もりを思って鳴いた。

しばらく鳴き続けて 
疲れて眠っていると
知らない誰かが撫でてくれた。

胸が高鳴った。

『もしかして、連れて行ってくれるの?』

けれどひとしきり撫でただけで
あなたは二度と来なかった。

お腹がひどく空いて
こまった。

ちょっとだけ身を乗り出して外を見る。
怖くて仕方なかった。

ある人がご飯をくれた。
嬉しかった。

満たされた気がした。

瞳が輝いた。

『もしかして、あなたが連れてってくれる人?』

しかし、それも長く続かなかった。

怯えながら外に出た。
食べないといけなかった。
探さないと見つからないと思った。

なぜか、生きなくてはいけなかった。


帰る場所を知らないから
四角の中に戻る日々。

ある日雨が降る。

四角は歪み
身体は冷え
震える。

諦めようとおもった。
もう。

諦めてしまうほうがいい。

誰も構うだけだというのなら
連れてってはくれないというのなら
このまま帰る場所を知らないというのなら
この世界にいったい
なんの価値があるのだろう?


でも
鳴いていた。
自分の力で鳴いていた。

鳴き続けて
歩き続けた。

その人は私にタオルケットをくれた。
その人は私にごはんをくれた。
その人は私の泣き声を聴き

遊んでもくれた。
撫でてくれた。
ボロボロなのも褒めてくれた。


少しだけ元気になった。


答えを知っていた。

きっと誰も連れてってはくれない。
それでも諦めてしまわないところまで
構ってくれた。

困った。生きれる。

気づけば体力も戻っていた。
気ままに出る外は悪くなかった。
怖かった雑踏もするりと抜ける。

傷は耐えないけれど
道行く誰かがくれる何かで
生き延びられる自分を知った。


そうすると今度は私を捕まえて
檻に入れたがる人が増えた。

とても窮屈で嫌だった。

『求めた帰る場所はこんなに窮屈だったの?』
絶望した。

逃げ出すのに時間がかかって
ヘロヘロになった。

街の中は皆が楽しそうなのに。
あの子には帰りたい場所があるのに。

どうしてこうも上手くいかない。

鳴けば
きっとまた気づかれてしまうから
私はそっと裏路地で鳴いた。

やはり鳴くのは辞めなかった。
ここに在るのだと鳴き続けた。


様々な街を見た。

日溜まりが心地良い場所

涼しく風の通る場所

ごはんをくれる人のいる場所

遊んでくれる人が来る場所  

私は沢山見つけた。

隠れられる場所もみつけた。

たまに雨で濡れるのも今はそう悪くない。
そう思う。

明日は美味しいものが食べられるかもしれない。それだけでよしとしよう。

傷ができないわけじゃないけれど

この生き方が
きっと好きなんだと
そう思う。


そして月日は流れて
今年も咲いた花に目を細めた。

お気に入りの場所に
懐かしいモノがあった。

ポツンと在る。
入っておいでと呼んでいる。

興味本位でスルリと入った。
それは懐かしい景色だった。
懐かしい匂いだった。
でもそれだけではなかった。

あの四角の空を
久々に見上げて
スルリと外に出た時に

『やはり
自由が一番だな。』


猫はそう思った。

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