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お空の上のKちゃん

月一回行っている訪問ミュージックケアでお友達になったKちゃん。今はお空の上で何をしているかな。オーシャンドラムを気に入ってくれていたKちゃんだから、海で遊んでるんじゃないかなって思ったりします。
今回はKちゃんとのミュージックケア、Kちゃんに教えてもらったことを書こうと思います。

今回のお話*****************************

■ Kちゃんとの出会い

■ Kちゃんとのミュージックケア

■ Kちゃんが教えてくれたこと

■ お空の上のKちゃんへ

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■ Kちゃんとの出会い

初めてKちゃんと会ったのは2021年の12月のオンラインミュージックケア。オフラインで初めて会ったのは2022年の1月。出会ってまだ9か月だったなんて。もっと前からセッションをしていたような気がしていたので、ちょっとびっくりです。

Kちゃんとどんなセッションができそうかな、どんなことが楽しめそうかな、って考えながら初めて対面した日。私がまず印象に残ったのは、ママの明るい表情でした。抱っこして「お腹をポンポン」をしたとき、楽器を鳴らしたとき、「元気に元気にゆっくりゆっくり」で足をゆらゆらしたとき、ママはいつも「楽しいねー!」「きれいな音だねー」ってKちゃんに笑いかけ、明るくリアクションしてくれました。その明るい表情、Kちゃんとコミュニケーションをとる様子に、「すごい」と思いました。私にはわからない、Kちゃんの顔色の変化、表情の変化、体調の変化をすぐに感じ取り、話しかけて、笑いかけて、医療的なケアもする。鼻につながった管を止めるテープには、ママの手書きのポチャッコが描いてあって、Kちゃんのお洋服はとってもおしゃれで似合っていて。私にとって初めて見るママとお子さんの世界。「すごい」という言葉が適切かどうかはわかりませんが、ママのKちゃんに対する愛情というか、Kちゃんに寄り添って、Kちゃんを大事に想う気持ちが溢れていて、「医療的なケアが大変」とかそんな言葉を超えたものを感じました。

同時に、その日の私には、Kちゃんの調子がいいのか、楽しめているのか、興味が無さそうなのか、どう感じているのかなんて全くわからなかったので、ママの明るさには本当に助けられました。私も早くKちゃんと打ち解けたい!、Kちゃんと一緒にミュージックケアを楽しめるようになりたい!と心から思いました。

■ Kちゃんのお気に入り

Kちゃんのお気に入りといえばこれ、オーシャンドラム。2回目のセッションで持って行って、大好きになってくれました。ジーっと目で追う様子に、興味をもってくれたんだな!ってうれしくなりました。

ビニール袋をポンポンたたくのも上手でした。ぽんぽん、シャカシャカ鳴る音や感触を気に入ってくれたのかなと思います。

毎回ママのお膝に座って、クルックルやお腹をポンポン、お星さまとアリサを楽しみました。ママの優しい手の感触を感じながら、元気にクルクルしたり、鈴を鳴らしたりしてくれました。

リボンを楽しむときには、Kちゃんはオーダーメイドのスーパーカーに乗って、リボンを振ってくれました。一緒に「ツバメ」を踊ったね。

フラップバルーンを楽しんだ時は、Kちゃんはママと一緒にバルーンの中に入って、にじいろの空を見上げながら一緒に「にじ」を歌いました。

■ Kちゃんが教えてくれたこと

9月、Kちゃんがお空に旅立ちました。すぐにKちゃんに会いに行けなかった私は、動画で歌とメッセージを送りました。そこで2つ感じたことがあります。

1つ目は、「いつも元気であることが当たり前」ではない方にとってのQOLの向上とは何なのかということです。

私は今特別支援学校で働いていますが、私が勤務する学校の生徒たちは、就職し、自立することを目標に頑張っています。長く働くために必要な力は何か、周りの人たちとよい関係を築き、よりよい人生を送るためにはどんな力が必要か、日々考えながら努力しています。この先も長く生きていくことが大前提です。また、私には二人の息子がいますが、彼らに対しても、幸せな人生を送ってほしいと願い子育てをしていますが、彼らも長い人生を送ることが大前提です。

今日も元気に過ごせたね、とっても体調がよくてうれしいね。元気なことが当たり前な生活を送っている私は、そんなこと考えたこともありませんでした。Kちゃんとミュージックケアをした9か月も、Kちゃんはちょっと調子が悪いことはあっても、いつも元気で、私はいつの間にか「Kちゃんが元気なのは当たり前」になっていました。

そんな中、急にお別れすることになってしまった。私はミュージックケアを通してKちゃんに何が届けられただろう。QOLの向上をめざしてやっていたセッションですが、KちゃんのQOLの向上になっていたのだろうか。今更考えても遅いかもしれませんが、「QOLの向上」について改めて考えました。

Kちゃんにとって、ミュージックケアの時間はどんなものだったでしょうか。手をクルクル回したり、体をトントンする時間。音楽を聴きながら足をゆらゆらしてもらう時間。いつも聴けない音を聞く時間。ふわふわの布や、シャカシャカ鳴るビニールを触る時間。これらを通して、ママと楽しむ時間。ママ以外の大人と関りをもつ時間。いろんな音や音楽を聴いて、いつもと違う感覚や気持ちを味わう時間。いつもとちょっと違う世界にいる時間。

子どもの世界は狭い、と、ある人がいっていました。本当にそうだなと思います。いくら大人がいろんなところに連れて行ったとしても、自分で行動できる範囲は狭いです。自分から関りをもてる人も少ないです。ましてやKちゃんのように、病気で思うように動けない、医療的な制限のあるお子さんは、より狭い世界で生きることになります。そんな時、「いつもと違う人と過ごす時間」「いつもと違う感覚や気持ちを味わう時間」「いつもとちょっと違う世界にいる時間」これってすごく重要な時間なんじゃないかと思います。これがまさに、私のミュージックケアでできる「QOLの向上なんじゃないでしょうか。私のミュージックケアでできるQOLの向上は、珍しい楽器を見せることでも、変わった音を聴かせることでもない。腕が動くようにすることでも、足の運動をすることでもない。いつも味わえない感覚や気持ちを感じ、いつもと違う人との関わりをもつ。いつもと違う世界を作り出し、Kちゃんと、Kちゃんの大好きな人と一緒に楽しむこと。そんな大切なことをKちゃんは私に教えてくれました。


二つ目は、非常に個人的なことなのですが、今回Kちゃんに向けて「うみ」と「にじ」を歌い、その動画をママに送りました。この二曲を歌ったとき、私は生まれて初めて「歌を学んでいてよかった」と心から思いました。ちょっと大げさにきこえるかもしれませんが、本当にそう思ったのです。

私は高校卒業後音楽大学に進学しました。ピアノがものすごく上手だったわけではありませんが、母の勧めで音大を受験しました。大学に入ってから声楽に出会い、4年間声楽を勉強しました。歌うことは大好きですが、声楽で何か賞を取ったわけでもなく、卒業演奏会に出たわけでもありません。すごく出たかったオペラの卒業公演のオーディションも落ちました。歌は好きなのに、自信は全くない私。ピアノもすごく上手いわけではない私。高い学費を出してもらって音大に進んだことについても、正直なんだか申し訳なく感じていました。卒業後は、仲間と作ったオペラのグループで活動していましたが、役になりきれない、歌を追求できない自分、実力のない自分が舞台に立つことに迷いというか、罪悪感のようなものを感じていた時期もありました。そんな私が、この時初めて「誰かのために歌う」ということができた気がしました。「歌をやっていてよかった」そんな気持ちになれたのは初めてで、こんな気持ちにさせてくれたお空の上のKちゃんに、心から「ありがとう」を伝えました。

■ お空のKちゃんへ

Kちゃん、今日もいたずらっぽい笑顔で、その長くてきれいな足で、たくさん走って遊んでいますか?きっと足が速いんじゃないかな、鬼ごっこをしたら最後まで捕まらない子だろうなって思います。Kちゃんのおかげで私はいろんなことを学び、Kちゃんに人生を豊かにしてもらいました。この学んだことを生かして、これからもたくさんの人たちとミュージックケアをしようと思います。がんばっている姿をKちゃんに見せていきます。お空のうえからちゃんと見ていてくださいね。まずはこのnoteをママに届けます。ママにちゃんと読んでもらってね。それではまたね。

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