見出し画像

英国のTPP参加は「TPPに拒否権がくる」という事だ。英国は、TPPの規定及び加入諸国が、国連安保理で経済制裁を受けそうになったら拒否権を使える常任理事国なので、TPPは用心棒(=英国)を得て壊滅しない経済圏となる


【英国】TPP加盟へ正式交渉開始 英国、アジア地域との関係重視

英国政府は22日、環太平洋パートナーシップ協定(TPP)加盟に向けた交渉を正式に開始した。トラス国際貿易相とTPPの輪番議長国を務める日本の西村経済再生担当相がオンラインで会談した。
欧州連合(EU)を離脱し、広く世界に貿易パートナーを求める英国は、成長性の高いアジア・太平洋諸国が参加するTPPを重視している。   
英国は2月にTPPへの加盟を正式に申請し、6月初めに加盟手続きが開始されていた。
トラス氏は今回、「TPP加盟により、英国が独立した貿易国家であり、自由で公正な貿易を支持する姿勢であることを世界に強力に示すことができる」とあらためて強調した。
TPP加盟国間では、輸入関税の95%が撤廃される。現在の加盟国は、日本とカナダ、オーストラリア、ニュージーランド、シンガポール、マレーシア、ベトナム、ブルネイ、メキシコ、チリ、ペルーの11カ国。  
英国は、アジア太平洋地域以外では初の加盟国候補となる。英政府は、「英国の加盟により、TPPは真にグローバルな自由貿易圏になる」とともに、加盟国の国内総生産(GDP)が世界経済に占める比率も13%から16%へと拡大するため、「この自由貿易圏の重要性を強力にアピールできる」としている。
【引用終わり】
TPPは純粋な経済圏であり、この意味では政治統合を目指すEUとは違っています。世界貿易機関のWTOの小型版のようなモノです。
1 WTO=世界貿易機関は、自由貿易の推進に失敗した
当初WTOは、「WTOの貿易のルールを守れば、関税などで優遇されます」という制度のはずでした。そして、途上国が「ルールを守れば発展できる」と実感して、ルールを自発的に守るようになり、世界は自由貿易によって発展するはずでした。
しかし、中国は「WTOに加入した後で、敗れる限りはルールを破る」という態度をとり続けて、自国経済力が強くなると「自国はルールを守らず、他国にはルールを守れ」と主張するようになりました。そして、多くの国々が中国の真似をするようになりました。
この結果、「WTOはルールを守る国が不利になる」自由貿易協定になり果ててしまったのです。
結果、WTOは「えげつなくルールを無力化できる」 = 不正が出来る国と人達が栄える狂騒の世界を作り出してしまったのです。
現に、WTOの不正が許される自由貿易によって、中国が栄えてしまった為に、「こんな不公正競争はまっぴらだ」と米中経済戦争が始まっているのであります。
WTOが不正を取り締まれないのは、「貿易のルールを守ります」と約束をしたのが国家で、「ルールを破るのが企業」だからです。この為に、「その国の企業がルールをどれ程破っても、その国をWTOから排除できない」ので、国と企業で結託すればWTOのルールは破り放題になるのです。
偶に、提訴されて裁判沙汰にもなっていますが、時間がかかりすぎますし、その国がWTOから追い出される事もないので、ルール破りに対する抑止力にはなっていません。
2 TPPをWTOの二の舞にしない為に、門戸を狭める。
今度こそTPPで「皆でルールを守る」事によって、自由だけれど、公正な競争原理が働くことで発展を促す、真の自由貿易圏をめざすのならば、「きちんと規定を守る国しか仲間に入れない」という態度を貫徹することが、肝要です。
具体的に言えば、WTOでルール破りの実績を作った中国と韓国、その他のルール破り常習国には門戸を開くべきではありません。
3 門戸を狭めるとTPPは、米中にとって目障りになる。
ただ、TPPが門戸を狭めておくと、米国や中国といったスーパーパワーから「目障りだ」と思われて、嫌がらせを受ける事は確実です。
TPP11が発足すると、米国の農家が日本市場で不利になるとして、米国内に不満が充満しました。この時には日米の貿易協議で米国産農産物の関税をTPPと同水準にする事で事なきをえました。
しかし、今後TPP11が順調に機能すれば、11ケ国の中での貿易が増加してゆく事は確実であります。というか、環太平洋諸国11ケ国の中でサプライチェーンが作られていくようになり、中国を中心としたサプライチェーンに置き換わってゆく事になります。
スマホが登場したらガラケーの使用者が減少したように、より良いモノ・より安全なモノが登場すれば、性能に劣る古いモノを支持する人が減るのは、自然な世の流れであります。
ただ、このTPPがもたらす自然な流れで不利になる中国 (+韓国)は、黙っていません。
まずは、WTOの時と同様に「自分達はルールを破り放題で利得を得よう」と考えて、TPP加盟を画策しますが、TPPに加入するには全加盟国が同意しなければならないので、中国と韓国の加盟はまず無理です。
日本の世論が嫌がるだけでなく、TPPに中国が加盟する事(=TPPが中国に乗っ取られる事)は、アメリカが絶対に許さないので、アメリカの同盟国である日・加・豪は反対します。
その後「TPPには入れない」と判断した後で、中国は「TPPを潰そう」を考えて、実行します。
例えば「台湾と断交すれば援助します」と言って、台湾と国交を結んでいた国を一国一国、断交させていったように、まずは、TPP加盟国のシンガポール、マレーシア、ベトナム、ブルネイ、メキシコ、チリ、ペルーと言った国々に、「有利な条件をぶら下げて中国との自由貿易圏に勧誘」し、それらの国々を通過させて、中国製品のロンダリングを図るでしょう。
また、WTOに対して、「TPPは排他的貿易圏だ」と提訴したり、究極の手段としては参加国の一国に難癖をつけて国連の安全保障理事会にかけて、(中国は常任理事国なので)「経済制裁をかけるぞ」と脅すようなこともできます。
いずれにしろ中国は、TPPが中国を不利にしていると判断すれば、内と外から潰そうとします。
そして、この時アメリカは、頼れません。アメリカにとっても、世界経済に占める比率が13%にも及ぶ巨大経済圏は「目障り」だからです。
TPPと同程度の経済力を持つ中国が、その経済力を背景としてアメリカ批判をするのに、怒り心頭に発しているアメリカであります。もう一つアメリカの向うを張る経済圏が出来るのが、嬉しいはずはありません。
4 英国はTPPを守護できる。
現在のTPP11はどうも外交的に頼りない日本が中心になっているので、アメリカに次ぐ世界で2番目の経済圏なのに、「目立たず、注目されず、発言権もない」状態です。固まり切らないゼリーのようで、米中二大経済圏から「目触りだから潰してしまおう」と狙われると、崩れてしまう弱さを持っています。
しかし、英国が加入してTPP12になれば、外側に薄皮が出来る様に守護されます。英国は国連の拒否権をもっている常任理事国なので、現実にTPP参加国を守れるのです。
国連の安全保障理事会で拒否権を行使できるという事はどういうことかといえば、自国も含めたある国の非難決議と経済制裁決議を止められるという事です。
だから、現在の国際社会では拒否権をもつ常任理事国だけが、武力行使をしても、国連でいかなる非難決議も受けず、国連からの経済制裁も受けずにいられるのです。
ロシアがクリミアを併合しても、国連はロシアの拒否権によって動きませんので、アメリカを中心とした1部国家がその国独自で経済制裁をかける事に留まっています。
フランスが、自由にちょこちょことアフリカに派兵するのも、英国がフォークランドを奪い返すために派兵できたのも、拒否権があるので自国を守れるからです。
中国がウィグルで何をしていようと平然としていられるのも、拒否権を持っているからです。
このように、拒否権をもつ常任理事国は、一部の国家が批判をしても、国連による制裁を受けずに済むので軍事行動もできますし、条約破りのようなこともできるのです。
ですから英国が参加するTPP12には、英国の拒否権という守りの力が働くので、他の常任理事国からの経済的・軍事的圧迫から多少は逃れられるのであります。よって、TPP12は純粋な自由貿易協定ではあっても、TPP参加国は、その御縁で、英国に庇護を求めて駆け込むことができるようになります。
EU加盟国が、EU (+フランスの拒否権)を頼りにするように、英国を頼れるのです。
英国は日本のように黙っている国ではありません。外交的に自分の身は自分で守れる国であり、自分がTPPの一員になれば当然ながらTPPを守ります。だから、加盟国にとっては、日本よりははるかに頼りになると思います。
5 日本の得意技は、加盟各国の意見調整である。
TPP11をまとめたのは日本ですが、日本の得意技は加盟各国の意見調整であって、リーダーは苦手です。
日本では、みんなの意見を聞いて → 意見調整をして → 物事を進めてゆきます。このやり方では、リーダーが「異論を許す」スタンスをとる結果、2つの状態になります。
1 内部で意見調整が出来ている時。
上手く物事が進んでゆく。ただし外から見ると何をやっているのかまるで見えない。
2 内部で意見調整が出来ていない時。
物事が進まない上に、内部の人達が好き勝手に発言するので、外から見ると「内部が混乱しているように視える」事です。
今の所TPP11は、日本が他の10ケ国の意見調整を図っていて、うまく物事が運んでいるのだろうと思いますが、だからこそ外から見ると何も見えないのであります。
そして日本型の「異論の言い放題」のスタンスなので、「先月、オーストラリアとマレーシア、ニュージーランドおよび恐らくその他の国の当局者が中国側とTPPの詳細について技術的な話し合いを行った」と 米国のブルームバーグ・ニュースが報道する事態となるのであります。
ハッキリ言うと、日本のリーダーシップは統制をとらないので、中国に内部から壊されやすくなるのです。
ですから、TPP12が成立したら、TPPの顔は英国に任せて、日本は得意の幹事役に徹したならば、「半世紀後には、TPPは大きく豊かに育つことができる」と、私は予測します。
6 英国と欧州大陸の哲学の違い。
日本ではあまり注目されていませんが、イギリスと欧州大陸国では基本となる哲学が違います。英国は唯名論哲学=現実主義の国であり、欧州大陸は大陸合理論哲学=理念主義の国なのです。中世の時代から何百年も論争しているので、英国が結局EU離脱に至ったのは不思議ではありません。
具体的にいえば、シェンゲン条約の「移動の自由の、理念は素晴らしい」としても、移民が増えすぎて社会に問題が発生すれば、現実主義の英国は「理念を捨てて現実的に対処する」ことを良しとします。
一方で理念主義の欧州大陸では「善なる理念の進行で現実に問題が発生しても、善なる理念に背くことは悪業だとして、そのまま続行する」事を良しとします。
7 唯名論哲学=現実主義の英国だから、日本・東南アジア・南米諸国との共生が可能。
NATO加盟国のトルコが長い間EU加盟を望んでいても門戸が開かれず、加盟をあきらめた結果、トルコ国内には反欧米キリスト教感情が立ち込めるようになりました。
なぜEUがトルコの加盟を認めなかったのかと言えば、EUの大陸諸国は「トルコとは (理念が違う) から一緒にやってはいけない」と、感じていたカラだろうと思います。
いわば、感情・感性の問題です。
しかし、あれこれと理想論をふりまわしても、その実は現実的で利得計算にたけた英国は、他国に対する時には理念を捨てて現実的に付き合う国です。
ドイツが中国に気を使っているのは、中国で儲けたいから (中国=お金様) と認識しているからであって、中国という国やその国民と付き合うつもりはさらさらないと思います。
一方で英国は、日本とも東南アジアとも南米とも、必要ならば付き合えるのです。というか英国は、A国とはこう付き合って、B国とは別の付き合い方をして、C国にはまた別で付き合うというやり方をします。だから、19世紀には世界中の千差万別の地域で千差万別の統治方法を使って、日の沈まない帝国をつくりあげたのでした。
自分達の植民地統治のやり方(理念)こうだから、世界中の千差万別の地域で同じやり方で統治しようとしたら、うまく行くはずはありません。相手は統治されたくないのですから、絶対にうまく行きません。
だから英国は、インドと南アフリカとマレーシアでは、別の統治方法をとりました。この土地ではこの方法なら何とかなりそうだという、それぞれ別個の統治方法を採用したのです。そして、どうもうまくいかない時には、諦めました。
理念に縛られていないから、英国は止める事・撤退する事もできるのです。
8 日本の調整力と英国の現実主義が生み出す知恵があわさればTPPは成功する可能性がある。
英国が加入してTPP12となれば、TPPは世界最大の自由貿易圏になります。
少し古い数字ですが、2017年の、経済圏のGDPは以下の通りです。
EU   13.6423兆ドル
米国  19.4171兆ドル
中国  11.7953兆ドル
ここで、TPP11のGDP11.3兆ドルと英国の2.64兆ドルの出入りで、GDP比較すると、
EU       11.0023兆ドル
TPP11+英国  13.94兆ドル になるので、TPP12はEUを拭き去って、世界一の自由貿易圏になるのです。
そしてTPP12は、EUとは違って、日本と、欧米キリスト教文明圏の国と南米型キリスト教文明圏の国と東南アジア系イスラム教文明圏の国と、シンガポールのような無神論の国と、国の理念が違う国々の集まりです。この国々がそれぞれの理念の違いに左右されることなく、話し合いによってよりよい経済関係を築き上げて共生してゆく事に成功すれば、それは世界にとって一つの見本を示すことになるような気がします。
つまり数年後には、世界経済を語る場で、
アメリカは「アメリカは……」と発言する、中国は「中国は……」と発言する、ドイツは「EUは……」と発言する、
英国は「TPPは……」と発言するようになれば、(=世界の巨大経済圏が3つではなく、4つになれば) 貿易競争・戦争も複雑になって アメリカも中国も威張りづらくなります。つまりTPPが、アメリカ・中国・EU以外の国々が(参加していなくても) 頼れる経済圏になるならば、TPPは世界の未来を明るくするのです。
即ち、19世紀に英国は、ただ一国自国の繁栄のために知恵を使いました。しかし今、21世紀を迎えて、その英国の知恵を人類の為に使って欲しいと私は願っています。
英国のTPP参加にあたり、私は英国の現実主義が生み出す知恵に大いに期待しておりますし、その中で日本の調整力が成功の鍵を握っているとも思いますので、日本政府と経済・外交当局には是非とも頑張って頂きたと思います。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?